10,まさか、親切な人が助けてくれただけって思ってないよね?
アリアが目を開くと見慣れない天井が見えた。古くて、汚くて、知らない天井。
ゆっくりと身体を起こすと、全身に痛みが走ったが、動けないほどではない。ベットの上に座り直し全身を確認をする。切り傷、打ち身は全身にあるが重傷ではないし、骨にも異常はないようだ。ただ、怪我のせいか身体が熱っぽい感じがする。ふと、左の手首をみるとブレスレットが外されて、記号があらわになっていた。
アリアはどうしてここにいるかを思い出そうとする。
確か自分は、ドーム・ラーストに向っていたはずだ。朝の通信を終えて、しばらくして前からくるエア・カーに突っ込まれたんだ。どうにかエア・カーから脱出できたけど、その後に起こった爆発に巻き込まれて…。
じゃあ、ここはどこなの?
ドーム・ファラクやドーム・ラーストから救助が来た?いえ、それにしてはここは病室らしくないし、そもそも私が普通の病室にいるわけない。だとすると、スラムの住人に助けられた?見ず知らずの私を?そんなことするのかしら。
可能性として、私がドームの人間だから謝礼を期待して保護したか、私自身を売るためにとか…最悪、臓器だけっていう残念な結果もあるわね。どうすれば、最悪の結果を免れるかしら…。
「起き上がって大丈夫かい」
いきなり声をかけられて、アリアは声の方向に顔を向けた。そこには眼鏡をかけた少年と猫目の少年が立っていた。
「事故現場で君を見つけて、ここに連れてきたんだ。どう?身体の調子は。診た感じひどくはないと思ったけど、少し熱っぽいかな。それから、傷だらけだったし悪いと思ったけど着替えさせてもらったよ」
眼鏡をかけた少年が説明する。よく見ると、簡素な服に変わっていた。
「見た?」
「え?」
「みたよね」
「あ、うん、見たけど、もうちょっとあるといいよね、胸…」
「そっちじゃないっ」
言い切らないうちに、彼女は手元にあった枕を投げていた。顔面に当てるつもりだったが軽くかわされ、枕は何もない空間におちた。
「元気そうじゃないか」
そういったのは、猫目の少年だった。
「うん、大丈夫かと思うよ。だけど、あまり長い時間はやめたほうがいいね」
「んじゃ、起きたばかりで悪いんだけど、いくつか質問に答えてもらおうかな」
猫目の少年がアリアのベットに腰かけた。
「名前は?」
「…アリア」
そう答えると、猫目の初年はちらりと眼鏡の少年に視線を向けた。
「俺はケイ、あっちの眼鏡がヒロ。で、アリア、君はドームの人間だな」
その質問には答えずに、違うことを告げる。
「ここの…ここのチームリーダーに会わせて欲しい」
「なぜ?」
「取引をしたい」
「ふぅん。じゃあ、どうぞ」
「だから、リーダーに…」
「俺が、ここのリーダーだよ」
ケイの言葉に近くに立っていたヒロも頷いた。
アリアは信じられないといった表情をするも一つ深呼吸をして、ピアスの片方を外した。
「このピアスは『ルビー』で出来ている。もちろん、レプリカではなく本物。これと引き換えに、傷が治るまでここにいさせて欲しい」
アリアの言葉に、ケイは楽しそうに目を細める。
「どこから来たのかわからない人間を、簡単にここにいさせると思う?ってか、取引って言うけどさ、そもそも、君がなぜここにいるんだと思う?気を失っている君からピアスを取らなかったのは何故?」
そう言いながら、ケイはアリアの髪の毛を一房持って口付る。
「まさか、親切な人が助けてくれただけって思ってないよね」
ケイの言葉にアリアは息をのんだ。ここはスラムということを自覚させられる。
髪の毛が掌から零れ落ち、ケイはそのままアリアの頬に触れる。
「自分の立場を理解している?」
くすくすと笑う少年に、アリアは眉をひそめた。
「…よ」
「なに?」
「気安く触るなっていったのよ」
思いっきり、その手を叩き落とした。
「黙ってきいてれば上から目線で偉そうなこと言って、ふざけ…」
そのまま、ベットから立ち上がろうとしてアリアの視界が暗転した。
マズイ…
そう思ったのを最後に、アリアの意識は途切れた。