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100億当たったのに異世界転生なんてふざけるな!~日本に死に戻りしたいだけなのに、なぜか絶対女王として君臨することに~

作者: 鹿の子
掲載日:2026/03/28

蛍光灯の明滅が、乾いた眼球を刺す。


エリイはデスクの端に積み上がった書類の山を睨み、最後の一枚に承認印を押し付けた。


朱色が紙面に滲む。


腕時計の針は午前零時を回ろうとしている。


彼女は鞄を引ったくり、オフィスを飛び出した。


エレベーターのボタンを連打する。


到着した箱に滑り込み、一階へ。


エントランスの自動ドアが開くより早く、身体を隙間へねじ込み、アスファルトを蹴る。


ヒールの音が深夜の通りに響く。


肺が酸素を求めて収縮と拡張を繰り返す。


駅の改札を通過し、ホームへ駆け上がる。


発車ベルが鳴り止むのと同時に、閉まりかけたドアへ身体を投げ入れた。


車両の連結部、硬い床に座り込むわけにもいかず、手すりに体重を預ける。


窓ガラスに映る自分の顔は、化粧が崩れ、目の下に濃い隈が張り付いていた。


「……最悪」


口から漏れた言葉は、電車の走行音にかき消される。


最寄り駅からアパートまでの帰路。


街灯の少ない暗がりに、古びた鳥居が立っている。


普段なら素通りする場所だ。


だが、エリイは足を止めた。


砂利を踏みしめ、本殿の前へ進む。


賽銭箱に五円玉を投げ入れる。


乾いた音がした。


鈴緒を掴み、大きく揺らす。


ガラン、ガランと重い音が夜気に溶ける。


二回、手を打つ。


合わせた掌の温かさを感じながら、目を閉じた。


思考の隅に、読みかけの小説の設定が過る。


剣と魔法、絶対的な権力、傅くイケメンたちと甘い恋愛。


「異世界転生したい!」


「ここじゃないどこかへ行きたい!」


唇が微かに動く。


「……女王様になりたい!!!!」


目を開ける。


誰もいない境内。


風が木々を揺らす音だけが返ってきた。


エリイは踵を返し、再び歩き出す。


築三十年のアパート。


鍵穴にキーを差し込み、重い鉄扉を開ける。


六畳一間の空気が澱んでいる。


靴を脱ぎ捨て、ローテーブルの前に座り込んだ。


ノートパソコンを開く。


スリープモードが解除され、青白い光が顔を照らす。


小説投稿サイトのマイページを開く。


『ブックマーク数:1』


『感想:0件』


エリイは画面をスクロールする。


更新したばかりの最新話も、PV数は一桁。


「……知ってたけど、どうせ私に小説を書く才能ないみたいね」


ブラウザを閉じる。


ため息が肺の奥から絞り出される。


コンビニ弁当の空き容器が視界に入り、手で払いのけた。


ふと、財布の中に押し込んでいた紙片を思い出す。


昨日、残業帰りのストレス発散で買った宝くじだ。


どうせ紙屑だ。


そう思いながら、当選番号の確認サイトを開く。


くしゃくしゃになった券を広げ、モニターの数字と見比べる。


一等、前後賞合わせて百億。


組番。


一致。


番号。


一、三、五、七、九……。


「え……?」


エリイは瞬きをする。


目元を指で強く擦り、もう一度見る。


手元の数字。


画面の数字。


「……は?」


一文字のズレもない。


喉がヒューと音を立てる。


指先から血の気が引いていく。


心臓が肋骨を内側から激しく叩く。


「う、そ?」


声が裏返る。


椅子から立ち上がろうとして、足がもつれた。


膝を床に強打する。


痛みは感じない。


画面を凝視する。


リロードボタンを押す。


数字は変わらない。


百、億。


エリイの口角が、意思とは無関係に吊り上がる。


頬の筋肉が痙攣する。


「あ……あ、あ!」


腹の底から熱い塊がせり上がる。


彼女は両手で頭を抱え、フローリングの上を転げ回った。


髪が乱れ、顔にかかる。


