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龍王様の迷宮探索記  作者: 夜桜
現世に降り立つ龍王
4/15

龍王様は異常です

「では最後にギルドから新人探索者様への応援セットをお渡しします」


そう言ってシアンが差し出した箱の中には赤い液体が入った小瓶が5つと青い液体が入った小瓶5つと腰掛けカバンサイズのポーチ、そして少量の硬貨が入っていた。


「こちらには最下級の回復ポーションと魔力ポーションをそれぞれ5つずつ、魔石やドロップアイテム回収用の小型なポーチ、そして500リルが入っています」


「む?そんなサービスがあったのか?」


登録したらはい終わりとなるものかと考えていたドラグスはギルドのこのサービスに少し面食らった表情となる。

ちなみにリルとはこの世界のお金の名称であり、1リル貨、10リル貨、100リル貨、1000リル貨がある。感覚としては日本円で言うと1リル=10円、10リル=100円、100リル=1000円、1000リル=10000円となっている。この上にもう一つ10000リル紙と言う物があるが、それは日本円に換算すると一億円程の価値となっているので、扱う機会はそうそう無いだろう。


「はい、ギルドとしても貴重なランクカードを使った探索者を簡単に死なすわけに行きません。なので新たに探索者になられた方には最初、このようにギルドから僅かばかりの援助をさせていただいております」


それでも簡単に死んでしまう方はいますがねと続けるシアンの顔は、無表情ながら僅かに陰りがあった。恐らく実際にそのような者達何人も見てきたのだろう。


(恐らくこの者は心優しき者なのだな)


ドラグスはそんな彼女の様子に何か言いたげになるも、まだ出会って数十分程度の自分に分かったような口をたたかれたくも無いだろうと判断して押し黙る。


「ではこれはありがたく頂戴する。これを受け取ったらもう迷宮の方に向かっても良いのか?」


差し出された道具類を受け取ったドラグスは少し落ち着かな気な態度でシアンに問う。少しでもシアンの纏う暗い雰囲気を和らげたかったのだ。


「いえ、もう一つだけあります」


思惑は成功か、シアンは一瞬纏った暗い雰囲気を霧散させてドラグスの問いに静かに首を振った。そして机の下 から何やらカタログのような物を幾つか取り出してドラグスの目の前に広げ始める。


「最後にこの中から一つ貴方様に合う武器を持って行ってください」


そう言って差し出してくるカタログに目を通すと、それぞれ剣、槍、弓、魔道器と言った武器が記されていた。

剣には片手剣や両手剣、短剣と言った種類の武器があり、槍には片手槍からシンプルな長槍、変わった物では両手にそれぞれ短めの槍を持つ両手槍とか言うのもある。弓は種類こそあまり無いが飛距離を伸ばす事を目的とした長弓に、動きやすさを重視した短弓や一撃の威力を高めたボウガンなどがあった。

そしてそんな中でも特に目を引くのが最後の魔道器と言う物だ。魔道器に分類されるものは総じてアクセサリーに似た形状やよく分から無いような形状をしており、パッと見ただけではどのようにして使うのか全く検討が付かない。


ドラグスは自身の記憶に無い魔道器と言う物に強く惹かれた。なので少し興奮気味に魔道器のカタログを手に取りシアンからの説明を求める。


「シアンよ、この魔道器とか言うのはなんだ?初めて見るのだが説明して貰えるか?」


「はい、この魔道器と言うのは近年になって発達した技術です。使用方法としては自身の魔力を魔道器に注ぎ込み、それを媒介にして辺りに攻撃を放ちます。特徴としては魔道器は総じて小型なので複数装備が可能な点と攻撃範囲の広さ、そして威力の高さです」


シアンはドラグスの質問に淡々と答える。


「ほう、ではこの魔道器とか言う武器は剣よりも力強く、槍よりも範囲が広いと言う強力な物なのだな。……にしてはここに来るまで魔道器を装備しているような者には出会わなかったような……」


ドラグスは魔道器の説明を受けて少し興奮気味になるが、今までの記憶を辿り魔道器を装備している者があまりにも少ないと思った。そんな強力な物ならばもっと普及していても良いと考えたからだ。


「それはこの魔道器のデメリットがメリットに対して余りにも合わな過ぎるからです。

魔道器はその特徴上、魔力を注ぎ込んでから効果が発動するまで一瞬のインターバルがあります。それは本当に一瞬ですが深層の方に生息するモンスター達を相手にする場合はその一瞬が生死を分けます。これを防ぐには常に魔力を注ぎ続けると言う方法がありますがそうすると今度は魔力の消費が激しく、肝心な時に魔力が尽き、魔力欠乏症に陥ってしまいます。それだけでも既にデメリットがメリットを上回ってしまっていますが、それに加え魔道器の攻撃は派手です。迷宮内のような薄暗い場所で使えばたちまちモンスター達を集めてしまう事でしょう。……以上の理由で魔道器を扱う探索者はほとんどいません。いたとしてもそれはいざって言う時にのみに使うだけ。言わば切り札のような物です。尤も大抵の探索者はそのような状況になる前に撤退を行うので結局魔道器は使われません。なので私個人の見解ですが魔道器は武器としてあまりお勧めできませんね」


