13、なんとなくムカついて
意識が浮かび上がり目を覚ます。前よりすっきりと目覚め、アリアは上半身を起こして周りを見回し、ベットの隣の椅子に座ったケイと目があった。
「だいぶ良くなったようだな」
アリアに近づき、額に手を当てる。
「あー…」
「忘れていないとはおもうけど、倒れたんだよ。しかも、俺の上に。まったく、あれだけの事故にあって怪我しているんだから動けるわけがない」
「それは、その…なんとなくムカついたから。それに、やられるにせよ、売られるにせよ一発殴っておけば気が済むかなぁとおもって」
素直な答えに、ケイは苦笑を浮かべる。
「自分の置かれている状況を把握できてないやつは、ここでは生きていけない。お前はドームの人間だろ?」
アリアは言葉を返さない。
「気が付いていないかもしれないけど、スラムでは2文字の名前で呼び合っているんだ。だから、アリアと3文字で名乗った時点でアウトさ。なあ、アリア。どうして、ここで治療したいと言い出すんだ?ドームに帰れば適切な治療が受けられるだろ」
「私をどうかするんでしょ?」
アリアはケイから視線を逸らさずに答える。その言葉にケイは首を振る。
「あれは冗談。ほんとは事故現場でお前を見つけて、気になって連れてきたんだ」
「それだけ?」
「ああ。まさか、こんなじゃじゃ馬とは思わなかったけどね」
ケイは肩をすくめる。
「悪かったわね」
「悪くはないさ。で、さっきの話だ。どうして、ここにいたい?」
改めて聞かれて、アリアは瞳を閉じて深呼吸をする。そして、まっすぐにケイの瞳を見つめた。
「…戻りたくないの。あそこはとても優しい場所だったけど、もう、私の楽園じゃなくなってしまったからいたくないの。勝手なことを言っているのはわかってる。だから、怪我がよくなるまででいいから、ここにいさせて欲しいの」
「それは、手首の文字も関係していることか?」
ケイの言葉に、アリアは手首を押さえた。
「わかったこれ以上聞かない。代金もうけとったし、しばらく居るといい。その間にここで生きる方法でも考えればいいさ」
ケイは自分の左耳を指した。そこには先ほどの取引に使用したルビーが光っていた。
「再度自己紹介しておく。俺は『ウェスト』のリーダーのケイ」
ケイの言葉に、アリアは首をかしげた。
「え、俺なんか変なこといったか?」
「いま、『ウェストのリーダー』って言わなかった?」
「いったけど」
アリアは動揺していた。彼女の頭の中にスラムに関する文章が浮かぶ。
『ドーム・ファラクを中心にスラムは東西南北に4つの地域に分かれている。大小様々なチームと呼ばれる集団が存在し、そのなかでトップを極めたチームがその地区の名前を冠することができる。北地区の『ノース』、南地区の『サウス』、東地区の『イースト』、西地区の『ウェスト』…』
彼女が事故を起こしたのは、ドーム・ファラクの西側。チームで言えば…。
「ウェストって言ったら、西地区のトップじゃない」
「そうだよ。人間やればできるもんだね」
「そんなラッキーでトップが取れるはずがないでしょ。でも、西地区のトップがこんなに若いとは持っていなかったわ」
「まあね。スラム最年少のトップみたいだから、俺が特別じゃないかな」
あまり興味がなさそうに答える。
「そんなことより、これからよろしくな、アリア」
そういって、ケイは右手を差し出した。