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床下の梯子を二人はひたすら下る。あたりは真っ暗で、真美子の点けた懐中電灯のあたり以外何も見えない。不安に思いつつ下る。


「あっ」

真美子が軽く声を上げる。

「床だわ。」

そう。ようやく最下層についたのである。目の前には扉があった。

扉の後ろを真美子は振り返った。小型のホバークラフトみたいなものがある。

「何かしら、こんな地下に。」

「格納してるんじゃない?とりあえず扉の向こうに行こう。」

そう達志は言って、扉を開けた。その時も達志は相変わらず砂を撒いていた。



中を見て二人は驚いた。両端に巨大な水槽があり、どちらも人が沢山浮かんでいた。それはよく見ると、右端が達志のコピー達、左端が真美子のコピー達だった。

真美子は悲鳴を上げたが、達志は「あれ?」と言ったので真美子は訊ねた。

「どうしたの?」

「真美ちゃんのコピーは、僕のホバークラフトに行ける場所な筈だ。僕の家のあるB2区じゃないはずだ。ホバークラフトで行けないから歩いたのに。」

「違う施設だからだ。」

突如後ろから声が聞こえてきた。

「だれ?」

「違う施設…だからだ…君の見たのは…恐らく…安置室だろう…ここは…生産する場所だ。」

そう言いながら、その人はゆっくり近づいて、やがて明かりで姿がはっきりしてきた。二人は彼を見て驚いた。

「あなたは!」

「そうだ…私だ…」

それは老人だが明らかに達志であった。すっかり白髪で、皺だらけで、杖もつかねば満足に歩けない状態であった。

「私が本当の達志だ…君たちは私の技術で作らされたコピー…」

「何のためにこんなのを作ったの?」

真美子が訊ねると、老人の達志は答えた。

「…君だ。真美子。君がきっかけだ。

「私は昔、幼い頃から真美子と親友だった。君たちの生活同様帰り道はいつも一緒で

「だが、ある日不幸が起きた。真美子を事故で失ったのだ。爆発に巻き込まれた。私は非常に衝撃を受け、立ち直れなかった。私と彼女は家族のような強い繋がりがあったのだ。

「私は来る日も来る日もかつての友人との幸せな日々を思い返し、夢想した。やがて、私はこれらを再現しよう、と思い立った。

「私はさまざまな方法を検証した。最初はコンピューターで人工知能をつくり、会話した。だが所詮は定義された存在、満足できる訳はない。

「やがて私は、私自身では満たす事が不可能であることを知った。私はもう、すっかり年をとった。

「そこで私は、私自身を複製させる事を思い至った。記憶を植え付ける方法とクローンの方法は知っている。今の私では決してできない日々を代わりにコピーの私で実現させる。」

「でも、コピーをこれまでいくつも殺した。」

青年の達志が言い返すと老人が言った。

「無論、生物というカオスに頼る以上、何らかの意図に反した行動に出る“私”もいる。『真美子ちゃん』と『真美ちゃん』の呼び名の差程度ならともかく、見ては行けないハリボテの裏を見たり、教えたりする馬鹿者もいる。君たちみたいにな。」

突然老人達志は杖を振り回して銃のように構え、言った。

「これはショットガンだ。放てば必ず二人とも死ぬ。ただの大人しい老人と思ったら間違いだ!」

だが、青年の達志は言い返した。

「そんな事をしても無駄だ。実は僕はこの光景を撮っていたのだ。」

「なに?」

青年達志はうなじに張り付いている小型カメラを引っ張ってはっきり見せた。

老人達志は言った。

「なら、早めに始末しないとな。」

「だが、実はこれはバックアップされてる。するだけ無駄さ。」

「なに?バックアップするためには電波で送信するだろう?それだけ大容量なデータを遠くに一気に送ると、多大な電波を使うから、大きな監視レーダーで探知されて、今頃ここにいないはずだ!」

「そう、だからこれを使った。」

青年達志は以前に地面にまいた砂粒を見せた。

「…?」

「小型の通信機。これをあちこちに撒いてデータの通り道に使った。近くの方に送信するのにそう電気は使わない。それを繰り返して遠くに送った。だからレーダーにも探知されない。」

なるほど、それで、砂を撒いたのか、と真美子は納得した。達志は話を続ける。

「もうじきこのデータは全国に流れる。大規模な反乱が起きるぞ。もう、本物の“僕”の支配は終わったわけだ。」

老人達志は杖を下ろした。そしてうつむき、やがて、くくく、と笑いだした。そして独り言を言った。

「私は…本物、じゃ、ないぞ…本物の“私”から管理を任せられたコピーだ…ち、ちくしょう、なんでこんな仕事をしなきゃいけない…」

そして二人を見て言った。

「君たちの世界は四つの場所しかない。真美子の世界、私をふくむ達志の世界、学校の世界、その他の世界…それ以上に世界はない。地球の裏側にブラジルがあると君たちは学校から教わってるが、それは嘘だ。ブラジルは名前だけ。外国人の写真など作らされた茶番だ。君たちは君たちの住んでる世界しかないんだ。永久にそのままな…」

そしてうつむいて自分に語りかけた。

「考えてみれば、なぜ、私がこの世界を管理しなきゃいかん。本物の“私”の遺志をなぜ受け継がねばいかん。もはや面倒だ。みな、滅んでしまえ…なに全員コピーだから殺人ではあるまい…うはははははは、うははははは」

老人達志は杖を突然床の隙間のある部位に差し込んだ。そして杖から飛び出したボタンを押し、サイレンが鳴り、老人はへなへなと座り込んで飽きることなく笑い続けた。

「世界が滅びる?」

「まさか!」

「とにかく逃げよう!」

「どこに?上に逃げても滅びたら駄目じゃん!」

「扉の裏側は?」

「あ、ホバークラフト!」

「いちかばちかだね!」

二人は扉に向かい、扉を開け、ホバークラフトに乗った。

「始動!」

ホバークラフトを起動したとたん、後ろと上の入り口がシャッターで閉じられた。

「え?どゆこと?」

次の瞬間、ホバークラフトの前のシャッターが開いた。そこは星空。急激な風を感じてホバークラフトは放り出された。

「エアロックだったんだね…」

達志がぼそりと言った。真美子は振り返る。そこは地球ではなかった。虚空の宇宙に浮かぶスペースコロニーだった。地球は近くに浮かんでいた。

「そんな、」

次の瞬間コロニーは大爆発した。破片が散り、ホバークラフトは飛ばされた。

「わあああ!」

その時、二人は見た。金属性の棺桶に眠っている老人の達志を。彼こそ本物の達志に違いない。コピーの老人が言うように、想い出と幻想を求めてただ一人、孤独の中で安らかに死んだ達志。棺桶はそのまま永久に宇宙の中を飛んでいった。


無重力の中、コピー人間の真美子と達志は見つめあった。やがて達志は言う。

「地球へ行こう。」


そしてホバークラフトは向きを変え、地球へと飛び立った。




(完)

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