第三話 歯車が廻りだす
「おいしかったね~ 怜!」
「そっか、よかった」
二人並んで階段を降りていく。
お弁当は綺麗に食べ終えた。
もう少し屋上でゆっくり過ごしていたかったけど、 怜が『風邪ひいたら大変』などと言うので、 しょうがなく出てきたのだ。
「沙苗はもう少し自分の体を気にかけたほうがいいよ」
「……はぁい」
怜はとても優しい。
……ふと気になる。 怜は私の気持ちに気付いているのだろうか。 気付いていたのだとしたら、 怜自信は私のことをどう思っているのだろうか。
……もしも、 もしも両思いだったなら…両思いなら…
ふと、 体に何かが当たった。
「わっ!」
「おっ……と」
びっくりして目をつむる。
……鼻が痛い。
誰かとぶつかってしまったようだ。
「沙苗! 大丈夫!?」
怜の声が聞こえる。
私はゆっくりと目を開けた。
「う、うん。大丈夫……」
私のことよりも、 ぶつかってしまった人に謝らなければ。
「ごめん、ぼーっとしててさ……」
上から声が降ってくるような感覚。
声の方に顔を向けると、 同い年かそれよりも上であろう男の人がいた。
「……大丈夫?」
真っ黒な髪に、 少し吊りあがった目。 かっこよく着こなす制服が印象的。
制服の左胸にある名札を見ると、 『川住 優』という名前なことが分かった。
「ぶつかってしまってごめんなさい! こっちこそ、ぼーっとしちゃってて……」
私がそこまで言うと、 川住さんがなにやら驚いたような表情をしだした。
どこかで……会ったっけ?
「どうかしましたか? ……あの、どこかでお会いしましたっけ……?」
私は尋ねる。
すると突然、 私の後ろから怜の声が聞こえた。
「大丈夫そうだね。ほら、行こう!」
怜が私の腕を引き、 階段を降りる。
「あ、じゃ、それでは!」
私は怜に引っ張られながら言った。
「うん、またね!」
川住さんは驚いた表情から無理やり笑顔を作るようにして、 私に手を振った。
またね…って、 なんか、 面白い人だなあ。
考えながら階段を降りる。
ふと、 怜は突然立ち止まって言った。
「ごめん、ひっぱったりして! 大丈夫? 痛くない?」
つかんでいた私の腕を放す。
「大丈夫だよ。でも、なんで突然急いだりしたの?」
「あぁ、急いではいないんだけど……あいつ、なんか嫌な感じがしたから」
「嫌な感じ?」
私は首をかしげた。
私が話したところ、 そんなに悪い人には見えなかったけど……
「沙苗、あまり僕以外の男子には信用しない方がいいよ」
怜はキッと私のことを見つめ、 そう言った。
深い意味には聞こえないような声色で。
だが、 セリフがセリフで……
「えっ……」
あ……。
多分今、 顔が真っ赤だ。
熱くなってきた。
あんなこと、 あんなかっこいい顔で言われたら……。
「いや、そういう意味じゃなくて!!」
怜が弁解の言葉を並べる。
聞こえないけど。
私にはそんな言葉も聞こえない。
もうダメだ、 やだ、 照れるな…
「あ、あ、あ、う、あ、うん……あ、あ、あ……」
だめだぁ……
「あのね、世の中には悪い男もいてね!!」
必死に言う怜。
怜の言葉の方が、 体に悪いです。
これでやっと起承転結の起が終わりです。
承はどうだろう?もうちょっと短めかなぁ?