五百鬼夜行
現に「第三次世界大戦」と呼ばれる戦争があった。
世界は地獄の釜をひっくり返したような、まさに混沌。
小さな国は団結したり、大きな国はそれぞれで闘ったり。
毎日世界のあちこちで数万人が 撃たれ、数千人が叫び泣き、数百人が死ぬ。
そんな戦争が始まってから8ヶ月が経った頃、ある小さな連合国が生体兵器を開発した。
「吸血鬼」
そう呼ばれる生体兵器だ。
元は広く知られたブラム・ストーカーの小説で、ただのフィクションだと思われた。
「他の国々は重火器の兵器開発だが、我々は生体兵器を作る。」
多少気が狂っている科学者共がそのテーマのもとに研究を始める。
4ヶ月程でその研究は収束する。ついに生体兵器が完成したからだ。
人間をベースに、様々な生物の遺伝子情報を流し込む。
それだけでは元の人格が破綻し、言うことを聞かなくなってしまう。そこで脳味噌に小さなチップを埋め込む事にした。
これで脳に直接指令を送れる。完璧な兵士の完成だ。
第壱号の生成に成功した時、当然彼らは大喜びだ。
「我々はこの戦争に勝つ。」
「いままでのお返しが出来るぞ。」
「次々と作ろう。」
だがしかし、生成が成功した約四時間後、第壱号が放つ強力な脳波によりチップは破壊されてしまう。
暴走する第壱号。やむを得ず縛り付け、海に破棄する以外に方法はなかった。
第壱号から得たデータを元に研究を続けていたら、彼の放つ脳波には特徴があることに気づいた。 欲求を満たせば良いのだ。そうすれば脳波の暴走は止まる。元が人間の為、それぞれの個体が違う欲求だ。しかしそれは問題ではない。チップでコントロールしてしまえば良い。
ならば話は簡単だ。
しかしその欲求の内容をどうするか。下手に食料を奪われてしまっては大変だ。
それについて彼等は議論をした。
「休憩が欲しいという欲求は」
「それだったら兵士として使えぬだろう。ただの人間ではこの戦争には勝てまいよ。」
「我々はいくつもの弱小な国が集まりようやく機能しているのだ。踏みにじられ、馬鹿にされた我々だからこそここまで来れた。絶対に勝たねば気が済まない。」
「ならば人を殺し、生き血をすするのはどうだ?」
「私たちも殺されてしまうぞ?」
「欲求のコントロールが出来るならば憎悪や憎しみも応用できるのではないかな?」
「!」
「完全従順、それでいて太陽などの弱点がないドラキュラ伯爵さ。悪くないだろう?」
科学者共は即急に優秀な兵士を集め、生体兵器を作り始める。
その数、およそ500機。
数々のテストを終え、ついに実戦に投入される事となった。
生き血をすすれば同時に体力回復や、疲労回復にもなる。しかし、万が一、疲労を覚えるのを回避させる為に、4時間おきに生き血をすすらなければ、脳に埋め込まれたチップが爆発するようにした。
これで完璧だ。
戦況はみるみるうちに優勢となった。各戦場に吸血鬼が3機送られるだけで崩壊してしまう。台無しだ。全てがひっくり返ってしまう。
連合国に余裕が生まれた。
しかし気を緩めてはいけない。
そこで軍の総司令官はテレビ演説をする事にした。当然、士気を高めるためだ。
「聞け!我々は馬鹿にされた!踏みにじられた!忘れ去られた!今こそ連中への復讐の時だ! 諸君らも知っての通り、我が優秀な科学者たちがついに新らたな兵器を開発した!生体兵器だ!そして我々は優勢!優秀なのだっ!……背徳的な実験をしたことを許して欲しい。特に第壱号…いや、ロメオ・ロンゴ大尉については何を言っても詫びる事は出来ない。今回の500人も、諸君らの友人や家族から無理に生体兵器にしてしまったのだから、私を恨む者は少なくは無いはずだ。されど彼らは意気軒昂!戦争に勝利したら彼らを解放する事を約束する!我々を馬鹿にし、不満のはけ口とし、用が済めば我々を忘却の彼方へと追いやった連中への復讐だからだ!勝ちたいという意思が私と諸君らに同じ様にあることを私は信じている。では諸君らのこれからの健闘を祈る!」
