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龍王様の迷宮探索記  作者: 夜桜
現世に降り立つ龍王
11/15

偉大なる父

「ねーねー、ドラグさん、どうしてミハエルさんにあんな対応したの?」


夜の喧騒が行き交う街中を時折出店での寄り道をしながら帰っていたドラグスと森人の魂(エルフソウル)

そんな中ソイルが今しがた出店で買ったリンゴのような果実を頬張りながら唐突に切り出した。


「む?なんのことだ?」


ドラグスは果実とは反対の手に持っていたお酒のような飲み物を煽りながらすっとぼける。


「そんなこと言って、ドラグさんの方こそ隠す気全く無いよね」


そんなドラグスの姿にヴィーチェルが微笑みながら会話に混ざって来る。

ヴィーチェルの言葉は迷宮からの帰り道にドラグス自ら普通に話してくれて構わないと言った為、以前までの敬語を使った言葉遣いを止めて、仲間と話すような砕けた感じにしてもらっていた。


「ククッ、まあの……だが何故我のあの行動がわざとだと?」


ヴィーチェルの指摘にドラグスはニヤリと口角を釣り上げながら答え、彼女達の考えの続きを促した。


「まだ短い付き合いですが、ドラグさんの性格は大体理解しましたから」


それに答えたのは丁寧な動作で果実を食するアイラであった。


「ほう?では聞かせてもらおうか」


ドラグスはニヤニヤと面白いものを見るような表情で森人の魂達の推理に耳を傾ける。


「だって、ドラグさんなら例え嫌いなタイプの人であっても初対面であんな事しないでしょ?相手がどうだろうと取り敢えずは話を聞くタイプだと思うんだー、僕は!」


ドラグスの問いに答えたのはソイルであった。元気良く手を振り上げながら答える姿には小動物染みた愛らしさがあり、その愛嬌は龍神や神王とまで呼ばれるドラグスをしても思わず口角を緩めてしまうほどであった。

ドラグスは緩めた口角をすぐさま元に戻し、ニヤニヤとした笑い方を続ける。


「私達の考えとしては、ドラグさんはミハエルさん達に何かを感じて、試すために敢えて好戦的に出た……って感じなんだけど、どうかな?」


そしてヴィーチェルの疑問系ではあるものの、確かな確信を持った言葉が決定打となり、ドラグスはついに声をあげて笑い出した。


「クククッ、クアーッハッハッハッ!いや、見事見事!大正解だ!中々鋭いでは無いかお主達も!」


夜であると言うのに大声で笑うドラグス達に向けて、周囲にいる人々からは変なものを見るような視線が浴びせられるが、ドラグスはそれを歯牙にも掛けずとても愉快だとばかりに笑い続けた。


「ふぅ……いやー笑った笑った。やはりお主達は愉快よの。そうだ、全てお主達の言う通りだ。我はわざとあの者達に喧嘩を吹っかけた」


「あれは凄かったなー。まさかドラグさんがあそこまで強いなんて、何度目かわからないくらい驚いたよ!」


「そうですね……【破刃の流星】はこのラビリンスでも屈指の実力者パーティなのに、それを一人で圧倒してしまうんですもの。ソイルじゃありませんが、本当に驚きました」


「うんうん!それで、どうしてドラグさんはミハエルさんを?」


ヴィーチェルやアイラは先程のドラグスと【破刃の流星】との間でおこった戦闘を思い出しながらドラグスの強さに感服し、ソイルは早く答えが聞きたいとばかりにぴょんぴょんと跳ねながらドラグスへと体重を乗せて寄りかかる。


「おっとと、ソイルよ、元気なのは良いが転ばないように気をつけるのだぞ」


ドラグスはそんなソイルを難なく受け止め、優しげに微笑みながらソイルをしっかり立たせる。


「はーい!」


ソイルは素直に従ってきちんとして足取りでドラグスの横を歩きつつも、キラキラとした瞳でドラグスを見上げている。その瞳からは純粋な好奇心が醸し出されており、ドラグスにしても思わず苦笑を漏らしてしまう。


