第四話 もういない彼女
「ちょっと! 優、 大丈夫?」
俺が『松田沙苗』さんと別れたあと、後ろから『神崎留利』がそう言って駆け寄ってきた。
「ん……。 大丈夫だよ」
そう返して軽くあしらうが、 留利はまだずっと不安そうなまま。
「本当!? 本当に大丈夫!?」
留利は少し心配性が過ぎる。 過去にあったあのことのせいだろうが、 それにしても度が過ぎるような気がする。
「本当に? 救急車呼ぶ!? せめて保健室だけでも……」
「だあぁあ! 本当に大丈夫だから!」
俺は少し鬱陶しく感じていまい、 キツめに言ってしまった。
「そ、 そう? なら良いけど……」
だが、 留利はたいして気にしていないようだ。
「じゃあ、 ちょっとゆっくり教室に戻ろうよ」
「は? なんで?」
「留利は優ともっと一緒にいたいの! だからなの!」
小さな子供のように駄々をこねる留利。 俺は仕方なく留利の言うとおりにすることにした。
「えへへー。 なに話そうか?」
「……知らないよ」
俺が冷たくそう返すと、 留利は唇をとがらせた。
……俺がなぜ留利といるか。 それは、 ただ単に留利が甘えん坊だからではない。
その真実を知るには、 三ヶ月ほど前にあったこの話を聞かなければならない。
俺には彼女がいた。 とても好きだった。 その人のために、 命を捨てても良いと思っていた。
毎日毎日一緒に登校したり、 昼食を食べたり……。
はっきり言おう。 俺はリア充だったのだ。
だがそれは、 今になっては昔話。 過去にあった話。
今更こんな話をしても、 もう何の意味もないのだ。
それは、 その人はもうこの世にいないから。
つまり死んだのだ。 俺と同い年で。 あぁ、 当時は十六歳だな。
死因はガンだと、医者は言っていた。
彼女はそのことを知っていたらしい。 俺にだけ、教えてくれなかったのだ。
「どうしたの?」
「は?」
「いや、 ぼーっとしてるなって思って」
「そんなことねえから」
さっき会った沙苗って人……。 その彼女に似ていた。
色素の薄い髪色、 くりくりした瞳、 優しそうな笑顔……。 留利は気付いていないようだが、 俺にははっきり分かっていた。
留利は彼女の妹だった。
彼女の葬式のとき、 留利は人目を気にせず泣きじゃくっていた。
大声を上げて、 涙をぼろぼろとこぼして。
誰の言葉も聞こえないようだった。
誰かが止めても、 手を払いのけてまた泣く。
心なしか、 少し胸が痛んだ。
「ねえねえ、 帰り、 どっか行こうよ!」
「あぁ、 別にいいけど」
彼女がこの世を去ってから、留利とはずっと一緒にいた。
いつでも、 どんなときだって、 俺と留利は一緒にいた。
「じゃあじゃあ! ゲーセン行こう! ゲーセン!」
留利は俺の一つ下。 高校一年生の、 十六歳だ。
年よりも幼く見えるから、 よく知らない人などに会うと子ども扱いされてしまうそうだ。
「いいよ、 ゲーセンね」
俺と留利はそう言って約束すると、 それぞれの教室に戻っていった。
優くん目線ですね。
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