9,戦利品?
ファラクの西で事故がおきた。エア・カーと無人輸送機の衝突事故だった。何度か小さい爆発もあり、いまだに煙が上がり機体は無残に散らばっていた。その近くに人影があった。
事故現場はスラムの住人にとっては宝の山だ。壊れずに残っているものを集め、売買するのだ。取り扱うものは機械から人まで、利用できるものは何でも利用する。それがスラムのルールである。
事故が起きてすぐのためか、今は数人の少年達がいるだけだった。
「なにか役に立つものはあった?」
眼鏡をかけた少年がもう一人に声をかけた。年の頃は17歳くらいだろうか、髪の色は黒色で、スラムにしては育ちのよさそうな顔をしている。
声をかけられた相手も同じ年頃で、髪と目の色が明るい茶色、猫のような目と右頬に二つの黒子が印象的な少年だった。
「そーだなぁ」
壊れてない部品や荷物などあるものの、猫目の少年の興味を満たすものは見つからないようだった。
「あ…」
猫目の少年が何かを見つけた。視線の先に血まみれの人が倒れている。エア・カーに乗っていたのだろうか、あちこちに血がにじんでいた。
少年が近づき触れてみると、まだ脈があった。血はほとんど止まっているようで、事故のショックで意識を失っていた。
「何してんのさ、ケイ」
眼鏡の少年が眉をひそめる。
「連れて行ってもいいかな」
猫目の少年が触れているのは長い黒髪の少女だった。年齢は自分たちと同じくらいか、雀斑が幼さを出しもしかしたら年下だろうかと思わせる。眼鏡の少年も近付き、少女に触れる。
「傷の程度で言うなら、僕の治療範囲内かな。まぁ、内臓とか頭とかに問題があったら無理だけどさ。それに、駄目っていったって連れて行くんでしょ?お前がリーダなんだから好きにすれば」
呆れたように返せば、ケイはにやりと笑う。
「そう言ってもらえると思った。ほんとヒロはいいやつだよな」
ケイは気を失っている少女を自分の外套でくるみ、全体を隠して抱き上げた。
「さてと。指揮を移して帰りますか。トシ、トーシ、」
ケイ声に後方から、やや幼さが残る少年が現れる。
「犬みたく呼ぶなって言ってるだろ、って、なにもってんのさ」
「俺の戦利品。これ持ってヒロと一緒に先に帰るから、あとの指揮よろしく。そろそろほかのチームとかドームの警備隊とかくるだろうし、こっちも本格的に爆発しそうだから、臨機応変に適当にやって戻ってこいよ」
「へいへい了解しました、リーダー様」
そういって、トシは肩をすくめた。
ホームに戻り、彼女の治療を開始する。
いきなり衣服を脱がし始めるヒロにケイは動揺した。
「何焦ってるの、治療だよ、治療。まず全身の傷をみないと解らないだろ?」
手際よく衣服を脱がして、傷の程度を確認していく。
「打ち身はひどいけど骨は折れていなさそう、出血も落ち着いているのかな。…これ、なんだろう」
左手首のブレスレットを外すと『K‐A』とい文字が現れた。
「『K‐A』?なにかの記号か?」
「普通ならつけるものじゃないと思うよ。ドームの人間だし。奴隷とかそういう扱いなのかな」
「それにしては、身綺麗だけどな」
一通り治療を終えて、質素なワンピースを着えさせる。
「そういえば、コトが言ってたけど、この事故のことがニュースになってたらしい。ドーム・ファラクの研究所のスタッフが乗っていたそうだ。たぶん、この子だと思うけど、どうするつもり?」
「どうしようかねぇ」
そう言いながら、ケイはまだ意識が戻らない少女の頬を撫でた。