これで大体の士気は高まっただろう。総司令官はそう感じていた。
「お疲れ様です、総司令官殿。」
「我々は詫びねばならぬ、勝たねばならぬ。そのためのことだ。当然だよ。」
「はっ。」
「あぁそうだ。君。博士は何処かね?会って話がしたい。」
「博士…ですか。研究所に居るのでは?」
「そうか。では行こう。あぁそうだ、君は外してくれ。」
総司令官が研究所向かう。国の中心からはすこし遠い、隠れたところにあるマッドサイエンティスト共の巣だ。人を襲うことは決して無いが、普通の人間とは思考が異常すぎる。
「やぁ博士。」
「これはこれは総司令官殿。なにか御用で?」
「あぁ、大事な事だ。ここにいる左官級以下の研究員は外してくれ。」
総司令官のその一言で、左官級以下の研究員たちが仕事を止め、何も言わず続々と部屋を出ていく。
「諸君らが開発した生体兵器の戦果は十分耳にしている。とても良い物だな。本当に。」
「はぁ。前置きはいいですよ、らしくない。」
「あぁ、そうか。なら本題に入ろう。博士。私を吸血鬼に出来るか?」
その場にいる約数人の表情が変わる。無理もない。
「可能ですが、それは…」
いくらマッドサイエンティストといえども、総司令官を失う危険性は理解していた。
「ああ、そうだな。コントロールが失われる。この連合国の士気が乱れるのは確実だろう。
しかしだ。いつ我々の優勢が搖らぐかはわからぬ。この状態を維持しなければならない。」
「では、よろしいですな?フフ、国民に大嘘を吐いて逃げるように見えなくはありませんが。」
「仕方のない事だ。フフフ、あながち、解放出来ない訳でもあるまい。」
総司令官が不気味な笑みを浮かべて言った。
「フッ、左様で。いつ頃改造手術を始めましょうか?」
博士もまた不気味な笑みを浮かべる。
「今からだ。戦況は著しく変わるからな。」
「了解であります。このような事態を予測して特殊なチップを用意してあります。総司令官の思うがまま、吸血鬼を動かせるようになるでしょう。」
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俺と大尉に命令が下った。
何でも、例のバケモノの製造所が見つかったらしい。空からの襲撃は、対空兵器のため不可能との事だ。
俺と大尉はギリースーツを身に着け、任務を開始した。
「いいか中尉。ここはもう敵地だ。油断はするな、地雷に気をつけろ。」
通信から大尉の声が聞こえる。
「了解であります。」
「姿勢を低くしろ。」
地雷に細心の注意を払い、前進する。
「接敵。前方に敵歩哨2名。同時に殺るぞ、タイミングはお前に合わせる。」
歩哨の頭部に狙いを定め、呼吸を整え、落ち着いてスナイパーライフルで射撃する。
大尉が俺に合わせたので、ほぼ同時に歩哨の息が絶える。
「前方クリア。進むぞ。」
大尉の声は落ち着いていた。
高台や周りに敵がいないようなのでしゃがみながら歩く。
すると大尉からの通信が入った。
「止まれ。注意しろ。近くに地雷があるようだ。」
大尉の持っている地雷探索機に反応があったようだ。敵地で音を鳴らしてはいけないので、今回は色で示す物を持ってきた。それが赤ければ、地雷は近いという事だ。
「回り道をしたほうが良さそうだ。付いて来い。」
「了解。」
大尉と俺の頭には地図を叩き込んだ。迷子にはまずならないだろう。
進んでいくうちにまた歩哨。
「狙えるか?」
先程と同じように、身体を落ち着かせ、狙いを定め…トリガーを引いた。狙いは完璧だった。
「見事だ、周辺に敵はいないようだ。動くぞ。」
俺も大尉も本国で待っている家族がいる。任務の失敗は許されない。
その時だ。微かに何かの音が聞こえた。
…沢山の足音?