邪魔だ。


手で荒々しく払いのける。


呼吸が荒くなる。


酸素が多すぎて頭が痺れる。


「当たった!私が!百億!」


叫び声が狭い部屋に反響する。


壁を拳で殴る。


硬い感触。


夢ではない。


涙腺が緩み、熱い滴が頬を伝う。


鼻水が垂れるのも構わず、彼女は笑い続けた。


喉が裂けそうなほどの絶叫。


もう会社に行かなくていい。


満員電車に乗らなくていい。


嫌味な上司に頭を下げる必要もない。


全てを手に入れた。


この国の、いや、私の世界の王になったのだ。


エリイは立ち上がり、天井に向かって両手を突き上げる。


万歳。


勝利のポーズ。


全身の毛穴が開くような高揚感。


視界がチカチカと明滅する。


その時だった。


足元の床板が、不自然な温度を持った。


エリイが視線を落とす。


フローリングの木目から、紫色の光が漏れ出している。


光は直線をえがき、複雑な幾何学模様を形成していく。


円、星、未知の文字。


部屋の照明よりも強く、鮮烈な輝きがエリイを包み込む。


「え……?」


光の粒子が足首に絡みつく。


重力が消失する感覚。


エリイの体が、光の中へ沈んでいく。


「なにこれ!?いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


視界の一切が黒に塗りつぶされている。


重力も、上下の感覚もない。


エリイの意識は、冷たい泥の中に沈む油のように、暗闇の中を漂っていた。


不意に、暗黒の空間が裂ける。


二つの巨大な光源が現れた。


それは黄金に輝く爬虫類の瞳孔だ。


エリイの全身よりも巨大な眼球が、彼女を至近距離で凝視する。


鼓膜を通さず、脳髄へ直接響く振動が発生した。


『異界の若き人の子よ』


頭蓋骨が内側からきしむ。


強烈な頭痛が走る。


エリイは口を開こうとする。


喉の筋肉が麻痺し、声帯は空気を震わせない。


『汝の願い、確かに受け取った』


巨大な眼球が細まる。


黄金の光が強さを増し、エリイの網膜を灼く。


『その願いを叶えてやろう。


女王として、この地で生を全うせよ』


エリイの手足が痙攣する。


違う。


叫ぼうとして、舌が動かない。


息が詰まる。


『汝がこの世界の命運を全うした暁には、元の世界へ帰還させよう。


だが――』


脳内に響く声の温度が下がる。


絶対的な捕食者の殺気が、エリイの心臓を鷲掴みにした。


『無駄死にを選び、あるいは我を翻弄するならば、その魂、永劫に砕き滅ぼしてくれる』


拒絶の意思を示そうと首を振る。


首筋が強張ったまま動かない。


金色の瞳が遠ざかる。


意識が急速に浮上する感覚。


待って。


エリイの思考が虚空を掴む。


返して。


私の百億。


強烈な光が瞼を透過する。


エリイは大きく息を吸い込み、跳ね起きた。


肺に満ちる空気は、排気ガスの混じらない草の匂いを含んでいる。


目を見開く。


視界に飛び込んできたのは、見渡す限りの緑だ。


膝丈ほどの草が風に揺れ、波打っている。


頭上には、絵の具をぶちまけたような抜ける青空。


雲の白さが目に痛い。


遠くを見る。


灰色の石積みの城壁が、霞む視界の端に鎮座していた。


その向こうに、尖塔を持つ石造りの建物が林立している。


中世ヨーロッパの資料集で見た光景そのままだ。


エリイは呆然と口を開ける。


自分の手を見る。


白磁のように白く、透き通るような肌。


爪の先まで手入れが行き届いた、細く長い指。


肩から滑り落ちた髪を見る。


陽光を反射して輝く、溶けた黄金のような長い髪。


黒髪ではない。


荒れた指先でもない。


彼女は自分の太腿をつねった。


鋭い痛みが走る。


「……は?」


乾いた声が出る。


彼女は立ち上がる。


足元の土の感触。


風が肌を撫でる温度。


鳥のさえずり。


すべてが現実的な質量を持って、五感を刺激する。


