表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍王様の迷宮探索記  作者: 夜桜
異形なる生物達の宴
14/15

デート(?)

お久しぶりです(汗)

早朝の涼しい時間帯。大迷宮都市ラビリンスのギルドにて、集められた者達はギルドから齎された情報に動揺していた。


今朝方、ギルドを訪れたCランク以上の探索者達がギルドマスターであるガイア直々に呼び止められてギルドの大会議室へと連れて行かれ、衝撃的な話を聞かされた。

曰く、迷宮の70階層にてギルドですら認知されていない異形のモンスターが現れた、と。


ギルドが作られ、この都市が大迷宮都市と呼ばれるようになってからはや数百年。長い年月をかけて320階層まで攻略されたこの場所までに、それまでに一度も発見された事が無いモンスターなど最早いないと思われていた。しかし今日、これまでの常識を嘲笑うかのように、新たなモンスターが発見された。それも、一体二体ではないと言う。


集められた者達は皆が皆、互いに顔をみ合わせ、その顔も一様に驚愕に彩られていた。ただ1人、ドラグスを除いて。


「つまり貴様等はギルドは我等にそのモンスターを倒して来いと言いたいのだな?」


その者の不遜な物言いに集められた探索者達は一瞬動揺を忘れてその者へと視線を向ける。


「ああ、その通りだ。情報によれば件のモンスターが発見されたのは70階層らしいからな、ここに集めた者はC〜Aランクの探索者達だ。お前達でこのモンスターを討伐して来て欲しい」


「ふむ、それならそうと早く言えば良いのだ。長々お余計な話をする必要は無かろうに」


ドラグスは、壇上で説明を行っていたガイアに溜め息を吐きながらそう告げると、サッと身を翻して部屋の外へと向かって歩く。


「何処へ行くつもりだ?」


「決まっておろう。そのモンスターとやらを倒してくるのだ。主等も早い方が良かろう?」


ガイアが呼び止めると、ドラグスは顔だけをそちらに向けて、何か?とでも言うように答えた。


とんでも無いことを何の気負いも無しに言うドラグスに、ギルド職員も探索者達も一様に言葉を失う。


「……これはお前達全員に対するギルドからの依頼だ。Cランクに成り立てのお前だけで何が出来ると言う」


言葉こそ厳しいが、その声に覇気は無く、寧ろ「やっぱりか……」という諦観の念が窺える。


「逆に聞こう。我に出来ぬ道理とはなんだ?」


「……はぁ……何でもない。だがこれだけは頼む、せめて他の者達と共に行ってくれ。此方にも体裁と言うものがあるんでな」


「うむ、心得た」


「あ、待ってくださいドラグさん!」


「あはは〜♪やっぱりドラグさんおもしろーい♪」


「師匠、お待ち下さい。あっと、皆様お先に失礼致します」


ドラグスの返しに【破刃な流星】達との一面を見ていたガイアと、一部の職員は何も言えなくなる。

そんな者達の気持ちなど露知らず、ドラグスは意気揚々と大会議室から去って行く。

その後を森人の魂(エルフソウル)達が追いかけて行き、それらを見送ったガイアは、内心頭を抱える。


(はぁ……あの男はなんて自由奔放なんだ……)


だがその実力は疑いようも無く、シアンから齎されるドラグと言う探索者の情報は常軌を逸している。


(登録たった二週間でCランクまで上がるなんて常識外も良いところだ)


しかもDランクまで上がるのにかけた時間に至ってはほんの数日だと言う。最早苦笑いしか出て来ない。


(その上報告によればその内の一週間は街中で子供達と遊んでいた姿が良く目撃されているって言う。遊びながら二週間でCランクなど、一体一回の探索でどれだけのモンスターを狩っていると言うのだ)


