第七話 好きな人
「よいしょ……っと」
担任の先生に頼まれた仕事。 ……山のように積まれたプリントを教務室に運ぶことだ。
さすがに重い。 前も見えないし、 一秒でも気を緩めたらきっと転んでしまうだろう。
「あれ? 沙苗?」
「へ?」
誰かに自分の名前を呼ばれた。 ちらりと声のしたほうに目を向ける。
「あ……優くん」
「ちょ、 ちょっと、 大丈夫?」
優くんはそう言うと、 私の持っていたプリントの半分くらいを持つ。 手伝ってくれるみたいだ。
「あ……ありがとう」
私が言うと、 優くんは返事代わりににっこり笑ってくれた。 怜はあんなことを言っていたけど、 私は優くんはとてもいい人だと思っている。
「あれ? 今日はお兄さんいないの?」
優くんが不思議そうに尋ねる。
「そうなんだよ! 授業が終わってすぐにどっか行っちゃってさぁ……」
すぐ戻ってくると言っていたのだが、 先生が「今すぐ教務室に!」と強制してくるので一緒に来れなかったのだ。
「へー、 先生もひどいね」
「そうだよー!」
優くんは親身になって話を聞いてくれる。 とても優しい。
と、 突然優くんが予想もしなかったことを言ってくる。
「沙苗ってさ……」
「うん」
「えっと……なんていうかさ!」
「……?」
「好きな人とか……いるの?」
「!?」
私は飛び上がりそうなくらい驚いた。 思わずプリントを落としてしまいそうになった。
それにしても突然すぎるよ! 私はなぜ優くんがこんなことを聞いてくるのか分からなかった。
「は? へ? 何言ってるの!?」
「あ……ご、 ごめん! 言いたくなかったら言わなくてもいいから!」
「それじゃ聞いた意味無いよね……」
自分でも頬が熱くなっているのが分かる。 頭に思い浮かべたのはもちろん怜だ。
「……いいよ、 いいや! 優くんなら教えてあげるよ!」
やけになって話すフリをするが、 本当は違う。
一人でも、 誰でもいいから、 私の恋を応援してくれる人がいて欲しかったのだ。
「私の、 好きな人は、 ……怜」
そう呟くように答えると、 優くんは一度目を見開いて、 そのあとすぐに微笑んだ。
「そ……そうなんだ」
「だ、 だ、 誰にも言っちゃダメだよ!」
「お、 おうよ! そうだよな、 ……血、 繋がってないしな」
どうやら優くんは私を応援してくれるようだ。
「が、 頑張れよ!」
「う……うん」
お互いぎこちない喋り方だ。 私たちはそれから教務室まで気まずい空気に我慢しながら黙ってプリントを運んだ。
教室に戻る途中、 噂の怜が私のことを迎えに来た。
この空気から抜け出せて良かったが、 まあ本当にさっきまで噂してたのでちょっと勘弁して欲しかった。
怜は違和感に気付いているのだろうか。
ぎこちない喋り方…。気になりますね^^