魔王サイド会議「人間が武器庫に転生した理由」
──魔王城・玉座の間。
重苦しい沈黙が支配する空間で、漆黒の玉座に座する魔王ヴェルゼルグが、鋭い黄金の瞳を光らせていた。
その前に跪くのは、智将ゼルガと老魔導士グランベル。
石床の上には、古びた魔導書と、蒼く脈動する魔力結晶が並べられている。
「──報告しろ」
魔王の声は低く、だが圧倒的な威圧を伴って響いた。
ゼルガが一礼し、重い口を開く。
「はい……魔王様。
調査の結果、“第七武器庫”で発生した異常事態──
あれは、長年武器庫に施されてきた“複雑な封印術”の劣化に伴う、
武器たちの自我の暴走現象である可能性が極めて高いと考えられます」
「自我の……暴走だと?」
魔王の眉がわずかに動く。
グランベルが震える声で補足する。
「はい……元より、あの武器庫は単なる倉庫ではなく、
強大すぎる力を持ち、人格を宿した“禁忌の兵器群”を封印するための特別な結界。
武器たちの“感情”や“欲求”を抑えるために、何重にも術式が編み込まれていました」
「だが、何百年もの時が経つ中で、その封印の力は次第に弱まり……」
「……誰にも使われず、ただ存在を否定され続けた兵器たちの“寂しさ”と“承認欲求”が、
ついに枷を超え、暴走を引き起こした、というわけか」
魔王が低く呟き、黄金の瞳が細められる。
空気が一層冷え込み、場の空気が凍りつく。
「──だが、だ。
それを抑えるために、何故“異世界の人間”が武器庫と融合した?」
沈黙が落ちる。
やがてゼルガが、小さく息を吐き、答えた。
「……それは、“緊急召喚プログラム”によるものと思われます」
「緊急召喚……?」
「はい。かつて人界の賢者たちが、もし武器庫の封印が破綻した場合に備え、
最終手段として“異世界から適合する魂を呼び寄せ、武器庫の中枢と融合させる”術式を残していたようです」
「……!!」
魔王の眼光が鋭くなる。
「つまり、“異世界の誰か”を無理やり引き寄せ、
暴走した武器たちを抑える“マスターコード”として使う、という計画か」
「その通りです」
グランベルがうつむき、魔力結晶を震える手で示す。
「この結晶が示す波長は、確かに“異世界”のもの。
おそらく、今回の転生者は、
武器たちの“使われたい”という願いと、
緊急召喚プログラムの発動条件が重なり……
偶然ではなく、必然的に引き寄せられた存在なのです」
「……ならば、これは“人界の賢者たちが仕組んだ罠”というわけか?
いや──」
魔王の瞳がわずかに見開かれる。
その視線の先には、今なお震える結晶が淡い光を放っていた。
「いや……違うな。
これは……偶然ではない。
武器たち自身が──“あの子たち”が、彼を呼んだのだ」
「え……?」
ゼルガが困惑の表情を見せる中、魔王は静かに言葉を続ける。
「……誰かに使われたい。
誰かに選ばれたい。
あの力を持つがゆえに封じられ、存在を否定され続けた武器たちの、
“叫び”が、世界の理を捻じ曲げたのだ。
──それは、“彼女たちの願い”が生んだ存在。
ならば、彼の存在は……この世界の可能性だ」
「可能性……?」
「そうだ。
この世界に災厄をもたらすのか。
あるいは、希望をもたらすのか。
それを見極めるのは……この私の役目だ」
魔王の瞳が妖しく光り、口元にわずかな笑みが浮かぶ。
嵐の予感が、静かに魔王城を包み込んでいった──。