夢ではない。


エリイはその場にへたり込んだ。


ドレスの裾が草の上に広がる。


自分が奇妙な、しかし上質な布地の服を着ていることに気づくが、思考はそこへ向かわない。


脳裏に、数分前――あるいは数時間前の光景がフラッシュバックする。


パソコンのモニター。


一、〇、〇、〇、〇、〇、〇、〇、〇、〇。


百億円。


エリイは頭を抱え、芝生の上に転がった。


瞼の裏に、これから送るはずだった生活が鮮明に浮かぶ。


東京都心の最上階、ガラス張りのペントハウス。


夜景を見下ろしながら、最高級のシャンパンを開ける自分。


値札を見ずにブランド店を練り歩く。


店員が傅き、新作のバッグを次々と差し出す。


専属のシェフが焼くステーキ。


イケメン俳優やモデルを侍らせ、プライベートビーチで過ごすバカンス。


嫌な上司の顔に辞表を叩きつけ、札束で頬を叩く快感。


すべてが手の中にあった。


確定していた未来だ。


間違いなく、自分はこの世の春を謳歌する女王になるはずだった。


「嘘でしょう……!?」


エリイは草をむしり取った。


土が爪の間に入る。


「私、当たったのよ!?百億!一等前後賞!」


誰もいない平原に、叫び声が吸い込まれていく。


なぜ今なのか。


なぜ、宝くじが当たった直後なのか。


昨日でもよかった。


明日でもよかった。


いや、換金して使い切ってからなら、まだ許せたかもしれない。


だが、今は違う。


まだ一円も使っていない。


「なんでだよぉぉぉ!」


エリイは仰向けになり、空に向かって手足をバタつかせた。


昨夜の自分を殺したい。


帰り道の神社。


寂れた鳥居。


賽銭箱に投げた五円玉。


「異世界転生したい。女王様になりたい」


あの瞬間の気まぐれな思考が、呪いのように蘇る。


「なんで私、あんなこと願ったのよ!バカ!私のバカ!」


自分の頬を平手打ちする。


痛い。


頬が熱くなる。


涙が溢れ出し、こめかみを伝って耳に入る。


「ていうか、仕事早すぎない!?願ったら即採用とか、どこのブラック企業よ!神様ならもっと空気読みなさいよ!」


拳を空へ突き上げる。


神がいるなら、今すぐ引きずり下ろして殴り飛ばしたい。


「今更異世界転生なんて勘弁してよ!私は日本で!冷暖房完備の部屋で!ネットとゲームと美味しいご飯に囲まれて!だらだら暮らしたかったの!」


喉が枯れるほど絶叫する。


鳥たちが驚いて飛び立つ羽音が聞こえた。


エリイは地面に顔を押し付け、嗚咽を漏らす。


美しい顔が台無しになるが、拭う気力もない。


「返してよ……」


声が震える。


「私の百億……私の人生……」


返させてください、神様。


大声で泣き崩れるエリイの慟哭だけが、異世界の風に乗って虚しく響いた。


遠くの城壁から、鐘の音がゴーン、ゴーンと鳴り響く。


それは新しい生活の始まりを告げる合図のようであり、エリイにとっては死刑執行のカウントダウンにも聞こえた。


乾いた風が頬の涙をさらっていく。


エリイはドレスの袖で目元を乱暴に擦った。


泣き腫らした目は熱を持っているが、視界はクリアになりつつある。


地面に広がる自分の影を見つめる。


いつまでも嘆いてはいられない。


百億円は惜しい。


死ぬほど惜しい。


だが、現実はここにある。


エリイはゆっくりと立ち上がった。


豪奢なドレスの裾を払う。


絹の感触。


指先に触れる刺繍の立体感。


これ一着で、前世の年収を超えそうな気配がする。


思考を切り替える。


百億は失ったが、代わりに一国の主になったのだ。


女王。


なんて甘美な響きだろうか。


会社に行かなくていい。


満員電車もない。


誰かに頭を下げる必要もない。


国庫という名の財布がある。


税金という名の不労所得がある。


エリイの口元が緩む。


そうよ。ポジティブに考えなさい、私。異世界転生モノの王道じゃない!