「伏せろ。少数の部隊がこちらに来ている。数が多い、やり過ごす。私の動きに合わせろ。」
ザッザッザッ。足音が近づいてきた。銃にも迷彩が施されているので、心配は要らない。
ザッザッザッ。ザッザッザッ。また一つ近づく。
ザッザッザッ。ザッザッザッ。
ザッザッザッ。ザッザッザッ。
もうすぐそこにいるのだろう。
いない奴を探す奴はいないとはいえ、心臓の鼓動が早い。
大尉がゆっくりとほふく前進したので、タイミングを見計らって俺もほふく前進する。どうやらやり過ごせたようだ。安心した俺は大尉からの通信を待つ。
「無事か?目標まであともう少しだ。気を抜くな。」
「了解。」
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「では、始めるぞ。」
博士が注射を手に取った。
中には様々な生物の遺伝子情報。
それを総司令官の腕に注射する。 総司令官は昏睡状態だ。そうでもしなければ、暴走し、暴れ回ってしまう。
「チップを埋め込むぞ。」
その時だ。研究所に警告音が鳴り響く。
「何事か!?」
博士が通信越しで監視役に尋ねる。
「周辺に侵入者です!既に警備員が何名か殺されたようです!」
「了解した。おい!チップを埋め込めろ!早く!」
総司令官の脳にチップが埋め込まれた。その時だ。爆発が起こり、研究所は火の海だ。
「成功だ。爆発が大きい、逃げるぞ。この際サブターゲットは無視しても構わない。」
「了解。」
二人の会話が聞こえる。
どういうことか、研究所は火の海だ。私は吸血鬼になれたのだろうか?
脳に意識を集中させる。
するとどうだろう。いままでに作った500機の状態が判る。成功したようだ。
さて…まずはあの二人から喰うとしようか。
体を起こし、背中に意識を集中させ、羽を生やし空を飛ぶ。
見つけた。奴らだ。
「大尉!サブターゲットです!」
「ほう…」
大尉と呼ばれた男が銃を構える。無駄な事を。
「くたばれ、バケモノ…!」
いちいち回避するのが面倒だ。
弾丸は私の腹部を貫通した。
「かかったな…その傲慢さが貴様の命取りだ!」
弱者が何か言っているが関係ない。急降下を止める気はない。
「ッ!」
何だ。頭が痛い。
どうも変だ。腹部を貫かれたはずなのに、なぜこんなにも頭が痛いのだ。
「ズラかるぞ!」
バケモノが急降下の勢い余って
地面に突撃し、その場でのたうち回っている。
「ビッグバード、聞こえるか!こちらΔ4!退却中だ!」
「こちらビッグバード、了解した。しかし、周辺では対空兵器が多い。回収ポイントを表示する。」
大尉の持つタブレットに回収ポイントが表示される。
「中尉、ついて来るんだ!」
回収ポイントへ全力で向かう。
しかし、当然敵兵が襲ってくる。 大尉ともなれば、その腕は確かだ。
俺と大尉で次々と敵兵を倒していく。
家族の為だ、ここで死ぬ訳にはいかない。
「敵戦車接近!撃て中尉!」
先程敵兵から奪ったRPG構え、なるべく狙いを定めるように撃つ。
「命中!」
これで大丈夫だろう。
怯んでいる内に、先を急ぐ。
俺と大尉は無事ビッグバードに乗り込む事が出来た。
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どういう事だ。私は完全な存在になったのではなかったのか。
自我を持つ完全な吸血鬼になったはずだ。一体どうしたのだ。頭が割れる。痛い。痛い。痛い。
その時だ。頭の中の何かが壊れる音がした。
「あぁあぁぁぁぁああぁぁぁあっ!うぐぁあああ!」
想像を絶する痛みが、吸血鬼の体を蝕む。
先程撃たれた弾丸は、特殊なもので、吸血鬼を殺し、解剖し、その特徴を理解したとある国が作った、いわゆるウィルスのような物だ。吸血鬼は半機械なので、そこに脳波を暴走させるプログラムを打ち込めば良い。
総司令官の頭の中には、どこにいても吸血鬼を操れるチップが埋め込まれている。
それが災いした。全世界各地の吸血鬼にウィルスが回り、暴走をはじめる。
「ぐぎぇえぇぇぇええぇえ!わたしは!わたしはぁぁぁあぁああぁぁっ!」
断末魔にも相応しい、吸血鬼の叫び。
実に哀れなものだった。
