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光の在り処は闇の中  作者: 結野セキ


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『交番で話を聞いてもらった僕たちは、パトカーもどきみたいな車に乗せられた。親身になって話を聞いてくれて、これで助かった、あの苦しみから解放される。夜が朝日によって晴れていくみたいな気持ちになっていた。けれども、朝がくれば夜もくる。車は、僕たちが歩いてきた方向に進んでいく。見覚えのある景色が、まき戻っていく。家に着く頃には、太陽が屋根を照らしていた。母はまだ寝ているだろうか。できれば、寝ていてほしい。こういう時こそ、眠っていてくれ。警官が家のインターホンを鳴らすと、中からドンッと音がして、ドアが勢いよく開いた。髪はボサボサで、顔も腫れぼったい母がそこには居た。母が警官の人と話しているのを、そばで聞いていた。「ご迷惑をおかけしました」「本当にありがとうございました」本当に母なのかと疑いたくなるような声で、頭を下げていた。警官もさりげなく虐待のことを口にした。こういう事件も多いから、と。母は顔色ひとつ変えず、聞き入っている。時より髪のすき間から覗く鋭い瞳は、家に入った後に起こる出来事の予告編にみえた。「じゃあ、お母さんの言うことも聞いて、もう無茶なことしないようにな」警官は、僕と妹の頭をポンポンと撫でて、車に乗り込んだ。発車音が、妙に冷たく腹が立った。僕たちはこれからどうなるのだろう。今、占いコーナーが流れるとしたら、僕たちの順位は最下層にまで落ちているはずだ。ラッキーアイテム、警官が何の役にも立たず、逃げていったのだから。床に滴る血が、冷たい床に落ちた。妹の血と僕の血が混ざった赤いシミ。壁にも家具にも、飛び散っているのが薄目でわかった。「ごめんなさい! ごめんなさい!」僕は必死に叫ぶ。妹の上に覆いかぶさるが、腹を蹴られのたうち回ることしかできなかった。視界が曇っていき、妹の嗚咽と声にならない声が、漏れ聞こえた。あと何度、殴られれば終わるのか。あと何分、蹴られれば反省したとみなされるのか。妹には手を出さないでくれ。出ていこうと誘ったのは僕なんだ。叫ぼうとしても、喉が狭まり声は出ずに消える。母が部屋を出る音がした。終わった。今日はこれで終わったんだ。妹の手を取って、抱きしめる。力は入らないけれど、妹も握り返してきたのが伝わってきた。その瞬間、母が何かを床にたたきつける。音に驚き、目を見開いた。そこには、僕の刺繡セットが割れガラスみたいに、ばらばらになって散らばっていた。羽を重くされた小鳥が、小さく羽ばたいたかのように見えた。飛ぶことはできないのだ。僕がそうした。どこにも行けないように、ここに縛り付けたから。「お前はまたこんなくだらないことばっかりして!」と母が叫ぶ。耳の中で母の声がハウリングを起こす。「言うことを聞かないなら、罰を与えるって、前に言ったよな」と母が言いながら、針に糸を通している。「どっちが罰を受けるか、選べ」「僕が、僕が受けます」と即答した。頭を下げた。額を血の染みこんだ床にこすりつける。母に髪を引っ張られ、壁に押し付けられた。意識を保つのが難しいほどに頭が痛い。でもすぐに、そんな頭痛などはるかに超越した痛みが、僕の体を襲った。「あぁぁぁ!!! 痛い! 痛い! お母さん!!!!」目に針が通っていく。視界が真っ赤に染まっていく。痛みにもがき、苦しみ、目を開けようとするたびに、激痛が指の先まで広がった。「誰が! 誰か! 助けで!」そう叫んだのが、最後の記憶だった。それからどうなったのか、僕は知らないが、痛みとだけが残り、視界は失っていた。妹の手を感じる。血が渇いたのだろう。撫でると、ポロポロと破片が砕けた。僕も妹も、あの小鳥のように、飛び立つことができない体になってしまっていた。』


 小説の再生が終わった。いつの間にか呼吸が浅く、息切れを起こしそうになるほど、救いようがない話。それなのに、読むのをやめられなかったし、また読みたいとも思ってしまう。

 そういえば、僕は何が原因で目が見えなくなったのだろう。両親からは病気ときいているけれども。定期的に病院にも行っているし、とくに心配はしていない。まぁでも、良くなることはない分、悪くもならないのだろうとも思う。

 風呂から上がり、水を一杯飲んでから、ベッドに入った。次はどんな本を読もうか。今回の話はちょっと疲れてしまったから、たまにはほっこりするようなお話しでもいいな。それか、しばらく読書はお休みして、エイデンに専念するか。あのカイジュンって言う人、いろいろ教えてくれて優しかった。僕も何かを身につけられるように頑張らないと。


 朝は、屋根に当たる雨の音で目が覚めた。途端、今日一日のモチベーションが下がる。また雨かぁと、重い腰を上げながら部屋を出た。朝ごはんを食べている間に、インターホンが松浦さんの来訪を知らせた。両親はいつの間に松浦さんと仲良くなったのだろう。すぐに玄関まで出られない僕に代わって、母が玄関に向かった。


「おはよう、松浦さん」

「おはよう。今日、鳥山くんの、お父さんが、車で、連れていって、くれるって」


 あまりに僕がめんどくさそうな顔をしていたのだろう。両親には何も隠せそうにない。


 車から降りて、松浦さんの腕につかまる。いつしかここが定位置になっていた。

 いつもよりも早く学校に入ったのに、教室の中にはすでに何人かの声がした。その一人に海くんが居た。


「おはよう、海くん。昨日やっとスキルを貰ったよ」

「おぉ! エリアはどこにしたんだ? スキルは何だった?」


 鞄を机に置く。


「アレクサ大灯台・ファロスにした! なんか遠くまで見えそうだから」

「誠一郎らしいな、スキルは?」

「えっと……、実は読み方がわからなくて。ゲームの中でも文字が読めなくて

苦戦してたんだよね」


 僕は机に指を立てる。そして、昨日見た漢字を書いていった。

 海くんは「おんし、かなぁ」と、教えてくれた。


「音視かぁ。海くんのスキルは何なの?」

「俺は、選んだのがアルメス神殿・エソスなんだ。貰ったスキルが、尽久。背中に守るべき仲間が居ると、体力が尽きないんだ」

「無敵じゃん!」


 海くんは声を上げて笑う。


「そう簡単じゃないんだよね。体力は減らないけど、吹っ飛ばされることもあるし。誠一郎くんも発動する条件とかあるのかも。単純に考えて、音が見えるスキルかもしれない。スキルにもいろいろあるからね」


 音を見る、か。そんなことができるのだろうか。もしそうだとしても、それが何に役立つのか? 聞いて認識するはずの音を見る意味があるのか。僕には到底、想像がつかなかった。もしかして、すごく弱いスキルなのかもしれない。

 教室には、人が増えていた。ほとんどの生徒が登校してきている。時期に腕のスマートウォッチが震えた。席に戻り、鞄の中を出す。


「また、ゲームの、はなし?」


 松浦さんが訊いてくる。


「うん。今日から本格的に始められそう」

「そうなんだ、楽しんでね」


 今日も、カイジュンと回ると約束していた。戦いの基本を教えてくれるのだという。楽しみで楽しみで仕方がないけれど、両親との約束の勉強もちゃんとやらないと。

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