5,見えない真実
「精神的ダメージからくる発熱…っと」
ヤジマはアリアの状態を電子カルテに書き込み、思いっきりエンターキーをたたいた。
「誰だよアリアをこんな状態にさせた奴は…って、まぁ、ヨシハルしかいなんだけどさ。でも、こんな風になったアリアをみたことないっての。いったい何しやがった」
廊下で倒れかけた彼女を医務室に運び、クドウに連絡をしたのだが結局つながらないままだった。
うん、と寝返りを打ったアリアがゆっくりと瞳を開ける。
「大丈夫かい」
優しく話しかけるもアリアは現状が把握できず、不思議そうにヤジマを見つめ返した。
「図書館の前の廊下で倒れたんだよ」
「あ…」
そういわれて、アリアは新しいプロジェクトを見つけたことを思い出した。ゆっくりと上半身をおこし、アリアはヤジマを見つめた。
「プロフェッサー・クドウは新しいホムンクルスを創っているわ」
アリアの言葉にヤジマは言葉を失った。今回のクドウのプロジェクトに彼は組み込まれていなかった。とはいえ、クドウの専属チームのドクターではあったがいつも参加しているわけではなかったので、気にしてはいなかった。しかし、まさかそんな計画が立っていたとは。確かに、ヤジマはアリアに対して実験体と医師という関係以上の感情を抱いており、新しくホムンクルスを創るプロジェクトに対して否定的な態度をとることは明白だっただろう。だから、外されたのだ。
「ねぇ、私は失敗作なの?私はプロフェッサー・クドウの期待どうりに育っていないの?どうしたら、期待に応えられるの?どうしたら、私の居場所を…」
最後は言葉にならずに、アリアは唇を噛んで下を向いた。
「クドウの考えていることは、俺にも正直わからない。だけど、きっと…」
慰めようにも言葉が続かない。クドウは冷静で時に冷酷な一面があり、目的のためなら手段は選ばないことを二人は知っていた。
アリアが落ち着くまで待ってから自室に送り届けた。クドウが帰宅していなかったので、彼女を一人にするのには不安があったが、大丈夫だと押し切られてしまっていた。
ひとり医務室に戻る間、ヤジマはいままでの状況を整理する。
クドウの態度が変化したのは、半年くらい前。何かのプロジェクトを立ち上げたのだと思い気にしていなかった。実際は新しいホムンクルスを創っているということはわかった。しかし、アリアはガラスケースから出て2年しか経ってはいなかった。それだけで次のホムンクルスを創るには、データー不十分で意味がないことだと考える。
きっと、クドウは何かを隠している。これだけは、気付いていた。溺愛しているアリアを遠ざけるも、思い詰めたような表情で彼女を見つめているときがあるのだ。それは、たぶんクドウ自身も気付いていないだろう。
しかし、何を隠しているのかまではヤジマにはわからないままだった。