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「隊長!ヤツら、何故か苦しんでますよ!」
「チャンスには違ぇねぇ!撃ちまくれ!」
合図とともに頭を抱えている吸血鬼が蜂の巣にされる。が、吸血鬼特有のずば抜けた再生能力により、徒労と化す。
「暇を与えるな!」
その時だ。頭を抱え、怯んでいた吸血鬼がどこかに消えた。
「どこ行きやが…っ!」
「後ろだ。」
慌てふためく兵士の首筋に、鋭利な牙がかぶりつく。
「ぎゃあああぁああぁっ!」
血を十分に吸収し、その兵士を投げ捨てる。
この吸血鬼には自我がある。素体となった人間の人格ではない、吸血鬼としての人格が。
「フフフ...ハハハハハ!まずひとぉつ!」
吸血鬼が喋っている。笑っている。それだけで、残った兵士たちが恐怖する。いままで無言で無表情だった吸血鬼共が、こんなにも元気だからだ。
「蜂の巣とは随分やってくれたじゃあないか!えぇ?ニンゲンンンン!」
「撃て!どうせ死ぬんだ、遅いか早いかの問題だ!」
「ハハハハハ!吸血行為が首筋に噛み付くだけと思ってもらっては困る!」
次の瞬間、吸血鬼の腕から触手のようなものが生え、兵士たちに喰らいつく。
「あ…が…っ」
「やはり人間などに命令されて動くなど、我々の真価が発揮されぬ。人間の発想の域を超えなくては!」
自分の意思で全員分の血液を吸い取った。
やはり快感だ。命令されて動くのとはワケが違う。
さて、同士達も目覚めているのだろうか…
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ビッグバード内部は騒然としていた。先程、各国の吸血鬼が自我を持って行動している、という通信報告があったからだ。
「どういう…事です…?」
「思い出した…」
「何をですか?」
「私が腹部を貫いたあの吸血鬼の顔…どこかで見た顔だな、とは思っていたのだ。 アイツは…あの連合国の総司令官。」
「まさか…!」
「ああそうだ、何でこう悪い出来事は重なりやがる …!」
あのプログラムには欠点があり、それが最悪の結果を招いてしまったのだ。
「ヤツ…総司令官自らが吸血鬼なったのだ!きっとヤツのチップには、吸血鬼に命令を脳波で送る機能があったに違いない、いや、そうでもないと、説明がつかない…」
通常とはまた違った脳波の暴走が、各国に存在する吸血鬼に伝染し、全ての吸血鬼が自由に行動するようになったのだ。
「第三次世界大戦はじきに終わるが、これからは私達人間と、ヤツら吸血鬼との戦争になるだろうな。」
「ヤツらは全部で500と聞きました。が、一個でもアレなんです。当然、苦戦を強いられるでしょうね…。」
この時だ。ビッグバード内に警告が鳴り響く。
「未確認飛行物体接近中!繰り返す!未確認飛行物体接近中!」
その警告と共に、咄嗟にガラス越しに外を見る。
「おいおい…勘弁してくれ…」
ヤツだ。まだ生きていた。
そもそも、今の騒動はヤツが発信したのだから当たり前だ。
それにしても何という事だ。並の飛行機以上のスピードは軽く出せるこのビッグバードに、顔色一つ変えず突進してくる。
まさか、このまま突き破るつもりなのでは無いだろうか。
俺はその旨を大尉とパイロットに伝え、降下するように言った。
「パラシュートは装着してあるな?!ヤツがもう直ぐそこまで来ている、タイミングを見計らって降下する!3.2.1...Go!」
大尉の合図とともに飛び降りる。
次の瞬間、ビッグバードがヤツに貫かれ、爆砕する。
パイロットがその破片に当たり、死んだようだ。
ヤツに感づかれてはいけない。
大声を出すなんてもっての外だ。
どうしようも出来ない俺に、大尉からの通信が入った。
「高度はまだある、奴に感づかれてはいけない、パラシュートはまだ待て。」
冷静かつ適応な指示だが、一般人から視たら、ただの無慈悲な人だと思うだろうが、大尉も仲間をやられて腹が立っているに違いない。
「よし、パラシュートを開け。降下地点にズレが生じてはいけない、なるべく私から離れるな。」
なるべく、とはいえども、緊急過ぎる降下だった為、大尉からはすこし放れていた。
その時だ。雲を突き抜け奴が来た。猛スピードでこちらに向かっている。