「まったく、しょうのない奴だ。さて、何であったかな……ああ、そうそう、我が何故あのミハエルとか言う者を試したかと言うことであったな」


ドラグスは飲み物を一口煽り、語り出した。


「お主等は神器と言うものを知っておるか?」


「確か、神々の力が宿った特殊なアイテムでしたか?」


ドラグスの問いにアイラが答え、ヴィーチェルとソイルもうんうんと頷く。


「そうだ。正確に言うのならば、”神々の力が宿った意思あるアイテム”と言う感じであるが、まぁ特殊なアイテムでも間違ってはおらんな」


「道具に意思があるってこと!?そんな話聞いた事無いよ!?」


「む?そうなのか?なら覚えておくと良い、神器とはそう言うものなのだとな」


ドラグスの説明にヴィーチェルが悲鳴のような声を上げる。見ると、アイラやソイルも初耳だったのか目に見えて驚いていた。


「続けるぞ。意思があると言う事は神器にも人と同じ好き嫌いと言った好みがあると言う事。まぁつまり、神器は自らの意思で人を選ぶと言う事だ。それが分かれば良い」


ドラグスはそんな様子の森人の魂達の様子を横目で見ながら、更に一口飲み物を煽りながら続けた。


「神器は自らの意思で使い手を選ぶ。そして選ばれた者は得てして特別な運命を背負う。それは神器がそう言う者を見分け、好んで主とするからだ」


喉を通る涼やかな感触に満足そうに頷きながら、ドラグスは森人の魂達の方へと向き直った。


「まぁここまで話せば察するであろうが、あのミハエルと言う男は神器を持っていたのだ。だから我はあの男が神器を扱うる器であるのかどうかを確かめるため、わざと揉めるような言い方をしたのだ」


そこでドラグスは少し言葉を区切り、自分の言葉に興味津々と耳を傾ける森人の魂達を見渡してから言葉を紡いだ。


「神器に選ばれたからと言ってその者が待ち受ける運命に打ち勝てるとは限らぬ。あくまで神器はそう言う運命が待ち受けている者を見分けて力を貸すだけであり、実際に立ち向かうのはその者自身なのだからな。

我があの男を試したのは、あの男……ミハエルと言う名だったな。ミハエルにその力があるかどうかを確認したかったからだ」


ドラグスは最後まで言い切ると、森人の魂達に合わせて下げていた顔を上げ、いつの間にか着いていた「勇者のやすらぎ亭」の扉を開け、中へと入って行った。森人の魂達も彼に続き中へ入ると、丁度ドラグスがカウンター近くにある席に腰を下ろしているところであったので、彼女達もその席へと向かい、ドラグスの周囲に腰を掛けた。その顔はまだ疑問を残しているようであったので、ドラグスは他に質問はあるかと問いかけた。


「先程の続きですが、ドラグさんは何故そのような事を?あの、こう言ってはなんですが、ドラグさんからしたらミハエルさんの運命などどうでも良い事でしょう?」


アイラの問いかけにドラグスは苦笑しつつまぁのと、一言呟いた。


「アイラの言う通り、我からしたらあの者の運命などどうでも良い。しかしな、せっかくの神器に選ばれる逸材なのだ、要らぬ世話の一つくらい焼きたくなるわい。それにどうせなら、神器に選ばれる程の者の実力がどの程度のものか試したくもあったしの」


ドラグスはカラカラと笑いながらそう答えた。


「まぁ、要は我の戯れってだけなのだかな」


「ふふっ、それで納得です。ドラグさんもやはり男の方ですね。あまりにも大人びていたので、少し驚きました」


ドラグスの答えに質問をしたアイラは微笑み、ヴィーチェルとソイルもそれにつられるようにして笑い出した。


「あらあら、楽しそうね〜。私も混ぜて貰おうかしら?」


そこへ片手にお盆を持ったレイスがやって来てドラグス達へと声を掛けた。


「あっ!レイスさん!ただいま!」


「うふふ、お帰りなさいソイルちゃん。ヴィーチェルちゃんもアイラちゃんもお疲れ様。それとええーっと……ああ、ドラグさんだったわね!ドラグさんもお疲れ様」


レイスは森人の魂とドラグスをそれぞれ見て、微笑みながらそう言った。


「ただいまレイスさん。レイスさんこそたくさんのお客さんへの対応お疲れ様です」


「レイスさんただいま戻りました」


「うむ、其方こそ夜遅くまでの仕事ご苦労であるな。それにしてもまだ一晩泊まっただけの我の名まで覚えておったか。感心したぞ」


レイスの掛けた言葉に対し、ヴィーチェルとアイラとドラグスは各々返事を返す。ドラグスだけはレイスの記憶力の高さに少々驚きを見せつつであったが。


「うふふ、私って人の名前を覚えるのが得意なのよ〜。貴方達ご飯まだよね?用意しましょうか?」


レイスは皆の返事を聞きながら、そう尋ね、森人の魂とドラグスが頷くのを見ると、「じゃあちょっと待っててね〜」と言って奥の厨房の方へと引っ込んで行った。


「ふむ、昨日も思ったがあのレイスと言う娘は話していて中々気持ちの良い者であるな」


ドラグスはレイスが引っ込んで行った厨房の方を見ながら僅かに微笑みつつそう言った。


「そうでしょ?私達も長い間このラビリンスに住んでいるけど、レイスさんみたいに気のいい人は中々いないと思うなー」


ドラグスの言葉にヴィーチェルは我が事のように嬉しそうに話す。


「あはは!レイスさんが娘って、ドラグさんってやっぱり相当歳上なんだね!」


「こら!ダメですよソイル!ドラグさんは訳ありの方なのですから、そう言う事を言うのはマナー違反です!」


「うっ……ごめんなさいドラグさん……」


ソイルがさり気なく言った言葉をアイラが窘め、自ら言った不用意な言葉に気付いたソイルがドラグスに謝罪する。ドラグスは気にするなと笑いながら言うが、何故かヴィーチェルも謝り出した。


