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光の在り処は闇の中  作者: 結野セキ


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 スキップでもしてしまいそうな気分で、洗面台へと向かった。スキップなんてものをしたのは、幼稚園の頃だったかもしれない。目が見えなくなってからは、したいとも思わなかったし、たぶんできない。エイデンの中で今度はしてみようか。

 歯を磨いていると、父がトイレから出てきて、僕の脇をすり抜けた。


「ちょっと、ごめんな」

「うん」


 手を洗っている音がする。


「どうだ、ゲームは。頭痛は大丈夫そうか?」


 頷く。


「ほどほどにしとけよ」


 父よりも母の方が、僕がゲームをすることを心配している様子だった。プレイの準備をしていると、部屋を覗きにきては心配してくる。

 頭痛がひどかった理由は、なんとなく見当がついていた。海くんの家で初めてゲームをしたとき、妹さんのアカウントだったということだ。初めての場合、僕も自分の機械でしたけれど、調整が必要だ。それをしなかったのが原因なのではないかと思っている。だから、自分のでするにはいまのところなんの問題もない。

 まぁでも、父のサポートを受けて、母の心配も解消するにはもう少し、指示に従っておいた方が良いと思う。

 布団に体を滑り込ませた。夜でもかなり暖かい季節になった。桜の花はとっくに散って、今は綺麗な葉っぱが揺れている頃だろう。現実世界では見えないけれど、エイデンで見る自然も綺麗だった。僕が選んだ、灯台の町、ファロス。海が見られたらいいな。枕の上に乗せた頭の中で、絵を描くように想像した。


 いつの間にか恒例になった「おはよう」が今日も玄関で聞けた。松浦さんの声は、今日も透き通っている。


「今日、雨が、降りそう、だよ」

「そうなんだ、じゃあ、傘を持っていこう」


 とはいっても、雨の日にはできるだけ歩きたくないのが本音だ。白杖と傘を同時に使うのは、僕には難しい。それに、周りの音が交錯してしまう。いつもよりも難易度が格段に跳ね上がり、体力も削られていしまう。


「曇ってる?」

「うん、分厚い、雲が、あるね」


 顔を上げた。眩しくはない。風が湿り気を帯びている。

 傘を持ち、白杖はたたんで脇に挟んだ。左腕は松浦さんが掴んでくれている。自分の力で行きたいとは思っている。けれど松浦さんがサポートしてくれるおかげで、帰ってゲームをする体力が残っているのも事実。


「松浦さんは、休みの日何してるの?」


 赤信号で止まったときに、特に理由もなく訊いてみた。というのも、入学し、それなりの時間が経過したこの時期、クラスでより深まった中を聞いて知っていた。それができるのは、自分から聞いたり話したりする必要があるのも知っていた。しかし僕の場合、気を遣われる。訊いてはいけないことがあるのではないか、そう思ってくれているのだと思う。だから、僕から訊いて答えてくれたら、僕も答えることを意識していた。


「休みの、日……」


 松浦さんは「んんー」と空気の抜けるような音を出して考えていた。


「こんど、うちに、来てみる?」

「えっ?」


 青信号で交差点を渡り始めたとき、意外な返答に足をとめた。

 でも松浦さんは、僕の反応を気にするそぶりもなく、腕をひく。


「ほら、危ないし、遅れちゃうよ」



 前の席から、紙が何枚か回ってきた。六時限目のロングホームルームだ。尾上くんが回してくれるついでに、一言説明をくわえてくれて、その都度クリアファイルに仕分けていく。

「はい、じゃあ、説明していくな」


 担任がパンッと手を叩いた。


「今年の課外学習は、資料の一ページ目に書かれてある、コンテストの中からひとつ応募してもらう。チーム可とされているコンテストは規定に従った人数で許可する。そこで六月十三日、一日バスを借りて、町をめぐる」


 コンテストは以下の物があると、松浦さんが小声でつぶやいてくれる。

 フォトコンテスト・アートコンテスト・映えコンテスト・ラジオCMコンテスト・学校の一瞬コンテスト。アートとラジオCMで、学校の一瞬はチーム参加が可能という。

 担任が続ける。


「それで、最低でも十三日までには、なにに参加するのかを決めて、二ページ目の項目を書いて提出。もちろん、十三日よりも前に写真を撮ったり、絵を描いたりしても問題はない。守るのは、期限と参加。以上」


 担任はそそくさと別の資料を出すようにと指示をして、次の話に移っている。僕は担任の声を意識半分で聞きながら、コンテストのことを考えていた。

 これまでコンテストといえば、障害者の作文なんかしか参加したことがない。僕にそんなことができるだろうか。もう一度、用意されている各コンテストを頭の中でなぞった。

 写真なら撮れそうだが、自分だけの力では無理だろう。アートなんてもっての外だ。ラジオCMとやらが何なのか、声だけの参加ならできそうだ。気になるのが学校の一瞬コンテストだ。写真なのか動画なのか、はたまた絵なのか。詳しくはわからないが、これまで通ってきた学校とは、違うと思うことを応募してはどうだろう。尾上くんや海くん。松浦さんは何に参加するのだろう。それによっては一緒にチームをくみたいな。


「チームか……」


 そう言えば、海くんとエイデンをプレイしたとき、パーティーと言っていた。僕ももう少し詳しくなって、不自由なく遊べるようになったら、出会った人とパーティーを組めたりするかな。

 頭のスクリーンに理想という映像を映し出した。

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