「しつけぇえんだよぉぉ!」
大尉が大声を上げて銃を乱射する。着地までおよそ20秒地点だった。
「私に屈辱を与えたからな、最高のお返しをしてやる。」
奴の指先から光線のようなモノが放たれ、大尉の腹部を貫いた。叫ぶ暇も無かったようだ。
「次は貴様だな。死ね。」
大尉と同じ方法で中尉も殺される。死体はそのまま落下したが、着地のショックでグチャグチャだ。見るに耐えない。
「他愛の無い…」
私が次にやる事は決っている。
与えられた統制能力。ここで使わずしてどうする。
私は脳に意識を集中させる。
ほぼ全ての吸血鬼が覚醒に成功したようだ。しかし、30機ほどの吸血鬼の状態がはいってこない。恐らくニンゲン風情に遅れを取ったのだろう。情けがない。
そのような雑魚は頬っておいて 、最も吸血鬼が集まっている激戦区に向かわなければならない。飛行に関してはもう既に慣れている。先を急がなくては。
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「ッ!」
空が見える。
「俺は…何を…?」
とりあえず、ここが何処なのかが知りたい。
あたりを見回すと、看板があった。
"放射能汚染区域"
「放射能…!?」
咄嗟に手でマスクの代りを作る。が、特に異常はない事に気付く。
「俺は…」
俺は、俺は。
一体何があったどうしてこうなった。 脳をフル回転させ、必死に思い出す。
その時だ。後ろからうめき声が聞こえた。咄嗟に構えようとしたが武器が無い。
「お、まえ…」
聞き覚えのある声だった。
「カインズかっ!」
「はぁっ…はぁっ…」
カインズは頭を抑えている。
「さっきから頭がいってぇんだ…」
「頭が痛い…?」
「吸血鬼に改造されてもよぉ…へへっ、頭痛とかあんだなァ…」
吸血鬼…
「俺も吸血鬼なのか?」
「何言って…アレ?そういや自我がある…?」
「なぁカインズ、俺、少し記憶が無いんだ、詳しく教えてくれ。」
カインズから全てを聞かされた。とある連合国の生体兵器にされた事、戦争中の事。
「なんでこうなったのか知りたい。 ひとまず動くか。」
「おう、飛べるか?背中に意識を集中させろ。」
カインズに言われた通り、背中に意識を集中させると、多少の痛みを伴いながらも、羽が生えた。吸血鬼といえば、コウモリのような羽のイメージ定着してしまったが、鳥類のDNA情報を元に生やしたモノなので、色は鮮やかだ。
「こんなことが出来るのか…」
「そりゃあ、全部入ってる訳だしな。って、どこに行くんだ?」
「自我を持つ吸血鬼がいるのはおかしいんだろう? だから、ただ飛んで今の戦況と他の吸血鬼が見たい。」
「なるほどな。」
会話を終え、まずは上空へ。
元は人間だという事だが、その場に適応した遺伝子を利用すれば問題は無い。
見晴らしの良い高さへ辿り着き、前進する。
その時だ。何かがこちらに迫ってくるのが見えた。
「!」
緊急回避運動を取り、相手が何なのかを確認する。
「何故ここにいる?」
何がなんだかサッパリだが、とりあえず答えることにした。
「知ったことかよ、なんだお前は?」
「"吸血鬼"」
やはり。
「オイ、何だか知らんが2対1だぜ?勝てると思ってんのか?」
「やはり…貴様等…元の人格であるな、吸血鬼としての人格が目覚めなかったのは謎だが、始末する。」
その瞬間、視界が揺らぎ、気分がすこぶる悪くなった。
「うぐ…うっ…」
「一機一能力!私はこのウィルスを使い、この上空で貴様らを抹消しようと思う。」
「カインズッ!」
「ウッ!オエエエエッ!」
駄目だ。カインズも既に、ウィルスとやらを付着させられたようだ。
「私の殺意に比例して悪化する病気!貴様らの体内に入れたのはその病原体ッ!そしてェェェ!」
「うぐ………っ!」
腹に強烈な蹴りを食らわされる。
「病気の吸血鬼もどきがいくらいようが、私の勝利は揺らがないんだよッ!」
カインズの方にも鉄拳が入る。
「うぐぇぇぇっ!」
「フフハハハハ!苦しんで死ね!己の肉体にぃ、吸血鬼の人格が宿らなかった事を呪いながらぁ!」
2発、3発と、俺とカインズの急所に痛みが走る。
ウィルスの効果もあり、意識が朦朧としてきた。羽を動かすのも苦痛になってきそうなその時だった。
「…フ」
