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古着屋で買ったコートに背中を押されて、好きな人と少しずつ近づいていく話  作者: 岩田 ヒロ


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6/9

なんでこの組み合わせ?

古着屋の店長は売った古着を着る人を操ることが出来る。そうとは知らず高三の詩は古着屋で買ったコートを着て、受験と恋愛に奮闘するロマンタジー。第六話、なんでこの組み合わせ?

 日曜日、昼過ぎに近くの駅で待ち合わせして、原宿に出かける。あたしは、何を着ようかと悩んだけど、先週と同じブルーのデニムに、古着のコートを着た。フリースじゃなくても、この組み合わせもかわいいなと思った。そして、ピンクのリップをつけた。戦闘開始だ。


 駅に着くともうみんな集まっていて、ちょっとびっくり。凛は先週と同じ太めのデニムと白のダウンジャケットだけど、いつもと雰囲気が違う。あっ、ピンクのリップつけている。なんでと聞こうかと思ったけど、あたしもつけてるよねと言われるのがイヤで見て見ぬふりした。ちょっと大人っぽく見える。凛、もしかして、湊か蓮のこと好きなのかしら。今まで考えたこともなかった。


 湊は黒のデニムに茶色のダウンジャケットを着てる。背が高いから目立つし、かっこいいと思った。蓮はブルーのデニムに学校の時と同じ紺のPコートを着ている。服だけ見るとカジュアルな湊と凛、コート着てるちょっとシックな蓮とあたしがペアのように見える。でも原宿までは湊と蓮が一緒に歩いて喋っていた。あたしは凛はそのうしろを並んで歩いた。


 アップルに着くと店長は先週買ったコートを着たあたしにすぐ気づいてくれて、笑顔でいらっしゃいと言ってくれた。凛は古着なんてって先週はネガティブだったのに、湊と蓮に、ここはあたし達が見つけた古着屋さんと誇らしげに紹介している。湊はお店の中を見て回り出した。

「あのー、詩が着てるようなコートありますか?」と蓮は店長さんに話しかけている。店長がいくつかコートを持ってきたので、試着を始めると凛がつきっきりで、蓮が羽織るのを手伝っている

 あれ?凛って蓮が好きなのかと疑った。あたしは目で湊を追った。湊は襟の大きなシャツを見たり、ツイードのジャケットを見ている。

「湊は古着買ったことある?」と勇気を出して聞いてみた。

「ないない、古着屋さん初めて」

なんか会話が続かない。すっごい焦ってきた。


「ねぇねぇ、蓮のこのコート似合うよね?」と凛が聞いてきた。見ると蓮がグレーのコートを着ている。あたしのよりちょっと暗い色のチェック柄だ。

「グレンチェックという柄です。先週買ってもらったのは千鳥格子という柄でした」

「あ、ママもチドリコーシって言ってた」

「二人が並ぶと雰囲気出てますよね」と言われて、ちょっと照れ臭かったけど、蓮は嬉しそうだ。改めてまじまじと蓮と蓮のコートを見た。確かに大人っぽくみえて、似合っていると思った。


「蓮、かっこいいよ。お世辞じゃくて」と声をかけた。凛がニコッと頷いて、

「写真とっていいですか?二人並んでいるとこ」と店長に聞く。

「あ、構わないですよ」と店長が答えた。蓮と二人でポーズをとった。なぜか、蓮もあたしもブルーのデニムにコートを羽織っている。我ながら雑誌に表紙のようだと凛のスマホの写真を見て思った。なんでこの組み合わせ?と思ったけど。

「後で写真送ってあげる」 

「サンキュー」と蓮が答えた。


「湊、お前も何か気に入ったものある?」

「このベスト、カッコいいよね」と言って、ダウンよりも薄い茶色のベストを胸にあてて、鏡を見ている。湊に似合っている気がする。

「湊って茶色が好きなんだ。茶色のダウン着てるし」と思わず言ってしまった。

「あー、そうかもしれない」

「そのベストは薄いから、重ね着して、チラッと見せる感じがいいですよ」と店長。へー、ベスト着るなんておしゃれと思った。あたしはこれまでベスト着るなんて想像もしたことなかった。


 それからはみんなでベストやジャケット、シャツ、コート、パンツを見て、お互い似合うねーなんて言って写真を取り合った。他にお客サンがいなくてラッキーだった。店長さんもいろいろ服の着こなしとか教えてくれて、とっても楽しかった。


 凛と買い物行っても、だいたい凛の反応は予想出来たし、あたしも凛に同じようなことしか言い返さない。でも今日は違う。湊や蓮が言うことは全然新しくって、ちょっと怖かった。今までも男の子と話してドキドキしたことはあったけど、こんなこと初めて。まるで恐る恐るジェットコースターに乗って、あたしの意志ではない別の力で、すごいスピードであたしの心と体が揺さぶられている感じ。なんか車酔いしてるみたい。それでも湊や蓮にその服似合うねとか言われるとうれしかった。


 一通りお店の中を見て回った。スマホ見ると1時間も経っていた。最終的に湊は茶色のベスト、蓮はグレンチェックのコートを買うことにした。二人とも着て帰っていいですかと聞いている。

「着て来たコートは持って帰ります」と蓮が言うと、店長は蓮の着て来たコートを紙袋に入れてくれた。湊はダウンの下に着て帰るようだ。ダウンの前を開けているとベストが見えてオシャレだ。

「普通は梱包されてるから、うちに帰ってから袋開けてとかだけど、古着だとそんな面倒なくて着て帰れるから、いいですよね」と湊が言うと、店長が、

「たまに飲んだ帰りに着て帰るお客さんがいるんです。冬は特に寒いから厚着して帰る人がいるんだよね」


 凛が何やら悩んでいる。

「どうしよう、このグレーのマフラーと手袋どっちがいいかな?」

「んー、どっちもかわいいね」と言ったら、

「両方買えば」と蓮が言うと、店長が二つで半額でいいですよって言うので、やったーと凛が喜んだ。そう凛は最後に得することが多い。


 さっきまでみんなで見て回った時は楽しかったけど、なんか急に冷めてきた。本当は湊がコートを買って、一緒に歩きたかったのにコートを買ったのはなぜか蓮。もう、コートを着たくなくなった。コートを凛にあげちゃおうかと思った。今日、古着屋なんて来なければよかった。早く帰りたくなった。あたしが好きなのは湊なのに、なんで蓮と似たようなコート着てるのだろうかと思って、惨めな気持ちになった。こんな時どんな会話すればいいのか分からない。受験勉強のほうが簡単だ。


「お店出て右の方に行くと美味しいクレープ屋さんがあるから、よかったら寄ってみて、これ割引券。僕の友達がやってるんだ」と帰り際に店長が言った。早く帰りたい、出来れば一人で帰りたかったのに。

「ありがとうございます。ねぇ、みんなで行こうよ」と買ったマフラーと手袋をした凛が能天気に言い出したら、

「いいね」と湊が答えた。湊が凛の誘いにすぐオッケーと合意することも気に入らなかった。


 四人が出ていくと店長は満足気に呟いた。「蓮くんは買ったコートを着て帰った。きっと詩ちゃんと一緒に歩くと絵になるだろうな。よしよし、上手くいった」


 店長は全く彼ら四人の気持ちを察することは出来なかった。


読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。

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