4,愛されていた記憶
自分は夢を見ているのだろうか。アリアは首をかしげた。
彼女の視線の先には、ガラスケースにはいっている自分とクドウがいた。二人にはアリアの姿は見えていないようだった。
「おはよう、『K‐A』。うーん、この呼び方って味気ないね。だから、名前を考えてきたんだ。今日から君は『アリア』だよ。感情豊かに溢れるように素敵になってほしいって考えたんだ。どうかな。気に入ってくれたかな」
クドウはガラスケースのアリアに話しかける。時々目を覚ます彼女に彼はいつも優しく話しかけ、識別番号の『K‐A』ではなく特別な名前を与えた。
急に場面は変わり、次にあらわれたのはクドウと同じ場所にたっている自分が見えた。
ガラスケースを出てすぐにクドウと暮らしはじめた。初めての共同生活にいろんなことが起きて楽しい日々を送っていた。
「こんな風に大切に愛されていたことは過去になってしまったんだ」
彼らを見ていたアリアが呟くと、場面が変わった。
「はい、あげる」
アリアの前に小さな箱が差し出された。
「開けていい?」
「もちろん」
「…ペンダント?」
小さな箱から出てきたのは、赤い石が付いたペンダントだった。
「今日は1年前にアリアがガラスケースから出た日なんだよ。だから、お祝い」
「ありがとう。でも、こういうの無くしそう。うん、なくすと思うわ」
「おまえねぇ。こういう時はもっと喜びなさい。男は泣くぞ」
「あ、ピアスっていうのに変えていい?」
「人の話を聞きなさい、アリア」
「うー、ごめんなさい」
上目使いでアリアが謝ると、クドウは苦笑しながら彼女の頭を撫でた。そして、そのまま手をずらして彼女の耳に触れる。
「わかればよろしい。で、ピアスにするのか。耳たぶに穴をあけるんだから痛いぞ」
「無くすよりはマシだと思う。だって、ヨシハルが私にくれたものだもの。大事にしたいわ」
「そうか。きっと君の黒い髪とよく合うだろうね」
そういって、クドウは優しく微笑んだ。
「過去になってしまったけれど、この一瞬は本当に愛されていたと信じている」
幸せな場面を見つめてアリアが呟く。彼女の視線の先では、クドウが優しく微笑みながらアリアを抱きしめていた。
「大切だから無くしたくないって思うのは、俺も一緒だよ。これからアリアに辛い思いをさせることもあるかもしれない。だけど、ひとつだけ忘れないで。俺はいつまでもアリアが一番大切だからね」
ゆっくりと周りの景色が薄くなっていく。目の前が真っ白になって、アリアは自分が夢から覚めるような感じをうけた。