第一話 歯車の廻りだす数十分前
キーンコーンカーンコーン
気だるい数学の時間に、 終わりを告げるチャイムが鳴る。
私、 松田沙苗は、 亜璃守学園の生徒だ。
普通科二年の、 ごくごくありふれた十七歳。
成績も容姿も、 なにもかもありふれている。
「それでは今日はこれでおしまいですね」
でも、 こんな普通な私でも、 沢山の幸せを神様にわけてもらえるんだ。
「明日は私が作ったテストをやるので、 復習しておくんですよ!」
元気のいい声で、 数学担任の田中洋子先生が言った。
私はなぜかやる気が出てきた。
勉強はそんなに得意じゃないけど、 結構好きなほう。
もともと小さいころから体が弱かった私は、 体を動かすことよりも家で何かをしていることが多かった。 だから、 勉強する機会もそのぶん多くなっていて。
ガラガラ――ピシャン
田中先生が教室から出る。
とたんにクラスメイトのみんなが、 あくびをしたり参考書などを片付けたりしだす。
「沙苗!」
誰かに呼ばれた。
声のした方を向くと、 そこにいたのは義双子の怜だった。
「怜、 どうしたの?」
小学生のころは少し走っただけで倒れてしまうような子だった私。 そんな私をいつも守ってくれるのは、 怜だった。
「どうしたの? じゃないから」
いわば、 怜は私のボディーガード。
「昼食の時間だよ? 沙苗は今日はどこでお弁当を食べるの?」
あ、 そうか。
私はすっかり昼食時間だということを忘れていた。
「今日は屋上に行きたいな」
とっさに笑顔でそう言う私。 怜はうなずくと、 私の手を引きこう返してくれた。
「じゃあ行こう! 早くしないと場所がなくなっちゃうよ!」
怜はとてもかっこいい。 優しい。
私の義理のお兄ちゃんなんだけど、 本当のお兄ちゃんみたいなんだ。
これからよろしくお願いいたします!