6,クドウとヤジマの出会い
ヤジマとクドウは大学生の時に出会った。お互い自分とは関係ない分野で出席者もすくない授業で会話をしたのがきかっけだった。時々授業以外でも会うようになり、親しくなってからヤジマはクドウがすでに自分の研究室を持っていることを知った。
「ヨシハルって、結構すごい奴だったんだな」
「いまさら言われるとは思わなかった。ほんとに俺のこと知らないの?」
「知らないのって、そんなに有名なのかよ」
不思議そうに返すヤジマにクドウは苦笑を浮かべる。
「大学は10歳で卒業、博士号を取りながら院生として在学しているんだ。研究所を開設した時とか、自分で言うのもなんだけどすごかったよ?」
その言葉に、ヤジマは肩をすくめた。
「自分の周りに興味がなかったからな。でも、そんな有名な奴がなんで俺なんかと親しくするんだ?俺のこと親切な奴が教えてくれなかった?ヨシハルほどじゃないけど、俺もちょっとは有名だと思うぜ?」
ドーム・ファラクの権力者であるヤジマソウシは夫人との間に子供に恵まれなかった。それが、数年前に跡取りとして遠縁の子供を引き取ることになった。遠縁という割にはヤジマソウシの若い頃によくにているといわれ、愛人の子ではないかと噂された。
ヤジマの跡取りということで近づいてくるものも多く、そんな相手を適当にあしらいながら、彼は一人で過ごすことが多かった。
「ああ、そんなことも言われた気がする。でも、トシキは俺に対して普通だし、面白いし、退屈させないし、気にしてないさ」
「お前ね…」
「このクドウヨシハルが認めたんだ、感動したまえ」
そう言って、両手を広げる。
「バカじゃね、お前」
大げさに溜息をつく。目があってさらに二人で笑った。
笑いが収まった頃、クドウは真剣な表情をする。
「トシキを認めているのは本当だよ。だから、医師資格を取ったら俺の研究室に来てほしい」
「ヨシハルの研究室に?遺伝子なんとかってやつだろ?俺の専門外だ」
「研究員ではなく研究室の専属ドクターとして来てほしいんだ。たぶん、これから必要になってくる。その時に、トシキのような好い加減な性格のドクターがいれば…」
「いやいや、今褒めてなかったよ?むしろ貶めてたよ?」
「駄目かな」
そう言われて、ヤジマは即答できない自分に戸惑っていた。ヤジマソウシは自分が後を継ぐことを望んでいた。医学部の単位を取っていられるのも、後を継ぐのに必要な単位をすべて満たしているからだ。だから、医師免許を取得しても医師としては働けないことはわかっていた。
「わかった。ただし、ヤジマソウシを説得できたらな」
「それなら大丈夫。このクドウがスカウトしてきたんだ。断れるはずがない」
その言葉どうり、ヤジマソウジは簡単にクドウの申出を受け入れた。
大事な跡取りなんだが、是非にというのなら仕方ない…などと言いながらも、彼の頭の中はクドウと繋がりができることで生まれる利益についての計算でいっぱいだった。
そんな養父をよそにヤジマは最短で単位を取得し医師免許を取得し、クドウの研究室付の医務室へと就職した。
最初は経験を積むために病院中心で働き、経験が身についてきたころに医務室中心の生活に変更した。この頃に初めてクドウ直属のチームの専任のドクターとしてプロジェクトに組み込まれ、プロジェクトの内容を他言しないよう誓約書まで書かされ、通された研究所の中でガラスケースに眠るアリア…ホムンクルスを紹介された。
ホムンクルスの成長に伴い精神的、心理的、身体的に負担がかかると予測し、それらのサポートと、禁忌の研究の産物だということを周囲に気づかれないようフォローすることが仕事だった。
しかし、ガラスケースから出たアリアは想像以上に適応能力が高かった。いつの間にか研究員の中に溶け込み可愛がられており、研究所だけでなく学校に登校するようになってからは、見かけで弱いと判断されて喧嘩をうってきた相手を返り討ちにすることは少なくもなかった。返り討ちの方法は討論であったり、腕力であったり様々で別の意味でクドウ達を悩ませていた。
とはいえ、クドウがアリアを疎んじていることもなく、むしろ溺愛しているように周囲の目には映っていた。ヤジマの目から見てもそうみえたのだから、間違いはなかった。