表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3,隠された計画『Project RE-BIRTH』

 アリアは最近のクドウの様子を気になっていた。研究に熱中して寝食を忘れるような姿は珍しくもなかったが、今回の彼の態度は異常としか言いようがなかった。部屋に帰ることも連絡が来ることも少なくなり、徹夜やアリアの約束のキャンセルが当たり前となっていた。

 クドウの研究に助手として参加することもあるアリアだが、今回は参加はおろか研究内容についても知らされてはいなかった。会話を交わすことが少なくなり、彼女の中に漠然とした不安が広がっていた。


 「本当は、直接聞かなきゃいけないってわかってるわ。でも…」

 アリアは小さくため息をついた。

 研究室に入れないアリアは、図書館|(といっても紙媒体の本があるわけではなく、小さなブース分けた場所にパソコンが設置されている)にむかった。誰も図書館にいないことを確認し、人目に付きにくいブースを選んで座った。パソコンの前で瞳を閉じて神経を集中させる。 

 ゆっくりと瞳を開けたアリアに感情の色は消え、無機的な瞳のまま形の良い指をキーボードに滑らせた。

 ドーム・ファラクには多くの研究者がいた。研究内容は科学、文学、社会、経済、医学…多種多様幅広い分野にわたって研究が行われている。

 アリアの後見人となっているクドウも研究員の一人であった。いや、後見人というのは表向きの関係だった。

 クドウは遺伝子を扱う研究を行っていた。病気の解明と治療についての分野を中心に研究しているという扱いであったが、実際には世界的にも禁忌とされている人工的に人間を創る研究を行なっていた。遺伝子を操作し人工子宮体の中から生まれる人工的な生命、いわゆる人造人間ホムンクルスを創る研究だった。

 そして、最初の成功体がアリアだった。

 多くの失敗を繰り返し、アリアはこの世界に誕生した。普段は長袖に隠れているアリアの左手首の内側には『K‐A』という印が付いていた。Kは11番目に創られたこと、Aは1体目を表していた。それは、最初の成功例を意味する識別番号シリアルナンバーだった。アリアより前の10体は人工子宮体の中での生育段階で失敗し、この世には存在していなかった。

 外見は16歳のアリアだが、生まれてからまだ3年しか経っていなかった。ガラスケースと呼ばれている人工子宮体の中で、1年をかけて心身ともに15歳まで成長させ、そこから出てクドウの元で普通に年を重ねてきたのだ。

 アリアがホムンクルスであることは、クドウ直属の研究スタッフと専属医師であるヤジマだけが知っていた。他のスタッフには優秀な頭脳を持つ遠縁の親戚を引き取られ、研究の手伝いとしていることになっている。

 ここのメインコンピューターには、誰が何の研究を行っているのかが全て記録されるようになっているが、ある程度ロックがかかっていて他人の情報を覗けない仕組みになっていた。もちろん、クドウの研究はトップシークレットのため、概要すら隠されている。

 アリアはメインコンピューターに侵入した形跡を残さずに情報を引き出す技術を持っていた。その能力のおかげで、奥深くに隠されたクドウの研究内容を見つけることができた。

 不意にアリアの指が止まり、感情が消えていたはずの瞳に怯えが浮かぶ。


『Project RE-BIRTH』


 複雑な図とともに数式が並ぶ。その隣には『K‐A』-つまりアリア自身-の発育データーが展開されていた。そして、見たことがない数式とデーターが追加されている。

 クドウが取り掛かっている研究は、新しいホムンクルスを創ることだった。

 クドウは完璧を求める性格であった。それは他人から見れば傲慢とも受け止められない短所であるはずが、彼はそれをうまくオブラートに包み、逆に相手に憧憬の念を抱かせた。

 そのクドウが2体目を創るということだけで、アリアは自分が失敗作なのだと確信する。もし、このデーターが自分とは反対の性別(男の子)であれば無理矢理納得することもできたが、現実は違っていた。自分が彼の理想どうりに成長していれば、同性(女の子)のホムンクルスを作る必要がないはずだ。

 次を創るのは失敗したからなのだ。

 アリアはいつもクドウのためだけに努力をしていた。知識を増やしていたのは、彼の研究を手伝いたかったから、認めてもらいたかったから。だが、その努力も無駄となった。


 失敗作だったから、愛してくれなくなってしまったんだ。


 漠然とした不安がはっきりとした形に変わる。それらがアリアを襲い、彼女の頭の中は真っ白になった。

 どうやってパソコンを処理し部屋を出たのか覚えていないが、気が付いたら廊下に立っていた。次の瞬間、胃の中のものが逆流してくるような感覚に襲われ、近くの壁に寄りかかった。

 「アリア、どうしたんだ、アリアっ」

 聞きなれた声が、遠退きかけた意識を引き上げる。顔を上げると焦ったような表情のヤジマが見えた。

 「ドクター…、どうしよう、私…」

 そういうと、ヤジマの腕の中でアリアは意識を失った。



ホムンクルスの作り方とか成長の仕方とか、私が無い知恵を振り絞って考えた設定です。ファンタジーだと思って流していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