デート(?)・弐
「どらぐさんあそぼー」
「えー?どらぐさんきたのー?」
「あそぼあそぼ!」
「どらぐさーん」
食事を済ました後、行く当ても無く適当に街をぶらぶらと歩いていると街の子供達だろうか。男女半々の同じ歳くらいの子供達が集まっていた。
「おーお主らか。またここで遊んでおるのか?」
「うん!どらぐさん、一緒にあそぼー?」
その子供達はドラグスの姿を認めると、愛らしい動作でトテトテと走って来く。そしてあっと言う間にドラグスは子供達4人に囲まれた。
「ドラグさん、その子たちは?」
ヴィーチェルが聞くと、ドラグスは両肩に一人ずつ子供を乗せながら苦笑混じりに答えた。
「この街の子供達だ。何、先日ちょっと知り合ったのだが、どうも懐かれてな」
苦笑混じりではあるが、その声に嫌気は無く、ドラグス自身も子供達と戯れるのを楽しんでいるようでもあった。
「あれ?このお姉ちゃん達はだれー?」
「どらぐさんの彼女さん?」
「あー!私この人達見た事ある!探索者の綺麗なお姉ちゃん達だよ!」
「あ、僕知ってるよ!えるふそうるって言う人達だよ!パパがママに嬉しそうに話して怒られてた!」
ヴィーチェル達、森人の魂はその容姿の端麗さと若手の実力者として有名だ。まさか子供達にまで知れ渡っているとは思わなかったが、子供達は眼をキラキラさせて森人の魂達を見ている。有名な探索者はこの街の子供達にとっての憧れの対象らしい。
「か、彼女なんかじゃないのよ?そりゃ、ドラグさんはカッコいいし、他の男性探索者と違って私達をイヤラシイ目で見て来ないけど……って何言ってるの私!?……と、とにかく何でもないのよ!」
「あらあら、私達ってば意外に有名なんですね」
「ねー。子供達にまで知れ渡ってるなんて、少し照れくさいな」
森人の魂達が口々に言う中、ドラグスはいつの間に買ったのか、露店に売ってあるパンケーキを購入して来て子供達に配っていた。
「ほれ、これを食え。幼いうちは何でも食べておくのが将来強い大人になるための資本だぞ」
「わーい!」
「どらぐさんありがとー!」
「いただきまーす」
「ダメだよみんな、食べる前はまずきちんと手を合わせていただきますしないと!」
ドラグスが配ったパンケーキを嬉しそうに頬張る子供達。ドラグスはその姿を慈愛の笑みを浮かべながら眺め、「口にクリームがついてるぞ」と笑いながら拭ってやる。
「ドラグさん、子供達に人気だねー」
「そうですね。見てくださいあの子供達の表情。とても楽しそうですよ」
「ドラグさん、偶に宿にも迷宮にも居ない時があったけど、こんな事していたんですね」
「うむ。やはり子供は素直で純粋な生き物だ。我も少し癒されてしまったわ」
クハハッと楽しそうに笑うドラグス。
心から愉快だと笑うドラグスに森人の魂達もつられて笑顔になる。一人一人が見た者がおもわず二度見してしまうほどの容姿をしている美男美女が笑顔で子供を見守る姿に通りかかった人々はその足を止めて彼等の様子に見惚れる。
「むっ、結構時間を使ってしまったな。すまぬなお主ら、我はここらで行く」
「えー、遊んでくれないのー?」
「どらぐさん忙しい?」
「あそんでこーよー」
「ダメだよみんな。どらぐさんにも予定とかあるんだから」
ドラグスがそう告げると子供達は口々に不満の声をあげる。
「本当にすまんな。また今度遊んでやるから今日は我慢せよ」
そう言って一人一人の頭を優しく撫でて行く。その手つきはとても優しく、儚く脆いものを尊く愛でるようだった。
「「「「ばいば〜い、どらぐさーん!」」」」
元気良く手を振る子供達に微笑ましげに手を振り返しながらドラグス達は街を進んで行く。
「ドラグさん、次は何処行くのー?」
と、ソイルが尋ねる。
「うむ、次は迷宮近くにある巨大な店でも覗こうかと思っておる」
「そっか、ドラグさんってまだあそこを利用した事無いんでしたっけ?」
ドラグスの返答にヴィーチェルが目をキラキラさせて反応する。
「ヴィーチェルはショッピングが好きですからね。師匠、あそこに行くなら僭越ながら私達がご案内させていただきますよ」
アイラが微笑みながら告げる申し出に助かるとドラグスが頷くとヴィーチェルのテンションが更に上がる。
「じゃあ早速行きましょう!ほら!早く早く!」
「ぬおおっ!?」
ヴィーチェルが待ちきれないとばかりにドラグスの手を引っ張り全力疾走。華奢な見た目とは裏腹に彼女もCランクの一流と呼ばれる探索者だ。当然Cランクの能力補正を受けている。そうでもなければこの細腕で180cmあまりのドラグスを引っ張れる道理が無い。
