行き止まり
(・・・やっと面白くなってきたな~)
伸二は心の中でつぶやいた。
今夢中になっているミステリー小説のことである。
通勤電車の中でひたすら小説を読むのが、伸二のちょっとした楽しみだ。
今までに数々の小説を読んできた伸二だが、今はミステリーにどっぷりはまっている。
(・・・犯人誰なんだろ・・・)
いったん本を閉じて、そんなことをぼーっと考えていた。
少し周りを見渡してみる。すると・・・
「・・・ん?・・・」
ある異変に気づいたのだ。
「あれ?・・・他の人誰もいなくなってる。」
乗る時は満員だったはずなのに、今は伸二以外誰もいなくなっていた。
小説に夢中になりすぎて、今どこら辺を走っているのかもチェックし忘れていたのだ。
(まぁ・・・いずれどっかで止まるだろ。)
安易に考えていた。
・・・しかし・・・
一向に止まる気配がない。というよりもスピードが上がっている気がした。
もはや外の景色は速すぎて見えないほどである。
「・・・なんだよ・・・どうして・・・いつもの電車だったじゃないかよ!!」
一人大声をあげるが空を切るばかりである。
「運転手がいるはずだ!今すぐ止めてもらわないと!!」
さすがに運転手がいないと電車は動かないはずだ。伸二は急いで先頭車両まで走った。
・・・だが・・・
異様に長い。
15両編成のはずだった電車は軽く15両を超えていた。
「・・・なんだよこの電車・・・」
・・・・諦めようとした時、遠くにぼやけているが、先頭車両が見えてきたのである。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・やっと着いた。」
息も絶え絶えになりながらもたどり着いたのである。
・・・ガラっ!!・・・
勢いよくドアを開ける。
「おい!今すぐ電車を止めろ!!」
伸二は先頭車両に入るや否や叫んだ。車掌が狂って暴走運転をしていると決めつけていた。
・・・
考えたくなかった。しかし少しは危惧していた。
その危惧していた光景が今眼下に広がっていた。
そう。
そこには誰もいなかったのだ。
「・・・まじかよ・・・もうどうしろって言うんだ・・・」
伸二は絶望の淵にいた。もう電車を止める手段がわからなかった。
そして自ら運転席に座る。
「・・・俺が止めてやる・・・」
決意を固めて前を見た瞬間・・・
・・・目の前は行き止まりだった。
線路はそこで終わっていたのである。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
~~~~次は~~~~新宿~~~~
軽快なアナウンスが流れる。
「ここは?・・・あれ?」
伸二はいつもの満員電車にいた。さっきまでの出来事はまるで夢だったかのように。
(・・・なんだ夢かよ~)
本当に心のそこから安堵した。
そして新宿に着いて、ほっとしつつ仕事に向かった。
隣の乗客も新宿で降りなければいけないのに、ミステリー小説に夢中で乗り過ごしたことも知らずに。
~次は~
・・・・・・・・・行き止まり。
電車乗ってると、このまま止まらなかったらってよく考えます。