ガイアは部下にドラグの情報を優先的に回してくれと頼んでいた。それにより出た結果がこれだ。ギルドマスターとしては最早放っておくわけにはいかない。


「あー……まぁなんだ、さっきの男に言った通りこれはギルドからお前達に対する依頼だ。何か出鼻を挫かれた感が激しいが、取り敢えず頼むぞ」


ガイアの疲れが滲み出る言葉に探索者達も何処か気が抜けたような声で返事をし、ぞろぞろと大会議室を後にする。


***


ギルドを後にしたドラグスは、周囲に森人の魂の面々に囲まれながら和気藹々と街中を歩いていた。


「出る時に聞いたのですが、作戦の決行は明日の朝との事です」


「むぅ、面倒だな。我ならばさっさと行ってさっさと帰って来れるものを」


「ダメだよドラグさん。ドラグさんが強いのは知っているど、探索者である以上ギルドの体裁は守らないと」


アイラが教えてくれた情報にドラグスが不服そうに口を尖らすが、ヴィーチェルに窘められてがっかりと肩を落とす。


「まぁまぁ、ドラグさん。せっかくなんだから今日は一緒に遊ぼうよ!」


ソイルがドラグスの手を引っ張りながら笑顔であちこちの店を指差す。


「むぅ、それを言われると何も言えぬ……そうだな、どうせなら楽しく暇を潰すとしよう!」


だが即座に立ち直り、ソイルの提案に乗っかる。永い時を「ミドガルズオルム』で過ごしたドラグスにとっては、この世界の全てが新鮮であり、それらを見て回ることだけでそれは至福の時となるのだ。

暇な時は街を散策するのが、ドラグスの今の楽しみの一つである。


「やったぁ!デートだデート♪」


「デ、デート!?」


「あらあら、デートなんていい響きですね」


はしゃぐソイルと動揺するヴィーチェルと落ち着きのあるアイラ。三者三様の反応を示す森人の魂達をみながらドラグスは首を傾げる。


「でぇととはなんだ?」


そんなドラグスの呟きは周囲の喧騒に飲まれ、誰かの耳に届く事は無かった。


***


「ドラグさんドラグさん!あそこ行こうあそこ!」


「これこれ、そんな引っ張るでない」


ソイルに手を引かれて街を小走りするドラグス。ソイルが差すのは数十メートル先に見える一軒のお洒落なお店であった。


ここ数週間でこの街に来たばかりのドラグスとは違い、この街での生活の時間が長い森人の魂達はその分この街の地理に聡い。そのため、行く先は完全に彼女達に任せる事にしていた。


「ソ、ソイル!あそこってもしかして……」


「あらー……流石に少々恥ずかしいですね……」


どうも二人の様子がおかしい。そう気付いたドラグスはソイルが向かっているお店の方へと視線を向けてみた。


「ラブブースト・カフェ?」


看板に書かれていた名前は「ラブブースト・カフェ」。

カフェにしては少々変わった名前だなとドラグスが思っていると、隣にいたヴィーチェルとアイラが顔を真っ赤にして俯いていた。


「む?どうしたのだ二人共。まるで茹でたクラーケンのような顔になっておるぞ」


因みにクラーケンとは古から災害危険指定生物とされる凶悪なモンスターで、現れたらSランク以上の探索者を総動員して多くの犠牲が出る覚悟で討伐をするような存在である。だがその肉は非情に美味であり、定期的にある神々の集まりでも偶に出される程の代物なのだ。