ドラグスはふむ……と黙考する。


(確かに人族の魔力はこの世界に存在する生物の中でもかなり乏しい方ではあるな……シアンの言う事は世間一般の認識としては正しい……だが……)


「よし決めた。我の武器はこの魔道器と言う奴に決めた!」


生憎ドラグスは世間一般の認識には当て嵌ら無い。


ドラグスの魔力回復速度は異常に早い。


通常魔力は周囲に漂う魔素を取り込み回復を行う。しかしドラグスはそれを自身の体内のみで行う事が可能なのだ。ドラグスの体内で生成された魔力は瞬時にドラグスへと還元される。その量のほどは毎秒数万。魔道器が幾ら魔力の消費が激しいと言ってもそれは所詮は人族にとっての事。人族の持つ魔力は多い者で数千、魔法を得意とするエルフやハイ・エルフでも数万あれば畏れ敬われるレベルである。それだけでもドラグスは異常である事が分かるのだが、それに加えてドラグスには神力がある。神力はそのまま使う他に魔力に変換させる事も可能で、神力1につき魔力100程度の変換効率となる。そしてドラグスの内包する神力はおよそ1000万。自然回復速度が毎秒100。この世界も1日24時間周期なので、丸一日で神力は全体の9割近く回復する計算となる。事実上ドラグスの魔力は無限と言っても良い。他の高位の神々の平均は内包神力が100万〜200万程度で、回復速度は毎秒10〜20程度である。これを見てくれるとドラグスがどれだけデタラメな存在か分かって貰えるだろう。これがたった一人で全ての神々を相手取れると言わしめる龍王ドラグス・V・マグナートだ。そんな彼にとって人族を基準として作られた魔道器の一つや二つ何の問題も無く扱える。寧ろドラグスの魔力に魔道器が耐えられるかが心配だ。


「本当によろしいのですか?」


「うむ!」


そんな事などまったく知らないシアンはこの時初めて大きく表情を崩す。魔道器を選ば無いようにと魔道器の欠点を大々的に説明したのに、それを踏まえた上で魔道器を選ぶドラグスに驚きを隠せなかったのだ。


この短い時間話してみただけでも分かる。ドラグスは馬鹿では無い。いや、寧ろ自分よりも遥かに賢いだろう。纏う理知的な雰囲気もそうだが何より自分がした短い説明だけで既にこの大迷宮都市や探索者、そしてギルドについて深い理解を示している。そんな彼が自分の説明を聞いてなお、魔道器を選んだのだ。驚くなと言う方が無理な話である。


「分かりました……では魔道器をお渡しします。魔道器は人気が無いのでこのカタログにある全てのタイプがございます。どちらになさいますか?」


カタログにあるのは腕輪型に指輪型、ピアス型にネックレス型、そしてよく分から無い型。


(ふむ、魔道器とやらは複数装備出来ると言う話であるから、後の事を考えてたくさん付けられるタイプの物にしておくとしようかの)


ドラグスは無難に腕輪型を選んだ。理由としては単純に腕輪型の魔道器の装飾がかっこよかったからだ。


「取り敢えずこれにて私からの説明は終わりです。必要ならば直ぐにでも迷宮に潜って貰っても構いません」


「……」


ドラグスは選んだ魔道器を受け取り腕に嵌めながらその鋭い眼差しでシアンの顔をじっと見つめる。


「なんでしょうか?」


「その喋り方だ」


その視線に気付いたシアンが小首を傾げながら聞くと、ドラグスはシアンの口をビシリッ!と指差し告げる。


「??」


よく分かっていない様子のシアンにドラグスは諭すようにして話し始める。


「我は今探索者となった。と言う事は頻繁にここに来ると言う事だ。そしてその際向かう受け付けは少なくとも暫くの間は主の所となろう。それなのに会う度にそんな堅苦しい口調で話されるとこちらの調子が狂ってしまう。シアンよ、それが主の仕事だから仕方無いとは思うが、せめて我と話している時くらいは少し崩れた話し方をせよ」


曰く、龍界で何万年も王として君臨していたのだから人界でくらいそう言う堅苦しいのは止めてくれとの事。勿論口には出さないが。


「しかし……」


「しかしもかかしもない!我がそうせよと言っているのだから主が気にする事は何もあるまい」


少し上から目線からの言い方ではあるがどうやらそれが功を奏したようで、シアンは僅かに迷うような仕草を見せるが最後にはこくりと頷き、僅かな笑みを浮かべた。


「分かりましたドラグ様……いや、ドラグさんがそう言うのなら遠慮無くそうさせて貰います。とは言え、私の口調は元からこの口調に近いものなのであまり変わりませんがね。ですがせめて様付けは止めますね」


「なんだ元よりそのような口調であったのか。まぁそれならば良いわ。

では我はそろそろ行くとしよう。世話になったな」


ドラグスはシアンのその見た目通りのクールな返事に満足気味に頷くと、彼女の肩を軽く叩き、そのまま部屋の外へと出て行く。


「変わった人……」


シアンはドラグスに叩かれた肩に手をやり、ぼそりと呟きながら無表情な顔を僅かに破顔させ彼が出て行った方向を静かに見詰め続けた。

次はシアン視点での今話です

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