チート能力、莫大な富、そして……


脳内で妄想が加速する。


玉座に座る自分。


足元には騎士団長や魔導師長といった選りすぐりの美男子たちが跪いている。


彼らは愛を囁き、果物を口元まで運んでくる。


夜ごとの宴。


絢爛豪華な舞踏会。


悪くない。


いや、むしろ百億を使う手間が省けたと思えば、こちらのほうが優雅かもしれない。


「そうね……楽しんでやるわ。おまけの人生だもの、徹底的に贅沢してやる」


エリイは姿勢を正し、顎を上げた。


王族らしい威厳を意識して、優雅に微笑む。


まずは城へ戻り、最高級の紅茶とケーキを持ってこさせよう。


そして執事カタログでも作らせて、好みの男を侍らせるのだ。


エリイは歩き出した。


中庭を抜け、城の尖塔を見上げる。


巨大な石造りの塔。


その頂に翻る旗が見えた。


紺碧の地に、黄金の竜が描かれた紋章。


その図案が網膜に焼き付いた瞬間、頭の奥で火花が散ったような衝撃が走る。


ズキリとこめかみが痛む。


視界が明滅し、自分のものではない、しかし確かにこの体が知っている情報が雪崩れ込んでくる。


ここはアルビオン王国。


大陸西部に位置する、竜神を主神と崇める歴史ある国。


そして自分は、エリイ・カルシナ。


王族の血を引く末席の娘でありながら、稀有な魔力適性を見出された存在。


――違う。


情報の奔流が、より冷徹な事実を突きつける。


一ヶ月前。


先王である叔父が、何者かの手によって毒殺された。


王太子もまた、狩猟中の事故を装って崖から突き落とされた。


王位継承権を持つ者が次々と消え、国は混乱の極みにあった。


有力な公爵たちは派閥を組み、互いに牽制し合い、内乱の一歩手前まで緊張が高まっている。


そんな中、彼らが妥協点として選び出したのが、エリイだった。


政治的基盤を持たず、後ろ盾もなく、ただ血筋だけが良い、扱いやすい娘。


実態は、次期政権が安定するまでの「中継ぎ」。


女王という名の傀儡。


誰も彼女に統治など求めていない。


誰も彼女に敬意など払っていない。


ただ玉座に座り、書類にハンコを押し、用が済めば修道院へ送られるか、あるいは病死として処理されるだけの存在。


エリイは膝から崩れ落ちた。


「……は?」


口から空気が漏れる。


権力?ない。


決裁権は摂政を名乗る公爵が握っている。


国庫?使えない。


ドレス一枚新調するのにも許可がいる。


イケメン騎士団?


記憶の中にある近衛兵たちの顔を思い出す。


無骨な中年。


目つきの悪い傭兵上がり。


あるいは貴族の放蕩息子。


美男子など一人もいない。


そもそも、彼らは護衛ではなく監視役だ。


逃げ出さないように。


余計なことを言わないように。


「……嘘でしょ」


地面を叩く。


女王とは名ばかり。


実態は、いつ殺されるかもわからない高級な囚人ではないか。


ブラック企業どころの話ではない。


これはデスマーチ確定のプロジェクトだ。


しかも報酬はゼロ。


「ふざけんじゃないわよぉぉぉ!」


エリイは立ち上がり、スカートを蹴り上げた。


優雅さなどかなぐり捨てる。


「傀儡!?


使い捨て!?


聞いてないわよそんな設定!