蛇足だが、ドラグス的にはシンプルに茹でて軽く塩や醤油をかけて食べるのが好みである。


「茹でられたクラーケンなんて見た事無いんですが……」


「いや、ちょっとあの店は私達には敷居が高いと言うか……」


「なんだ、金の心配なら要らぬぞ?これでも我は相当稼いでおるからな」


「いえ、そう言う意味では「着いたよー♪」……もう遅いですね」


アイラが説明をしようと口を開いた時、ソイルの悪魔の声が耳朶を叩いた。

ヴィーチェルとアイラにとって、普段は明るく元気で気持ちの良い声であるソイルの声が今ばかりはとても腹立つものに聞こえた。


「よくわからぬが、ついたならば早速入るとしようではないか。この店は我としても非情に興味深い。面白い名をしておるからな」


「アイラ、覚悟を決めよう……」


「そうですね……もうここまで来たら帰る方が恥ずかしいです……」


「さー入ろー♪」


意気消沈のヴィーチェルとアイラに、元気溌剌のソイル。そして空気を読めないドラグスは、四人揃って店の敷居を潜った。


「いらっしゃいませカフェ・ラブブーストへ!!」


入った瞬間、仄かなピンク色の内装と何処か甘ったるい香りがドラグスの瞼と鼻孔をくすぐる。

同時に耳を貫くような大音量の女性的な声が奥から響き、彼等は思わず耳を塞ぎそちらへと視線をやる。


「はわっ!?男性1人に女性3人!?そこはかとなくドロドロした景色が見えますぅ!!」


そこにいたのはピコピコ動く兎耳を頭から生やした亜麻色の髪をした少女であった。

年の程は16〜18歳のように見え、自己主張の激しい胸が彼女の動きに連動してどたぷんと揺れている。

その巨大な胸に変形させられて読み難いが、胸の辺りに「Love Boost」とロゴの入ったエプロンを着ており、彼女がこの店の店員であるという事を示していた。


「お主声が大きすぎるわ……」


「はわわっ、す、すみません!つい興奮しちゃって!」


ドラグスが思わずツッコムと、その女性は慌てた様子でドラグス達に頭を下げる。ただし言葉とは裏腹に声の音量に変わりはない。


「それではお席にご案内しますぅ!!」


彼女に促されて進んだ店内は何処も個室のような作りになっており、時折その個室の中から男女が楽し気に談笑している声が聞こえていた。


「お席はこちらになりますぅ!ご注文がお決まりになりましたら置いてあるベルを鳴らして下さい!!」


「う、うむ、了解した」


席の場所は、店内の通路奥付近左の個室だった。

個室の広さは4人にしては中々のもので、ドラグスが横になっても人1人分くらいの余裕がある。

一際耳の良いドラグスは彼女の声の大きさに苦悶の表情をしつつ、彼女の示す席へ着席すると、そこにすかさずソイルが隣に座り、その様子に苦笑を漏らすヴィーチェルといつもの通りのほほんとしたアイラが向かいの席に座った。


「ではおくつろぎください!!」


少女はそう言うと、個室の扉を閉めて自分の持ち場に戻って行った。

ドラグスは遠ざかる足音を聞きながら疲れたようなため息と共にメニュー表を開いた。


「なんだこのメニューは?」


そこに記されていたのは大き目のグラスにハートを象ったストローが刺された『カップルドリンク』なるものであり、そんな物を見た事も聞いた事も無いドラグスは困惑の表情でメニューを捲っていく。しかしいくらめくってもそこに書かれている物は全て『カップル〜』や『ラブラブ〜』と言ったふざけた名前の物ばかりであった。


「はぁ……やっぱりドラグさんは知らなかったかぁ……ここは男女の組み合わせ、所謂カップルで来た人達のみが入る事が出来るお店なんだ」


「そのため、そちらに書かれているメニューも大半がカップル専用です。男女で仲良く同じお皿の同じ食事を食べる。そうすることでその方々の距離を更に縮めよう、と言う意味でラブブースト・カフェと言う名前なんです」


