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古着屋アップル ― コートがくれた小さな奇跡 ―  作者: 岩田 ヒロ


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6/10

なんでこの組み合わせ?

 日曜日、昼過ぎに近くの駅で待ち合わせして、原宿に出かける。あたしは何を着ようか悩んだけど、先週と同じブルーのデニムに古着のコートを着た。フリースじゃなくても、この組み合わせもかわいいなと思った。そして、ピンクのリップをつけた。戦闘開始だ。


 駅に着くと、もうみんな集まっていて、ちょっとびっくり。凛は先週と同じ太めのデニムと白のダウンジャケットだけど、いつもと雰囲気が違う。あっ、ピンクのリップつけている。なんで? と聞こうかと思ったけど、あたしもつけてるよねと言われるのがイヤで、見て見ぬふりした。ちょっと大人っぽく見える。凛、もしかして湊か蓮のこと好きなのかしら。今まで考えたこともなかった。


 湊は黒のデニムに茶色のダウンジャケット。背が高いから目立つし、かっこいいと思った。蓮はブルーのデニムに学校の時と同じ紺のPコート。服だけ見ると、カジュアルな湊と凛、コート着てるちょっとシックな蓮とあたしがペアのように見える。でも原宿までは湊と蓮が一緒に歩いて喋っていた。あたしと凛はそのうしろを並んで歩いた。


***


 アップルに着くと、店長は先週買ったコートを着たあたしにすぐ気づいてくれて、笑顔で「いらっしゃい」と言ってくれた。凛は先週は古着なんてってネガティブだったのに、湊と蓮に「ここはあたし達が見つけた古着屋さん」と誇らしげに紹介している。


 湊はお店の中を見て回り出した。


「あのー、詩が着てるようなコートありますか?」


 と蓮が店長さんに話しかけている。店長がいくつかコートを持ってきたので、試着を始めると、凛がつきっきりで蓮が羽織るのを手伝っている。


 あれ? 凛って蓮が好きなのかと疑った。


 あたしは目で湊を追った。湊は襟の大きなシャツを見たり、ツイードのジャケットを見ている。


「湊は古着買ったことある?」


 と勇気を出して聞いてみた。


「ないない。古着屋さん初めて」


 なんか会話が続かない。すっごい焦ってきた。


「ねぇねぇ、蓮のこのコート似合うよね?」


 と凛が聞いてきた。見ると蓮がグレーのコートを着ている。あたしのよりちょっと暗い色のチェック柄だ。


「グレンチェックという柄です。先週買ってもらったのは千鳥格子という柄でした」


「あ、ママもチドリコーシって言ってた」


「二人が並ぶと雰囲気出てますよね」


 と言われて、ちょっと照れ臭かったけど、蓮は嬉しそうだ。


 改めてまじまじと蓮と蓮のコートを見た。確かに大人っぽく見えて、似合っていると思った。


「蓮、かっこいいよ。お世辞じゃなくて」


 と声をかけた。凛がニコッと頷いて、


「写真とっていいですか? 二人並んでいるとこ」


 と店長に聞く。


「あ、構わないですよ」


 と店長が答えた。


 蓮と二人でポーズをとった。なぜか、蓮もあたしもブルーのデニムにコートを羽織っている。我ながら雑誌の表紙みたいだと、凛のスマホの写真を見て思った。


 なんでこの組み合わせ? と思ったけど。


「後で写真送ってあげる」


「サンキュー」


 と蓮が答えた。


***


「湊、お前も何か気に入ったものある?」


「このベスト、カッコいいよね」


 と言って、湊はダウンよりも薄い茶色のベストを胸にあてて鏡を見ている。湊に似合っている気がする。


「湊って茶色が好きなんだ。茶色のダウン着てるし」


 と思わず言ってしまった。


「あー、そうかもしれない」


「そのベストは薄いから、重ね着してチラッと見せる感じがいいですよ」


 と店長。へー、ベスト着るなんておしゃれと思った。あたしはこれまでベストを着るなんて想像もしたことなかった。


 それからはみんなでベストやジャケット、シャツ、コート、パンツを見て、お互い「似合うねー」なんて言って写真を取り合った。他にお客さんがいなくてラッキーだった。店長さんもいろいろ服の着こなしを教えてくれて、とっても楽しかった。


 凛と買い物行っても、だいたい凛の反応は予想できたし、あたしも凛に同じようなことしか言い返さない。でも今日は違う。湊や蓮が言うことは全然新しくて、ちょっと怖かった。


 今までも男の子と話してドキドキしたことはあったけど、こんなこと初めて。まるで恐る恐るジェットコースターに乗って、あたしの意志ではない別の力で、すごいスピードで心と体が揺さぶられている感じ。なんか車酔いしてるみたい。


 それでも湊や蓮に「その服似合うね」と言われるとうれしかった。


***


 一通りお店の中を見て回った。スマホを見ると1時間も経っていた。最終的に湊は茶色のベスト、蓮はグレンチェックのコートを買うことにした。二人とも「着て帰っていいですか」と聞いている。


「着て来たコートは持って帰ります」


 と蓮が言うと、店長は蓮の着て来たコートを紙袋に入れてくれた。湊はダウンの下に着て帰るようだ。ダウンの前を開けているとベストが見えてオシャレだ。


「普通は梱包されてるから、うちに帰ってから袋開けてとかだけど、古着だとそんな面倒なくて着て帰れるから、いいですよね」


 と湊が言うと、店長が、


「たまに飲んだ帰りに着て帰るお客さんがいるんです。冬は特に寒いから厚着して帰る人がいるんだよね」


 凛が何やら悩んでいる。


「どうしよう、このグレーのマフラーと手袋、どっちがいいかな?」


「んー、どっちもかわいいね」


 と言ったら、


「両方買えば?」


 と蓮が言うと、店長が「二つで半額でいいですよ」と言うので、凛が「やったー」と喜んだ。そう、凛は最後に得することが多い。


***


 さっきまでみんなで見て回った時は楽しかったけど、なんか急に冷めてきた。本当は湊がコートを買って、一緒に歩きたかったのに、コートを買ったのはなぜか蓮。


 もう、コートを着たくなくなった。コートを凛にあげちゃおうかと思った。


 今日、古着屋なんて来なければよかった。早く帰りたくなった。あたしが好きなのは湊なのに、なんで蓮と似たようなコート着てるのだろうかと思って、惨めな気持ちになった。


 こんな時、どんな会話すればいいのか分からない。受験勉強のほうが簡単だ。


***


「お店出て右の方に行くと美味しいクレープ屋さんがあるから、よかったら寄ってみて。これ割引券。僕の友達がやってるんだ」


 と帰り際に店長が言った。


 早く帰りたい。できれば一人で帰りたかったのに。


「ありがとうございます。ねぇ、みんなで行こうよ」


 と買ったマフラーと手袋をした凛が能天気に言い出したら、


「いいね」


 と湊が答えた。湊が凛の誘いにすぐオッケーすることも気に入らなかった。


 四人が出ていくと、店長は満足げに呟いた。


「蓮くんは買ったコートを着て帰った。きっと詩ちゃんと一緒に歩くと絵になるだろうな。よしよし、上手くいった」


 店長は全く、彼ら四人の気持ちを察することは出来なかった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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