当然ドラグスなら僅かでも抵抗すれば余裕で止まれるのだが、敢えて彼女の好きにさせている。どうやら子供のように目を輝かせて走るヴィーチェルに気勢を削がれてしまったようだ。
「ここです!」
走る事十数分あまり。迷宮から僅か数十メートルあまりの距離にあるこの場所は、この都市の中でも特に巨大な建造物が立ち並んでいる。一つ一つが本来の姿になったドラグスと同等かそれ以上に高く、それらの全てが人々の熱気と盛況な雰囲気に包まれている。
今もこれから迷宮に挑もうかと言う探索者や、逆に今しがた迷宮から帰って来た探索者がそれぞれ別の店へと入って行くのが見える。
「ここは複数の大手の生産系クランが運営しているお店です」
空へと聳える数多の巨大な建造物を驚いた表情で見上げていたドラグスにアイラが一つ一つ丁寧に説明をしてくれる。
「真ん中にある一番大きい建物が武器防具の作製なら右に出る者はいないと言われてます【奇跡の鍛治場】、そこから見て右手の方にあるサクスドワルゴンの店に見劣りしないあそこはポーションなどの薬品製作最高峰の【神秘の祭神】、サクスドワルゴンから見て左手のあそこは迷宮探索に欠かせない道具類の先人【迷宮攻略会】のお店になっています」
アイラが指差す場所を一つ一つ見て行くと、確かにそこだけは他と比べてとても巨大な建物になっていた。今挙げられた3つのクラン、サクセスドワルゴン、スクナヒコナ、迷宮攻略会、これらが現在ラビリンスにおいてそれぞれの部門のトップを走るクランだと言う。
「ふむ、なるほどなぁ……ところで、クランとはなんだ?」
「クランって言うのは、何人もの人が集まって出来たそれぞれのコミニュティの事だよ〜。実力、思想、趣味、その他諸々が近い人達が集まって出来るんだけど、これって結構迷宮探索においては大切なんだ〜」
ドラグスの疑問にソイルが元気よく答える。
クランとは、複数の人間が集まって構成されるパーティの大規模版の呼称だ。相違点は、パーティはその場限りの浅い付き合いから気の合う仲間達との固定と言った深い物と幅広く存在しているのに比べ、クランは一度入ったら永住する者が殆どであると言った事か。と言うのも、クランはそもそも入ることを決めた時点で自分にあった所を選ぶのが一般であり、自分にあった所を抜けてまで他のクランに入る意味が無いことにある。何せ、自分が好んで入った所をわざわざ自分から捨てることになるんだから。
クランには、入れば色々と融通が利くと言う利点はあるが、同時にクラン内のルールや雰囲気、それらを遵守する使命も負う。
探索者は大抵の場合何処かしらのクランに属しているが、それらの束縛を嫌い自らソロを好む者もいる。
「ほう、なるほどな。と言う事は主らもそのクランとやらに属しておるのか?」
ソイルの説明に頷きながら尋ねると、ヴィーチェル、アイラ、ソイルは同時に首を横に振る。
「私達は入ってないんです。このメンバーでのパーティが一番性に合ってると言うのもあるんですけど、やっぱりクランは自分達の探索者としての一生を左右する事になるかもしれないので慎重に選びたいんですよ」
「一応、幾つかのクランからお声掛けされてはいるのですが……中々私達の肌には合わなそうなところばかりで、未だに決めかねているんです」
「今のところ、【静寂の森】って言うエルフ族のみで構成されたクランが一番好待遇なんだけど、ルールがちょっとね……」
【静寂の中】とはこの街唯一のエルフ族のみで構成されたクランの名称だと言う。だが、そのルールはひたすらにエルフ至上主義思想を体現したもので、エルフ族以外の種族は神に見放された劣等種だと謳っているらしい。
「何だそれは。神々が一々種族によって格差を付けるとでも思っておるのか」
森人の魂達の面々からの話に、ドラグスは呆れたように息を吐く。実際の神は人族達が思っている以上に適当な連中ばかりだと言うのに。
(彼奴ら、ホント適当だからのう……今度舐めた報告しおったら一回シメてやるか)
ドラグスは定期的に行われる会議の場で顔を合わせる数多の神々の顔を浮かべて内心でもため息を吐く。
「それより早く行きましょう!ショッピングでもウィンドウショッピングでも何でも構いませんから!」
そんなドラグスの内心など微塵も知らず、ヴィーチェルが急かすように腕を引っ張って来る。
「やれやれ……せっかちな奴だ」
言葉とは裏腹に何処か楽しげに笑うドラグス。
ドラグスはヴィーチェルに引っ張られるがままに、目の前の大きな店に入っていく。