ラノベならもっとこう、溺愛ルートとか逆転サクセスストーリーとかあるでしょ!?」


誰もいない庭園で、彼女は地団駄を踏んだ。


あのトカゲ野郎。


真竜の黄金の瞳を思い出す。


『願いを叶えてやろう』


確かに女王にはなった。


嘘は言っていない。


だが、これは詐欺だ。


悪質な契約違反だ。


クーリングオフさせろ。


「美男子もいない!お金も自由に使えない!命の危険だけはある!誰がやるかこんなクソゲー!」


悔しさが涙となって再び溢れる。


百億円の当選くじをドブに捨て、拾ったのが爆弾付きの貧乏くじだった時の絶望感。


エリイは髪をかきむしり、空を睨みつけた。


その時、ふと真竜の言葉が蘇る。


『汝がこの世界の命運を全うした暁には、元の世界へ帰還させよう』


……命運を全うした暁。


つまり、この人生が終わればいいのだ。


『ただし、無駄死にを選び、あるいは我を翻弄するならば、その魂、永劫に砕き滅ぼしてくれる』


後半の警告が頭をよぎるが、エリイの怒りと焦燥はそれを上回った。


ここで傀儡として飼い殺しにされ、最後は暗殺されるくらいなら、今すぐ自分で終わらせたほうがマシではないか。


そうすれば、もしかしたらワンチャンス、元の世界のあの瞬間に戻れるかもしれない。


百億の当選画面の前へ。


そうよ。


こんな訳のわからない世界で苦労することないわ。


死んでリセットよ!


エリイの目は据わっていた。


周囲を見渡す。


庭園の隅に、手頃な高さの樫の木がある。


太い枝が横に伸びている。


エリイは自分の腰に巻かれた帯に手をかけた。


絹の帯は長く、丈夫そうだ。


「やってやるわよ。見てなさい、あのクソトカゲ。私の行動力を見くびらないで」


彼女は木の下へ歩き出す。


帯を解き、輪を作る。


足元の石を積み上げる。


恐怖はない。


あるのは、理不尽に対する反骨心と、百億円への執着だけだ。


枝に帯をかける。


即席の首吊り台が完成した。


エリイは石の上に立つ。


首に帯をかける。


「さよなら異世界。こんにちは百億円」


目を閉じ、石を蹴ろうと足に力を入れた。


瞬間。


世界の色が反転した。


風が止まる。


鳥の声が消える。


色彩が失せ、灰色の静寂が落ちてくる。


ドクン、と心臓が早鐘を打つ。


脳の深淵、魂の急所といえる場所に、灼熱の針を突き刺されたような感覚。


『…………』


声ではない。


それは、巨大な何かが、鼻先数センチで息を吸い込んだような気配だった。


圧倒的な質量。


絶対的な暴力の予感。


脊髄が凍りつく。


本能が警鐘を鳴らす。


――死ぬ。


ここで死ねば、元の世界に戻るどころか、魂ごと消滅する。


永遠の虚無。


再生も輪廻もない、完全なる終わり。


その確信が、言語化される前に全身を駆け巡った。


足の震えが止まらない。


首にかけた帯が、まるで処刑台のロープではなく、巨大な蛇の舌のように感じられる。


頭上に気配を感じる。


空を見上げる勇気はない。


だが、そこには間違いなく、あの黄金の瞳がある。


見下ろしている。


約束を違えようとした愚かな眷属を。


ゴミを見るような、冷酷で、それでいて激しい怒りを孕んだ視線。


エリイの体は、思考よりも速く反応した。


首から帯を外し、積み上げた石から飛び降りる。


着地と同時に膝を折り、両手を地面につく。


額を土に擦り付ける。


完璧な土下座。


美しいドレスが泥に汚れることなど気にも留めない。


「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!!」


叫び声が庭園に響く。


「出来心です!ほんのジョークです!死ぬ気なんて微塵もありません!この命、この身、全て捧げて女王として生き抜きます!だから許して!魂だけは消さないで!」


顔を上げず、必死にまくし立てる。


涙で顔がぐしゃぐしゃになるが、今はそれどころではない。


脳内の圧力がふっと軽くなる。


気配が遠ざかっていく。


許された。


いや、見逃された。


エリイは脱力し、そのまま地面にへばりついた。


心臓が痛いほど脈打っている。


生暖かい風が吹き抜け、現実の色彩が戻ってくる。


「生き返った……」


とは言っても、絶対に自然死して日本に戻ると、エリイは決意した。

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※本作は、現在【お試しプロローグ】として公開しています。


もし「続きが読みたい!」「エリイの奮闘(自爆)をもっと見たい!」と思っていただけましたら、


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本格的な連載開始への大きなモチベーションになります!


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