「ハッハッハッハ!…あぁ…?何がおかしい?」
「どうやらよぉぉぉ、腹ァ抱えて笑うのはコッチだぜ?」
カインズは余裕の表情を浮かべている。こういう時にハッタリをするような奴ではないと思うが、果たしてどうなのか。他人を完全に理解することはできない。
「てめぇ、1機1能力って言ってやがったなぁ…?」
「何がおかしいと聞いている!答えろよ下等動物めが!」
少しだけ焦ったような口ぶりの吸血鬼。
「ぅオラァっ!」
カインズは威勢の良い掛け声と共に、吸血鬼に殴りかかった。
が、片手で止められてしまう。
「何だぁ?先程のはハッタリだったのか?なら褒めてやる。貴様の様な下等動物がこの」
「あぁ〜ぐだぐだうっせぇな、お前よぉ、まだ気づかねぇのか?」
カインズは笑みを浮かべ、今にも吹き出しそうなのを耐えていた。
「貴様ァ………ッ!ぐぁぁ!」
「教えてやる、お前はさっき、俺の殴りを止めたな。そして俺の能力は触れたものを太陽の光に弱くする事。あとは分かるな?」
「ぐああぁあぁあっ!あぁあああっ!」
カインズの殴りを止めた吸血鬼の右手が溶け始める。
同様に、カインズの体内にあったウィルスも、溶け始めているのだろう。
「話しやがれっ! 誰がお前を差し向けた!? お前らの目的は何だってんだ!?」
下手に吸血鬼を触ってしまったら、溶け死んで情報を聞けなくなってしまう。胸ぐらを思いっきり掴んでやりたかったが、出来ないのでもどかしい。
「そう…しれ…」
「あぁ? 小声過ぎるぜ!」
「総司令官…」
吸血鬼はうずくまって、汗を垂らしながら言った。
「何処にいやがる!?」
「知ったことでは…ないわ…この…下等動物めが……」
いちいち癇に障る奴だ。さっさと殺してしまいたい。
まだ何かを隠している様子なので、次は左腕を鷲掴む。
「言えよ。吐け。」
「あぁぁああぁああぁっ!」
「お前の身のためにならねぇぜ?」
「殺すなら………がぁっ!早くするんだな……………フフ…私は何も言わぬ…これ以上は、な………っうううあああ!」
「殺れ…カインズ。俺が死んじまうから早くしてくれ。」
ドラザが苦しそうな表情で訴える。
俺が無事だったので、ドラザの事をすっかり忘れていた。
「くそっ……!もったいねぇなぁ!」
掛け声とともに、吸血鬼の腹に殴りを入れる。ようやく全体から溶けはじめた。
吸血鬼が死んだ事によって、当然殺意も消える。
「はぁ…はぁ…っ…あぁ…腹いってぇ…」
「しょうがね、どっちみち前進であることに変わりはねぇがな。」
少しだけ物惜しそうな顔だった。
「追手が来る可能性がある。さっさと逃げよう。」
「あぁ、じゃあ、逃げながら能力の説明もする。」
ドラザとカインズはその場を後にした。
数分後、予想が的中し、その場に別の吸血鬼が来た。その吸血鬼は、カインズが倒した吸血鬼だったものから噴き出した、ドス黒い波の様なモノを、鈴が付いている真っ黒な箱に詰めて去っていった。
はじめまして、そうじゃない方は恐らくいらっしゃらないと思います。
今回、この吸血人ですが、前に一度、ここ、小説家になろう!様に掲載させて頂いたことがあります。
その時はネタにつまり、放置という形になってしまい、小説を削除してしまいました。
今回はそんな事にはならないように、書きたいように書いてます。
誤字脱字は酷い場合があると思いますので、その場合は、場の空気を凍らせた馬鹿野郎を見るような目で見てください。
以下から、キャラクターのビジュアルとそのキャラクターへのコメントです。
総司令官:白髪緑目色白の、短い髭をたくわえたおじさま。ロン毛。 もっぱらの演説野郎です。ラスボス臭は半端ないはず。
ドラザ:赤髪、青目。ツンツンショート。肌はふつう。キャラが定まっている。といえば嘘になります。まぁ過去編だしいいよね!よくないね!
カインズ:金髪緑目、褐色のにーちゃん。セミロング。
褐色のくせに頭は良いというギャップちゃんです。褐色の吸血鬼ってどうなんでしょ…
ウィルス吸血鬼:銀髪赤目。ロン毛。ほんとはもっと強いんですよこの子…インフル以上の苦しみと共に腹パン、キックですよ。溢れ出る小物臭。まぁ復活はしません。
あー、えーと、設定がミスってて短編小説になってました(^q^)