「あらあら〜、皆んな仲良しでいいわね〜」


そうこうしているうちに出来上がった料理を両手に持ったお盆に乗せたレイスがやって来て、いつも通りのマイペースさでドラグス達へと配膳して行く。


「ありがとうレイスさん!」


ヴィーチェル達が笑顔で礼を言っているいるのを尻目にドラグスは早速配膳された食事を口にする。


「うむ、美味い。やるではないか」


「うふふ、そう言って貰えて光栄だわ♪」


ドラグスの感想に満足そうに笑ったレイスは、「ごゆっくり〜♪」と言い残し、笑顔のまま厨房へと戻っていった。


「もぐもぐ、それで、んぐっ、ドラグさん的には、んぐっんぐっ、ミハエルさんは、ごっくん、どうだったの?」


「こら、ソイル!喋る時は口に入ってる物をは きちんと飲み込んでなら話しなさいって何度も言ってるでしょ!」


「ごめんごめん、怒らないでヴィーチェル」



食事をがっつきながら喋るソイルとそれを嗜めるヴィーチェルをドラグスとアイラは微笑みを浮かべて見守りながら、自分達の分の食事を食べ続ける。


「クハハッ、ヴィーチェル、その程度にしておいてやれ。それで何だ?ミハエルは我的にはどうだったか?だったか?」


「うん!」


ドラグスは食事とは別に頼んでいたビールのような酒を片手に取りソイルに尋ねる。すると即座にソイルからはいい声の返事が返って来た。


「そうさな……あの者は他と比べればまだ増しだが、はっきり言ってしまうとまだまだ未熟だ。だがそれ以上にあの者の仲間達の方が問題だったの。他と比べて実力があるのは分かるが、その実力とそれを振るう者の精神が比例しておらん」


そこまで言うとドラグスは片手に持酒を傾け、その凛々しい双眸を何かを考えるように流し目風に動かした。


「神器の選んだ者の試練には単純な実力だけでは決して攻略する事が不可能な試練もある。あの男とあの者の仲間達が今、その手の試練にぶちあたってしまったら先ず間違い無く彼奴らは死ぬであろう。神器に選ばれると言う事はそう言う事なのだ」


「そんな……あの人達でもまだまだ未熟だなんて……」


ヴィーチェルが戦慄した様な表情で感想を述べる。

その様子を見たドラグスは「取り敢えず今のままでは無理だってだけだがな」と言いながら席を立つ。見るといつの間にかドラグスの皿は完全に空になっており、片手に持ってたカップの中に入っていた酒も既に無くなっていた。


「さて、食事は終えたし我は風呂に入って今日はもう寝る。お主等も早目に休め。今日は疲れたであろうからな」


「えぇーまだドラグさんとお話ししていたいよー」


「こらソイル!ドラグさんに迷惑をかけたらだめでしょ!」


「あらあら、うふふ。ドラグさんもお気付かいありがとうございます。きちんと休みますね」


ドラグスは仲良くじゃれ合う三人に苦笑をし、背を向けて食堂を後にする。背後からは尚も楽しそうな笑い声が聞こえて来ており、思わず頬が綻びる。ドラグスは民の無邪気な笑い声が大好きなのだ。それは例え直接ドラグスが治めてるわけではない人界においても変わらない。


(ククッ、そうだ笑え。愛しき我が子達よ。どうでもいいことで笑い合えると言う事は何よりも素晴らしい事であるぞ)


ドラグスは全ての始まりを創った神の中の神。例え血や絆が繋がって無くとも彼は全ての生命の父である。父が子に望むのはどんな時でも友や家族と笑い合える明るい未来。

彼は何億もの愛しき我が子達の未来を守る為ならば例え我が子であっても害になれば手にかける。


(我が命を奪った子供達よ、主等の死は我が全て背負ってやる)


脳裏に過るはかつて半ば決別のような形で別れたある者の姿。

その時ドラグスは決意した。己が何人もの命を奪ったとしても後悔はしない。しかし、奪った命は全て己で背負う。

ドラグスは密かにそれを心に刻み、風呂への通路を進む。その後ろ姿は偉大なる父そのものであった。

先日この作品に感想くれた人がいたのですが、速度制限による通信の遅さによって誤ってそれを削除してしまいました。書いてくれた人、本当に申し訳ありませんでした!

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