第一次人魔大戦
第三次世界大戦の激戦区である中央国。その放送局を占拠しようと、白銀の髪をした初老の男が、手ぶらで軍隊と対峙している。その男は、弾幕を浴びながら言った。
「やめたまえ。銃を撃つと肩や腕に負担が掛かるだろう? 私に銃やグレネード、そしてミサイルが効かないのはわかっている筈だ。」
四方八方から弾幕を浴びているその男は吸血鬼だった。
この世に存在する全ての生物のDNAと、脳味噌にチップを埋め込んだ人体兵器。
それが吸血鬼だ。
吸血鬼といえど、ベースは人間なので、太陽や十字架やニンニクなど、目立った弱点が無い。
「やめろ、と言っている。私は今後の為、無駄な殺生はしたくないのだ。」
銃声もあって、聞こえてないのだろうか、と思った。
なら仕方ない。
「残念だ。」
右腕を前に差し出し、血液を高圧力で噴射させる。
これで一網打尽だ。
ドサッ、ドサッ、と人が倒れていく。なんとも脆い物だ。
やがて放送室に辿り着く。
人間だった頃、演説をよくやっていたので勝手は分かる。
準備完了だ。放送を開始する。
「私は全ての吸血鬼を統制する能力を持った吸血鬼だ。吸血鬼の親玉、と思って構わない。さて人間。私達吸血鬼は、すこしばかり腹が減っているのでな。諸君らが知っての通り、私達の食料は人間の血液。あー、つまり人間視点で言えば…あー、宣戦布告だ。フフ、もう食事を開始した食いしん坊がいるだろうがな。私達吸血鬼は残り430。君たち人間は1億。あぁ言い忘れたが、闘争も私達の楽しみの一つだ。良い"食玩"であることを期待するよ。そして我らが同胞に告ぐ。裏切り者に注意せよ。以上だ。」
これで人間は躍起になって我々を殺しにくる筈だ。だが、今回の戦争の真意は、吸血鬼と人間を見極める事だ。弱い吸血鬼、弱い人間にはこの戦争で大いに死んで貰う。
強い人間の血液はとても良い味わいなので、わざと生き残して子孫を残してもらう。少しばかりの劣化はあるが、美味な事に変わりは無いのだ。
脳に意識を集中させ、400を戦争に重点を置かせるように、残りの30には、人間人格の吸血鬼の出来損ないを追うように司令を送る。
現在、人間人格は30居ると聞いた。脅威になる可能性が少しでもあるので、早く始末しておきたい。
「それにしても…フフ…」
「食玩」とは我ながらなかなか良かった。
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雲の上を滑空するドラザとカインズ。
ドラザがそろそろ痺れを切らし、カインズに能力についての説明を求めた。
「そうだな。まぁ飛びながらには変わりはねぇな。まず、アイツは1機1能力と言った。それはだな、脳に埋め込まれたチップに、能力を"登録"するんだ。」
「なるほど。人格云々は置いておくとして、他に何か特徴は?」
「あー…そうだな、多分、能力についての詳細情報…つまり、どういう仕組みで能力が発動するか、だな。俺の能力は、厳密に言えば、触れたものの特性、特質を変化させる能力だ。俺は太陽学専攻だったから、細胞とかをどう変化させれば良いのかが分かった。そして、変化は…」
ドラザが首をかしげる。
「もっとわかりやすく頼む。簡単に言えば、でいい。」
昔からそうだ。コイツは馬鹿そうに見えて、実はキレ者だ。
しかし、説明は下手くそなので、いつも分かり辛い。
「んー…わかるは出来るで、分からないは出来ない…かな!」
「そういうことか。」
…単に俺が馬鹿なだけかも知れない。
「お前、何か一つ、これだけは完全にわかるぜーっての、無いのか?」
「難しいな…」
何か無いか、と脳をフル回転させる。本日二回目だ。
俺は太陽学専攻ではなかったので、カインズと同じような能力は使えそうに無い。
考えろ。考えろ。
「あ」
突然と拍子抜けした声を出すカインズ。
「あ?」
思わず返してしまった。
「鉄分だよ。お前、それなら判るだろ。」
「鉄分…あぁ。」
「敵から吸い取った血、若しくは、お前自身の血から武器を生成すりゃあいい。」
「なるほどな…まぁでも、敵が複数ではなく単体だったら、必然的に俺の血からなんだが。」
吸血鬼になったから、多少は痛覚は抑えられても、痛いのは勘弁だ。 武器を作るともなれば、リストカットするくらいの覚悟と痛みが伴う。
全く、こんな考えを起こしたせいで、全身に嫌な感じがする。
「…お前の血をくれよ。」
真顔で言ってみた。
すると、飛行中だが、カインズの身体が小刻みに震えるのが直ぐにわかった。こういう冗談は通じないヤツなのだ。それに、俺はカインズより、力量では勝っている。何度も訓練で負かしてやったから、多少はトラウマなのだろう。楽しいものだ。
