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それから次の日、達志は学校に来て、平然と挨拶した。
「おはよう!真美子ちゃん!」
真美子ちゃん…以前は真美ちゃんだったのに。恐らく彼も昨日の“彼”と同じ偽物なのだろう。そもそも本物の達志はいたのだろうか…とさえ思った。彼女は何気なく訊ねた。
「昨日何か言いかけた?」
「昨日?何も。」
「そう…気のせいね…」
やはり、昨日の彼とは他人である。当然だ。昨日の彼は捕まったのだから。真美子は納得し、「何でもない」と言ってその場を去った。
その後の電車でも、“彼”はいつも通り快活ではあったが、むしろ真美子は違和感を感じた。いつも通り、が崩れた今、いつもの彼が不気味であった。気を紛らせようと窓の景色を見ても、その景色は虚構である。やがて最寄り駅に着いたので彼女は達志と別れ、電車から出た。
誰かが尾行している。帰り道、真美子はそんな気がした。視線を感じたのだ。後ろを振り返る。誰もいない。では、やはり、気のせいか。しかし向き直って再び歩き始めると視線を再び感じた。もう一度振り返った。スーツ姿の男がいた。男は何気無いフリをして後ろを向いて去ったが、一瞬した慌てた表情を見逃さなかった。あいつは尾行している。何のため。彼女は追いかけた。男は気づいて速足で逃げ出した。彼女は追いかけ続ける。男は角を曲がったので、真美子も角を曲がった。
だが男はいない。あれ?さっきまで角を曲がったのに。彼女はおかしいなと思い、前を歩き、見回った。交差点にさしかかったが、マンホール以外何もない。彼女は途方に暮れた。
だが、突然横断歩道の白く塗られた一部分ががたんと音を立てて開いた。真美子は走って向かった。開いた場所からあのスーツ男が飛び出した。男は青ざめ、真美子は男の首を肘で掴んで言った。
「何尾行してるの!」
男は真美子の肘にしがみついて外そうともがき、後ろに仰け反った。真美子は後ろに吹っ飛ばされ、その隙に男は逃げ出した。真美子は起き上がり、男を追ったが、男は急いで自動販売機に向かい、お金を入れ、ボタンを押した。ジュースを買うのかと思った次の瞬間、自動販売機かスライドして開き、エレベーターが現れた。真美子が驚く隙に男は中に入って、自動販売機を閉めた。自動販売機はいつものように缶を並べて立っていた。真美子は暫く呆然として、自動販売機のボタンをがちゃがちゃ押したが作動しない。色々お金を入れたりして試したが、自動販売機は真美子を前に沈黙している。やがて彼女はひとまず諦めて家に帰った。