「まぁとてもお節介なお店だよねー。でも料理はとても美味しいって評判だし、一度食べてみたかったんだー♪」


ヴィーチェルとアイラが僅かに顔を赤らめながらこの店の説明をしてくれている横で、何時の間にかソイルはメニューを捲って美味しそうな物をピックアップしていた。


「ふむ、確かにそれは中々ユニークであるな。今の人族も面白い事を考えおる」


「今の人族?」


「む、いや、何でもない気にするな。それより我は腹が減ったぞ、このカップルステーキ?と言う奴はどうだ。中々食い応えがありそうで美味そうだぞ?」


思わずポロっと出してしまった言葉に少々焦りながら丁度開いていたページに書いてあった商品を指差し誤魔化す。


「そうですね……どうせ来てしまったのですから折角なので食べて行きましょう。このお店に来る機会なんて中々ありませんしね」


「そうだね……アイラの言う通り、折角の機会だし私も食べて帰りたいかな」


「このラブラブオムレツって言うの美味しそー!」


その試みは上手く行き、何とか彼女達の意識をメニューに移す事に成功した。


その後、数分かけて全員がメニューを選び終え、テーブルに備え付けられているベルを鳴らすと、ものの数秒でさっきの女性がやって来た。


「はい!ご注文はお決まりでしょうか!?」


先程同様騒がしい彼女だが、意外とその仕事は丁寧で、ドラグス達がした注文の更に細かい注文までただの一つとして雑になる事なく対応をしてくれた。


「はい!それではお持ち致しますので少々お待ち下さい!!」


そう言って去って行く少女を見送り、ドラグス達は思い思いにくつろぎだした。


「このような店で食事をするのは初めてだから、どんな物が出て来るから楽しみであるな」


「あれ?ドラグさん初めてだったの?」


「そうですね、一度も喫茶店に入った事が無いと言うのは珍しいです」


「まぁ、私達も里から出るまで一度も無かったので似たようなものだけどね」


「む、そう言えばお主達はまだ里を出て浅いと言っておったな。食事を待ってる間は暇だから、良かったらお主達の事を聞かせてはくれぬか?」


ふと呟いた言葉から発展して行った話題はいつしか森人の魂達の過去の話題になって行き、やがてこの世界に伝わる伝説の話題になっていった。


「昔と言えば、まだ私達が幼い子供だったころ里長から聞いた話なんですが、かつてこの世界を救済された龍神ドラグス・V(ヴァースキル)・マグナート様はこの世界の創造もなされた偉大なる御方で、人類全体に広がってる御伽噺があるんですが、我々エルフ族に伝わる物だけは他の種族と少し違うらしいんです」


「あ、それって世界を創造した龍神は実は二人いたってお話ー?ボクあのお話大好きなんだー♪かっこいいよねー」


「双世龍伝の事?確かにあれは面白かったよね。あの話を聞いてからは私も二人の龍神に憧れたなー」


「確か、【創世の刻。創造の祖龍は二人で天を舞い、空を創り地を創り、そして海と草木を創造せし。

いと気高き黒の龍は万物の形を創り、いと尊き白の龍は命を創る。全てを創造せし双龍は世界を管理する神々を生み出し、再び空へと飛び去った】みたいな感じのお話でしたね」


「うひゃーよくそんな部分を覚えてるねアイラ。ボクが覚えているのは【破滅の刻。黒き龍は背に神々を従え地へ降り立ち、白き龍は背に人々を乗せ破滅から逃がさん。神々を従えし黒き龍は襲い来る破滅から世界を護り、白き龍と共に人々へ加護を与えて空へと飛び去らん】って所かなー。かっこいいから!」


「私が覚えてるのも二人と違うね。

【再生の刻。破滅によって疲弊した世界に降り立つ二人の龍。黒き龍の放つ光は腐敗した大地を死滅させ、白き龍の放つ光は大地を再生させる。二人が起こす破壊と再生に不要な物は死に絶え、必要なもののみが残りたる。二人の龍は七日七晩で世界を再生させ、彼方の空へと飛び去った】って奴かな」


「ほう……今はそう言う風に伝わっておるのか」


ぼそりと呟いたドラグスは、己の知る真実と現在伝わっている伝説の違いに内心僅かに驚いていた。


自分の事が世界中に伝わっているのは知っていた。時折来る連絡でシグマ達がドラグスの伝説が現在どう伝わっているのかなどを非常に気にしていたからだ。だが、まさかもう一人の龍神(・・・・・・・)の伝説がまだ残っていたとは。


(創世の刻と言うのは恐らく我とアイツ(・・・)がこの世界に初めて降り立った時の事であろうが……真実は我等は元よりあったこの世界を整えただけで、世界自体を創造した訳では無いのだがな。それに破滅の時と再生の時か……。

懐かしいな、あの時は我も流石に肝を冷やした。まさか数千年もずっと大人しかった龍脈がいきなり暴走を起こすとは、我もアイツ(・・・)も予想だにもしておらんかったわ。あの後、暴走する龍脈を止めるために連れて来た神々から大量に文句を貰ってしまったから、責任取って二人揃って必死に暴走の傷跡を直して回っておったが、まさかそれまで伝説扱いされておるのか)


ドラグスは自身の失態までもが伝説として伝わってる事に少し気恥ずかしさを覚える。

龍神は二人いたと言う伝説は今や世界から失われているはずの話であったのだが、まさかまだその伝説が生き残っていて今も新たな世代に語り継がれているなど、思いもしなかった。


(長寿のエルフだからこそ、情報の劣化が遅く、古くからの伝説がまだ残っておるのかもしれぬな)


ドラグスはエルフと言う種族の特徴に内心納得をし、いつかエルフ族達の里へと行ってみたいものだと思った。


「ふむ、中々面白い話であったぞ。良い時間潰しとなった。そろそろ食事も来るだろうから食事にしよう」


ドラグスの嗅覚と聴覚は此方に向かって来る店員の少女の足音と料理の音を感じ取っていた。そして間も無く、個室の部屋にノックがされ注文品を積んだお盆を両手と兎耳に持った少女が現れた。