「ウソだ、悪かったな…フフ」
「笑うなよ!それより、もうすぐ着くぞおら!」
今は雲の上を飛んでいるが、きっと空の下は混沌としているのだろう。連合国はどうなったのだろうか。すると、何やら音声が聞こえてくる。
「を…せ! 愚かな人間人格を探せ!探して殺せ!奴らは30機だ!即急に探して殺せ!」
妙に聞き覚えのある声だった。
「俺らみたいなのが30も…!?」
「もう充分だ、さっさとこの空域から逃げるぞカインズ!ついでにその30機!俺らが先に見つけるんだ!」
来た道を引き返しながら、とりあえずは、人のいない所を探す。と、思っていた。
「お、おう!ところでよ!」
「何だ!?」
「まずは放射能汚染区域を探さねぇか!俺らがそこで気を失っていたのと関係がありそうだしよ!」
この言葉で、まずは希望が生まれた。放射能汚染区域。確かに看板にそう書いてあった。
「例えばどこだ!?」
「ここから北西のラーカだ!こまけぇ処はまずは空域から離れてからだ!」
全速力で北西へ向かった。吸血鬼の追手はいないようだが、細心の注意が必要だ。
しばらくすると、ラーカの広大な土地が見えてきた。
「ヒルアパのブルトルンパだ!吸血鬼は少なからず居るはずだ!」
「了解!」
ラーカは一つの大陸からなる大国だ。それ故、一つ一つの地域も広かった。なので、それらが全て、独立した治安、政治などを行っていたので、いわばラーカも、連合国のようなものだ。ヒルアパも、例外ではないのだ。当然、ブルトルンパ市も、かなりの広さを持っていた。
手分けして探した方が効率が良さそうだ。
「手分けして探すぞ、無線か何か無いか?」
「奇跡だなぁ…こりゃ。」
カインズのポケットの中に、小型の無線機があったようだ。
「俺は北と西、お前は東と南を頼む!」
「あいよッ!」
ブルトルンパ市は、その殆どが放射能汚染区域だ。生身の人間はマスクをして戦闘していただろう。
まずは北側の街道から探してみる。この辺一帯の戦闘行為はだいぶ落ち着いているようだが、ただの人か、はたまた吸血鬼かの見分けは簡単につく。
早速人影を見つける2,3人のようだ。急降下し、まずは接触を試みる。
「おい、お前ら自由に動けるか!」
男二人、女一人。その内の筋肉質な男が、俺を指さしながら言った。
「お前…!」
「ウォンドか!なら話は早ぇ!つうか話てる暇ねぇ!飛べるか!?」
「あぁっ?おう」
戸惑うウォンド。仕方がないが、当然のことだ。
「早くしろ、殺されちまうかもしれねぇ!」
「後で詳しく話せ!おいお前らも早く!」
ウォンドに言われ、他の二人も羽を生やした。
一定の高度に辿り着き、無線でカインズと連絡を取る。
「おい、聞こえるか?」
「見つかったのか!?」
ほんの少し雑音が混じっていたが、会話に支障が出るほどでは無かった。
「大当たり、まず三人だ!」
「一気にか!続けて頼む!」
「そっちもな!通信終わり!」
カインズとの通信を終えた。次は西側に急行する。
多少の暇が出来たので、ウォンド達に理由を簡潔に話した。
そうこうしている内に、またも人影がある。
今度は4人だ。その内の一人は、三人の集まりから離れている。
「ウォンド達はそこで警戒していてくれ、他の吸血鬼が来たら降りてきてくれ。」
急降下し、もうすぐ地面に着こうとした時、アスファルトがドリルのような形を形成し、足に刺さる。
「いっでぇ!」
足から血が吹き出ている。ただの人間だったら、まず死んでいただろう。
「!」
敵がこちらに気付いたようだ。
「下がってろ!能力をまだ開花してないお前たちでは!」
三人が下がっていく。
「何だ、お前…?」
敵が質問を投げるが、お構い無しだ。俺の血が吹き出ている足に手を当て、溢れ出る鉄分から、オーソドックスな剣を作った。羽は生やしたままなので、空中から奴に攻撃をする事にした。地上は危ないからだ。
剣を構え、奴に向って突進する。
吸血鬼は、自身の前方にアスファルトで壁を作ったが、それは予測済みだ。壁の手前での急上昇、そして奴の真上から、急降下して剣を突き刺す。しかし、素早いバックステップの対応で、剣はアスファルトに刺さった。剣を抜き取り、再び構える。が、着地の衝撃で足から血が更に吹き出た。
だがそんな事はどうでも良い。
剣を抜き取って構える。
足から血が吹き出ている為、新しい武器を作るのに、どうしても隙ができてしまう。
仕方ないが
リストカットする以外に無い様だ。利き手ではない方の腕に、剣で傷をつける。
「いッ…!」
激痛に襲われたが、奴を倒せるなら結果オーライだ。
