なんでこの組み合わせ?
日曜日、昼過ぎに近くの駅で待ち合わせして、原宿に出かける。あたしは何を着ようか悩んだけど、先週と同じブルーのデニムに古着のコートを着た。フリースじゃなくても、この組み合わせもかわいいなと思った。そして、ピンクのリップをつけた。戦闘開始だ。
駅に着くと、もうみんな集まっていて、ちょっとびっくり。凛は先週と同じ太めのデニムと白のダウンジャケットだけど、いつもと雰囲気が違う。あっ、ピンクのリップつけている。なんで? と聞こうかと思ったけど、あたしもつけてるよねと言われるのがイヤで、見て見ぬふりした。ちょっと大人っぽく見える。凛、もしかして湊か蓮のこと好きなのかしら。今まで考えたこともなかった。
湊は黒のデニムに茶色のダウンジャケット。背が高いから目立つし、かっこいいと思った。蓮はブルーのデニムに学校の時と同じ紺のPコート。服だけ見ると、カジュアルな湊と凛、コート着てるちょっとシックな蓮とあたしがペアのように見える。でも原宿までは湊と蓮が一緒に歩いて喋っていた。あたしと凛はそのうしろを並んで歩いた。
***
アップルに着くと、店長は先週買ったコートを着たあたしにすぐ気づいてくれて、笑顔で「いらっしゃい」と言ってくれた。凛は先週は古着なんてってネガティブだったのに、湊と蓮に「ここはあたし達が見つけた古着屋さん」と誇らしげに紹介している。
湊はお店の中を見て回り出した。
「あのー、詩が着てるようなコートありますか?」
と蓮が店長さんに話しかけている。店長がいくつかコートを持ってきたので、試着を始めると、凛がつきっきりで蓮が羽織るのを手伝っている。
あれ? 凛って蓮が好きなのかと疑った。
あたしは目で湊を追った。湊は襟の大きなシャツを見たり、ツイードのジャケットを見ている。
「湊は古着買ったことある?」
と勇気を出して聞いてみた。
「ないない。古着屋さん初めて」
なんか会話が続かない。すっごい焦ってきた。
「ねぇねぇ、蓮のこのコート似合うよね?」
と凛が聞いてきた。見ると蓮がグレーのコートを着ている。あたしのよりちょっと暗い色のチェック柄だ。
「グレンチェックという柄です。先週買ってもらったのは千鳥格子という柄でした」
「あ、ママもチドリコーシって言ってた」
「二人が並ぶと雰囲気出てますよね」
と言われて、ちょっと照れ臭かったけど、蓮は嬉しそうだ。
改めてまじまじと蓮と蓮のコートを見た。確かに大人っぽく見えて、似合っていると思った。
「蓮、かっこいいよ。お世辞じゃなくて」
と声をかけた。凛がニコッと頷いて、
「写真とっていいですか? 二人並んでいるとこ」
と店長に聞く。
「あ、構わないですよ」
と店長が答えた。
蓮と二人でポーズをとった。なぜか、蓮もあたしもブルーのデニムにコートを羽織っている。我ながら雑誌の表紙みたいだと、凛のスマホの写真を見て思った。
なんでこの組み合わせ? と思ったけど。
「後で写真送ってあげる」
「サンキュー」
と蓮が答えた。
***
「湊、お前も何か気に入ったものある?」
「このベスト、カッコいいよね」
と言って、湊はダウンよりも薄い茶色のベストを胸にあてて鏡を見ている。湊に似合っている気がする。
「湊って茶色が好きなんだ。茶色のダウン着てるし」
と思わず言ってしまった。
「あー、そうかもしれない」
「そのベストは薄いから、重ね着してチラッと見せる感じがいいですよ」
と店長。へー、ベスト着るなんておしゃれと思った。あたしはこれまでベストを着るなんて想像もしたことなかった。
それからはみんなでベストやジャケット、シャツ、コート、パンツを見て、お互い「似合うねー」なんて言って写真を取り合った。他にお客さんがいなくてラッキーだった。店長さんもいろいろ服の着こなしを教えてくれて、とっても楽しかった。
凛と買い物行っても、だいたい凛の反応は予想できたし、あたしも凛に同じようなことしか言い返さない。でも今日は違う。湊や蓮が言うことは全然新しくて、ちょっと怖かった。
今までも男の子と話してドキドキしたことはあったけど、こんなこと初めて。まるで恐る恐るジェットコースターに乗って、あたしの意志ではない別の力で、すごいスピードで心と体が揺さぶられている感じ。なんか車酔いしてるみたい。
それでも湊や蓮に「その服似合うね」と言われるとうれしかった。
***
一通りお店の中を見て回った。スマホを見ると1時間も経っていた。最終的に湊は茶色のベスト、蓮はグレンチェックのコートを買うことにした。二人とも「着て帰っていいですか」と聞いている。
「着て来たコートは持って帰ります」
と蓮が言うと、店長は蓮の着て来たコートを紙袋に入れてくれた。湊はダウンの下に着て帰るようだ。ダウンの前を開けているとベストが見えてオシャレだ。
「普通は梱包されてるから、うちに帰ってから袋開けてとかだけど、古着だとそんな面倒なくて着て帰れるから、いいですよね」
と湊が言うと、店長が、
「たまに飲んだ帰りに着て帰るお客さんがいるんです。冬は特に寒いから厚着して帰る人がいるんだよね」
凛が何やら悩んでいる。
「どうしよう、このグレーのマフラーと手袋、どっちがいいかな?」
「んー、どっちもかわいいね」
と言ったら、
「両方買えば?」
と蓮が言うと、店長が「二つで半額でいいですよ」と言うので、凛が「やったー」と喜んだ。そう、凛は最後に得することが多い。
***
さっきまでみんなで見て回った時は楽しかったけど、なんか急に冷めてきた。本当は湊がコートを買って、一緒に歩きたかったのに、コートを買ったのはなぜか蓮。
もう、コートを着たくなくなった。コートを凛にあげちゃおうかと思った。
今日、古着屋なんて来なければよかった。早く帰りたくなった。あたしが好きなのは湊なのに、なんで蓮と似たようなコート着てるのだろうかと思って、惨めな気持ちになった。
こんな時、どんな会話すればいいのか分からない。受験勉強のほうが簡単だ。
***
「お店出て右の方に行くと美味しいクレープ屋さんがあるから、よかったら寄ってみて。これ割引券。僕の友達がやってるんだ」
と帰り際に店長が言った。
早く帰りたい。できれば一人で帰りたかったのに。
「ありがとうございます。ねぇ、みんなで行こうよ」
と買ったマフラーと手袋をした凛が能天気に言い出したら、
「いいね」
と湊が答えた。湊が凛の誘いにすぐオッケーすることも気に入らなかった。
四人が出ていくと、店長は満足げに呟いた。
「蓮くんは買ったコートを着て帰った。きっと詩ちゃんと一緒に歩くと絵になるだろうな。よしよし、上手くいった」
店長は全く、彼ら四人の気持ちを察することは出来なかった。
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