「ええっ!?そう運ぶの!?」


両手と頭に生えた兎耳で器用に食事を運ぶ彼女の様子に、森人の魂達はいつに倒れるんじゃないかと気が気でない様子だ。ドラグスもいつ落ちて来ても無事にキャッチ出来るように意識を集中させている。


「お待たせしました!ご注文のお品です!!」


だがその様子とは裏腹に少女の安定性は尋常でなく、兎耳に乗った食器は落ちるどころか、ピタッと停止したまま僅か足りとも動かない。


「ごゆっくりどうぞ!!」


そして何の危な気も無く注文品を全て並べ終えた少女は、何事もなかったように部屋を後にしていった。


「凄かったね、あの人……」


「うん、正直ボク絶対に落ちると思ってた……」


「兎の獣人族って耳にも凄い力があるんですね」


「いや、そのような事は無いはずだ。あの女子(おなご)が特殊なだけであろう」


しばし呆然となったドラグス達だったが、食事が冷めてしまうと言うドラグスの一言で各々頼んだ商品に口を付け始めた。


「ほう、よく味が染みておる。これ程のボリュームがあっても飽きずに食べ切れそうだ」


「そうですね、一つ一つが大きいからこそ食べ終わるまで飽きない工夫がされています」


「オムレツ美味し〜♪」


「使ってる素材は何かな?この風味を出せる食材となると、どんなモンスターの卵?」


皆思い思いに頼んだ料理を感想を述べながら幸せそうに食べている。ドラグスはそんな少女達の様子にを父のように微笑みながら見ており、その空間はまるで一家の団欒のようであった。


「うーん……この卵、ほんとなんの卵だろう?私達でも入手出来るかな?」


ヴィーチェルは自身の頼んだ料理の食材が気になるらしく、何度か口に運んではその度に頭を捻っていた。


「ふむ、どれ」


「え///」


「「あっ」」


見兼ねたドラグスがパクッとヴィーチェルの持つフォークに刺された料理に食いついた。


「これは、多分デミコカトリスの卵だな。コカトリスと言う種族の中では下位の方だが、モンスター全体で見れば中々上位こモンスターだ。実に良い食材であるぞ。

因みにコカトリス種の中で最も強いのが、ガルダトリスと言うモンスターなのだが、其奴は稀にクラーケンクラスのモンスターにも襲い掛かる事もある非常に好戦的な種族だ。だがその卵は絶品で、一個買うのにも数千リルはするだろうな」


顔を赤面させているヴィーチェルに気付かず、ドラグスは食材の解説を行い出す。隣と前からはソイルとアイラが何かを言いたげにドラグスへと視線をやっていたが、解説好きなドラグスは解説に夢中で一切気付かない。


「い、いや、そんな事より今……」


「む?もしや嫌だったが?それはすまぬな、詫びと言ってはなんだが我のステーキを一切れやろう」


ヴィーチェルが赤面しつつドラグスに声をかけると、ようやく解説をひと段落させたドラグスがあろうことが、今度は自身の料理をヴィーチェルに差し出した。完全にアーンの様相である。


「あ、あの……い、いただきます///」


「し、師匠!このサラダも絶品ですよ!」


「ボクのオムレツもいい卵使ってるよ!」


「む、むぅ?」


二人の劇的な反応に少々戸惑いながらも差し出された食事を口に含むドラグス。


「ふむ、この野菜は黄金キャーベツと白銀レッタスだな。独特な食感は間違えようが無い。それとこのマトマはスクリームマトマと言う植物型の魔物だろう」


次いでソイルのを食す。


「この卵はデミコカトリスで変わらん。だが、同時に感じる仄かな香辛料はシャインペッパーとダークペッパーだな。珍しい物を使ってあるが、その香辛料がこの食事の味を引き立てている」


ドラグスは口元を拭きながら満足気に語る。

意外とグルメなこの龍王様は食事こそ最大の楽しみだ!と言い、この世界の数多の食材に精通している。


食事について語る彼の姿は非常に輝いていた。


己の得意分野を語る時に得意気になるのは人であっても龍であっても変わらないようだ。


三人はしばしの語らいを交えながら美味な食事に舌鼓を打った。


今回の更新の際、活動報告のミニコーナーにドラグス様が起こしてになっております。是非ともそちらもご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