そうしてる間にも、吸血鬼がアスファルトに手を当て、小さなドリルのようなものを飛ばしてきた。
猛スピードでこちらに突っ込んでくるその物体に、剣で幾つか弾き返すも、脚部や腹部にアスファルトの雨が当たり、痛みが俺の体を蝕む。
「いっでぇな!こなくそっ!」
咄嗟に左腕を掴み、盾を作る。
丸型の盾だ。大きさはドラザの胴体が隠れる程。脚部はまだ少し見えているが、その程度なら何とかなる。
右手に剣を、左手に盾を。
剣はドラザが最も得意とする武器の一つだ。
盾を前に構え、前方にいる吸血鬼に、今度こそはと接近する。
距離をどんどん縮めていく。
おかしい。吸血鬼が何もしてこない。しかし、とどまる訳にも行かないと思ったその時だ。
地面、つまりアスファルトが溶け始めたのだ。
ドニャリ。嫌な感触が、足に伝わる。
まずい、コールタールだ。奴はやはり、物質状態を変化する能力を持っていた。
このままだと、またアスファルト状にされ、足が動かせなくなってしまう。
そうはさせまいと、飛ぼうとするが、既に遅かった。もう硬化していたのだ。
足が動かせなくなった。
「クソ!」
先程のような、ドリルの形をしたアスファルトが飛び、こちらの剣も盾も破壊されてしまった。吸血鬼がゆっくりとこちらに向かってくる。じっくりゆっくり殺すつもりなのだろう。
右手で殴れる距離まで縮んだが、殴っても恐らく、また固められるのがオチだろう。
無駄な抵抗は余計な痛みを生むだけだ。固められてしまっては、血も出ない。
顎を親指でクイッとあげられた。
「…何だよ。」
吸血鬼を睨みつける。
「お前を殺したあとに、空にいる奴らも殺してやる。人格が見合わないその体は勿体無い。」
反論させる暇もなく、腹にとてつもない蹴りを入れられた。
「がっ……!」
「足を切り取ってやろう。」
そう言うと、吸血鬼はしゃがんで俺の両足をその爪で切り裂いた。
「ああぁぁぁぁああぁあ!」
反動で吸血鬼から大きく後ろの方へ倒れてしまう。
足首から切られたので、血が吹き出て、血溜まりが出来た。意識はギリギリ飛ばなかったが、激痛で頭がおかしくなりそうだった。
しかしチャンスでもある。
「無様だな。だが完全に殺してやる。」
吸血鬼がこちらに近づいてくる。血溜まりに足を入れた。今だ。すかさず血溜まりに手を当て、鉄分から拘束具を吸血鬼の手と足につける。
「なっ!?」
驚いた時にはもう遅い。拘束具が奴の動きを停止させたのだ。
「傲慢さと………っ油断が………はぁ……命取りだぜ……」
こちらは寝た状態、あちらは立ったままで動けない。
意識は遠いままだが、まだ保ちそうだ。血溜まりから短剣を作り、奴の腹に投げる。
「がぁ!」
まだまだだ。更に腹に、腕に、喉に。投げナイフの訓練もしていたので、大抵が奴に命中する。
しばらくすると、奴が完全に沈黙した。
それを確認すると、カインズに通信を送る。
「カイ………ン………」
「何かあったのか!?」
「西………こっち………きてくれ………」
「おい!ドラザ!?」
そこで俺の意識が途切れた。
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戦争が終わって21年が経った。
当然、停戦協定を結ぶ、という形で戦争は終結した。奴らの餌として生きる人類は、
支配される毎日を送っていた。
現在、世界人口は5890万人。
吸血鬼は推定30機。
30機ならば全人類が反旗を翻せばすぐ…のはずだが、それは出来ない。人類は"飼われてしまった"のだ。吸血鬼の言う事を聞かない、団結したりなど、反逆行為と見なされると、直ぐに処刑されてしまう。
更に吸血鬼共は、軍を作った。
「軍に入り、優秀な成績を収めた者は吸血鬼とする。」というのを人類と約束したのだ。
そして俺は軍の上層部にいる。
内側から変える、という目的の元、俺は動いている。
軍のトップであり、吸血鬼のトップでもある、ネロ・ミナエルから、新たな情報が入った。
何でも、先の大戦で裏切った吸血鬼共が、まだ生きている様なのだ。
そして幸運にも、俺と俺の指揮する部隊に、"見つけ次第抹殺"という命令が下った。
この上ないチャンスだ。
ざっしゅです。2話目です。
まさか連載と短編を間違えるとは…
またもや、誤字脱字があると思いますので、「汚ぇ文だなぁ!」と嘲笑いながらご覧ください。
今回はウォンドくらいしかいなかったかな?
ウォンドは坊主のマッチョです。
DQ6のハッサンがモデルですね。
それではまた次回お会いしましょう。
「だからこんなんじゃ汚くて小説にならねぇんだよ!」という励ましのお便り、待ってます。