11,だけど、今度こそ守りたいんだ
事故の知らせを聞いたクドウ達はすぐにエア・カーで現場に向った。
車内でクドウは無言のまま座っていたが、ヤジマはパソコンのキーを忙しなく叩き、事故の情報を集めていた。
しかし警備隊から聞いた以上の情報はなく、アリアの安否を確認できるものも見つからなかった。
彼らが事故現場に着いたのは連絡を受けた翌日。ちょうど、ドームの警備隊の現場検証が行われている最中だった。
クドウらは責任者を探し事故状況を問いただし、彼とともに事故現場で説明を聞くことにした。
「ドーム・ラーストからきた無人輸送機が、ドーム・ファラクから来たエア・カーと正面衝突したようです。正確なことは解ってはいませんが、おそらく無人輸送機のプログラムエラーで、エア・カーの進行方向に向っていったと思われます。我々が到着した時には、機体はほとんど燃えていましたが、スラムの住人によると、衝突後しばらくは小さな爆発が何度かあり、そのうち引火して大きな爆発、炎上したようです。輸送機などに乗っていた物資も持ち出せたようですが、人がいたという話は聞いていません。ただ、爆発前に血痕を見かけたという者がおりましたが、場所の確定は困難でこちらは確認が取れませんでした」
そういって、焦げ付いた現場をあるき、アリアの痕跡を探すも二人に見つけることはできなかった。
帰りのエア・カー中ではお互い無言だった。
「『Project RE-BIRTH』は、『K‐A』…アリアの欠陥を修正するための計画だったんだ」
ポツリとクドウが呟いた。
「アリアの致命的な欠陥は、短命であるということなんだ。何度計算しても、ガラスケースを出てから5年くらいで寿命が尽きてしまうんだ。だから、新しいホムンクルスをつくり、そのデーターをもとにアリアを創りなおそうとしてた。突き放したのは、アリアと向かい合うと、どうしていいかわからなくなってしまうから。一緒にいる時間を少なくしてしまったんだ」
「それは、本当なのか。このことは、アリアは…」
「それは、知らないよ。前にも言ったとおり俺の頭にしかないデータだからね。でも、もう、すべてが無駄になってしまった…。アリアはいなくなってしまったんだ」
「でも、もしかしたらアリアは生きているかもしれないだろ」
「そうだろうか」
「血痕があったが人はいなかったっていうことは、誰かに救出されたかもしれない…」
そういって、ヤジマは言葉をきる。
爆発前に救助されたとして、スラムにおける人助け行為を期待するのは難しい。人身売買、臓器売買…それらの可能性も高いからだ。しかも、事故現場に向かう途中にもそのルートの確認を行ったが、収穫はゼロだった。
「…じゃあ、アリアが帰ってきても大丈夫なように、研究を進めなくてはいけないね」
クドウは微笑んだ。その表情にヤジマは違和感があったが、それ以上追及はしなかった。
ドーム・ファラクに戻ってから、クドウはさらに研究に没頭していくようになった。
そのどこか壊れてしまったような親友の姿に、ヤジマはどうしようもない気持ちを抱えるも、対処できない自分に失望していた。
「アリアが見つかれば、落ち着くのだろうか」
そうつぶやきながら、ヤジマはあるメールアドレスを入力する。
そこは、どんな情報でも望むものが得られる情報屋のものであるが、その情報屋のサイトで厳しい審査を通らねばならず、一度メールアドレスが得られたからと言って、次も使用できるとは限らないところだった。
しかも、情報屋がどこで何をしているのか、性別年齢すべてが謎に包まれているのだ。
『ドーム・ラーストとドーム・ファラクの間で起きたエア・カーと無人輸送機の事故に巻き込まれた、黒髪、黒目の17歳くらいの少女を探している。雀斑があり、ルビーのピアスをしている。彼女に関した情報が欲しい』
本文を入力し、送信ボタンを送る。
エラーメッセージが帰ってくることもなく、ヤジマは大きくため息をついた。
「まさか、まだ使えるとはな。都合のいいやつと思われてもいい。だけど、今度こそ守りたいんだ」
彼の祈りはまだ届かない。