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第一話 生活安全課


 ―魔法省


 ここは、日本国の行政機関であり、財務省、外務省、経済産業省、警察庁、総務省とともに六大官庁と呼ばれる。

 言わずもがな、日本屈指の魔法大学を卒業したエリートが集まり、日本国民の憧れの的である。

 しかしながら、魔法犯罪を取り締まる「犯罪特務課」、外交魔法を扱う「魔導外務課」、呪物管理を担う「禁制品対策室」など、錚々たる部署が並ぶ中、ここにも左遷先として魔法省内で馬鹿にされる部署がある。


―生活安全課


 西園寺正太郎はわけあって生活安全課へと異動になり、東京にあるオフィス前にいる。オフィスといっても、前の勤め先である魔法省の関東管区本部ビルと比べるとあまりにひどいものである。

「君が西園寺君かね」

目の前の雑居ビルのボロさに衝撃を受けていると、そのビルの三階の窓から声がした。

「エレベーターを使わずに上がってきたまえ。ここのエレベーターはすぐ止まるんだ。」

そう言われ、重たい正面玄関の扉を押し、ミシミシと音を立てながら階段を上る。三階につき、生活安全課と書かれた木製の表札が掲げられた扉を開けた。


「おー、待っていたよ」

四十歳ぐらいのおじさんがタバコをふかしながら言う。

「はい、今日からお世話になります西園寺と言います。以前は犯罪特務課に所属していました。よろしくお願いします」

「まあ、そんなにかしこまらなくていい。私は田中だ。ここの課長をやってる、よろしく。早速だがここの部署のー」

 電話が鳴った

「んもー、タイミングが悪いな」

そういって田中は電話に出た。

 

「はー、本気で言ってんの?」

 

「まじかよ」

 

「分かったよ、到着するまで何とかしといて」


会話が終わり、田中が電話を切る。


「さっそく仕事だ。ついてこい」

正太郎も訳も分からず付いていき、下に止めてあったセダン型の車に飛び乗った。


「君、どれぐらい戦える?」

走り出して早々に田中が聞く

「まあ、Bランクなのでそれなりには」

 

 ランクとは魔法省が定めた魔法省職員の戦闘能力によって分類された段階制度で、ランクによって受け持つ仕事が大体決められる。正太郎が属するBランクはかなり優秀なほうで、全国に五百人ほどしかいない。

 

セダンが唸りを上げながら、東京の市街地を駆け抜ける。

 車体はくたびれたように軋んでおり、エンジン音も現代の車とは思えない重低音を響かせている。

「この車……ずいぶん年季が入ってますね」

 西園寺が何気なく聞くと、田中はにやりと笑った。

「おお、わかるか? これな、昭和の終わりに作られたセダンでな。魔法省が初めて魔力駆動エンジンを試験導入したモデルなんだよ。当時の最新式のアメリカのエンジンをまねて作ったんだ。もう三十年モノだが、なかなか働く」

「……現役なんですね」

「そーだな、わざわざ燃費の悪い魔力駆動エンジンを開発する企業はもうないからな」

 車内にはヨーロッパ風の音楽が流れ、シートの隙間からタバコの香りが染み出している。内装は革張りだが、ひび割れや手縫いの修繕跡がいたるところにある。だが、不思議と居心地が悪くない。


「それで、どこに向かっているんですか?」

「清南魔法学園。生徒が使った魔法か、外部の攻撃かは不明。けど結界が一部吹き飛んだって話だ。被害も出てる」

 田中はそう言うと、灰皿に吸いかけのタバコをねじ込んだ。

「清南……って、あの国内でも指折りの名門校ですか?」

「ああ。問題はそこに、うちの課に所属してる近衛光がいたってことだ」

「高校生で……生活安全課?」

 西園寺は眉を上げる。そんな人事、聞いたことがない。

「まあ色々あってな。あいつは課に属しながら学生生活を送ってる。……ただの高校生じゃない。」

 田中の声が少しだけ硬くなる。

「彼の父親は、近衛圭一。十年前に殉職した、世界的な魔術師だ」

「……!」

「光はその息子で、遺伝的に魔法の才能に恵まれてる。ぶっちゃけ、俺や君なんかじゃ相手にならん。明るくて社交的だが、怒らせると――手がつけられない」

 

セダンは急ブレーキをかけて校門前に停まった。

 清南魔法学園は煙と魔力の残滓に包まれ、警備部隊が結界を再展開している最中だった。

「行くぞ。状況によっちゃ、リングを開放しなくちゃならないかもしれん」

「……リング?」

「そう、“あいつの力”を制御してる手首についてるリングだ。外れると、そこらの建物ごと消し飛ぶ」


 校舎内――。

 爆風で崩れた三階廊下の一角、氷の魔力で凍りついた空間に、一人の少年が立っていた。

 近衛 光。魔力の残滓を見つめている。

「……逃げられたか」

 その目は怒りで染まっているが、どこか悔しさも滲んでいた。

「……チッ。」

 拳を握り締めたその時、後ろから足音がした。

「おーい、光。やりすぎんなよー。校舎の建て替え、どこが負担するとおもってんだよ」

 田中が笑いながら現れた。後ろには西園寺もいる。

「……課長。遅いですよ」

「ったく、生意気な高校生だよまったく」

 だがその顔は、どこか安心したようにも見えた。

「それで、沙良は?」

 光は、深く息を吐いた。

「攫われました。転移魔法で、座標は撹乱されてます。おそらく……狙ってました、最初から…」



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