第一報 突然の異動
大学の研究室を舞台にしたハーレムラノベ。境遇はモデルがいますがヒロイン達は妄想です。
僕は平井宏。東都工業大学の大学院に通うごく普通の大学院生だ。修士2年、つい最近24歳になった。
コンピュータサイエンスの研究をしている。
来年度からは博士課程に進学予定だ。決して特別優秀なわけではないが、地道に研究をしている。
今は修士論文の提出も終わり、春の学会発表に向けて口頭発表の練習をしているところだ。
「…これで私の発表を終わります。」
「15分丁度。良くまとまってるね、合格。」
僕の研究室のボス、水本竜太郎教授。優しいおじいちゃん、というよりマスコットに近い先生だけど、ものすごい功績の持ち主だ。
「この感じで週末の学会の口頭発表もがんばってね。」
「ありがとうございます!」
「ここで爪痕を残せれば留学の足掛かりにもなるからね。」
「はい、がんばります!!」
「そうそう、君の発表の後に会わせたい人がいるから。」
「えっ誰ですか?」
「それは会ってからのおたのしみじゃよ」
水本教授はいたずらに微笑みながらその場を去っていった。
それが僕の運命を変える出会いになるとはこの時は思ってもいなかった。
・・・
「よっお疲れ!練習どうだった?」
「なんとか合格もらえたよ。」
「うえーい、お疲れ!」
こいつは研究室同期の上沢海人。学部生の頃からの親友だ。
「しかしもうすぐ卒業だというのに大変だなー。」
「そっちこそ1か月後には就職だろ?」
「だから今遊びまわって大変なんだよ。はいこれ、卒業旅行のお土産。」
そう言って上沢は各地のお土産をどっさり僕に渡した。
「木刀、熊の彫り物、ドラゴンのストラップ、剣のボールペン…中2かっ!」
「ハハハ、お前にちょうど良いものも買ってきたぞ」
そうして上沢はあやしい袋を取り出した。
「恋が実る飴…うさんくさすぎるだろ!」
「ハハッ、お前に恋人ができることをお祈りしているよ。」
「クソッ僕が6年間女子と仲良くなるどころかまともに話したことも無いことを知っているくせに!!」
「お前はバイトも男だらけのところだったからなー。彼女が欲しかったら俺みたいにカフェを選ぶこったな。」
「うう、僕がスタバ怖いのを知ってるくせに。」
「とにかく俺が給料を貰ったらおごってやるから。博士生活、楽しめよ!」
「ああ、お前も就職先の大阪でがんばれよ。」
「その前に明日から彼女と沖縄へ卒業旅行だよ。シーサー買ってくるからがんばれよ。」
そうだ。上沢が卒業したら研究室は僕一人。M1の代もB4の代も全員学部で就職したのだ。正直人見知りの僕が上沢なしで新4年生を迎え入れるのは不安があるが、東都工業大学の学生なんてみんな似たようなもの、きっと大丈夫だ。
・・・
3月某日、学会発表の日がやってきた。
会場は東都工業大学から電車で20分ほどの欅坂女子大学。
会場が女子大と聞いただけでドキドキしてたが春休み中なこともあり学生は少なく、いつもよく見る学会の風景だった。
僕の発表は1日目の13時から。
午前中は同分野のセッションやポスター発表を聞き、緊張で昼食を食べる気分にならなかったので自動販売機でジュースを買って、外のベンチでぼーっとすることにした。
これから発表か。こんなことで緊張してしまうなんて今後大丈夫だろうか。
僕は緊張を紛らわせるためにジュースを飲み干し、会場へ向かった。
セッションの中で僕の発表は4つ目。うう、胃が痛くなってきた…
座長は…この大学の中島くれはさん…僕と同学年なのに座長なんてすごい。前回の学会では若手賞を受賞していたし、僕にとっては雲の上の存在だ。
「他に質問はありませんか?…ない様ですので終了します、ありがとうございました。
それでは次の発表に移ります。東都工業大学大学院、平井宏さんの発表で…」
・・・
「…以上です。」
発表部分は上手くいった、と思う。でも本番はここからだ。発表なんて練習通りにするだけ。予想のつかない発表の後の質疑応答こそ本番だ。
「質疑応答に移ります。質問がある方は挙手をお願いします。…はい、そちらの方。」
来てしまった。
周りを見ると、僕が良く知らない中年男性が手をあげている。どこかの教授だろうか。
「素人質問ですみません。そちらのパラメータ設定について…」
しまった。これは僕の研究範囲では無くて上沢が担当していた部分だ。
「はい、非常に良い質問です、私たちもその部分は苦労していて、えっと…」
答えられない。当然上沢はこの場にいない。今頃沖縄で波乗りでもしているだろう。誰か、教授…
「あの…すみません…ちょっと…わからなくて…」
「それくらいのこともわからないの?」
座長席から声が上がった。
「本当に基本的な事よ?ここは●●先生の論文に乗っている●●●を応用した●●構文を用いて…
…というところでよろしいかしら。」
「ああ、ありがとう。それを踏まえて議論をしたかったのだけど、ちょっと難しそうかな。君のボスに確認しておくよ。」
「そうしたらいいと思うわ、ベルリン大学の古木教授。」
古木教授だって!?僕が憧れていたベルリン大学の!!写真では見たことがあったけど写真と全然違うじゃないか!学会でいいところを見せられたらスカウトされるかも…なんてことも考えていたけど大失敗だ。
・・・
「それでは終了します。平井さん、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「これから20分の休憩に入ります。再開は15時からになっています。次のセッションは…」
ようやく僕のミッションが終了した。頭が真っ白、燃え尽きた。
席に戻り一息ついたところでスマホを確認すると教授からメッセージが届いていた。
【お疲れ様。そろそろ終わったかな?紹介したい人がいるんだ、建物の入口に来てくれるかい?】
僕は荷物をまとめて急いで部屋を飛び出した。
建物の入口では水本教授と水本教授にそっくりな人が歓談していた。
「おーい、平井くん、こっちだよ。」
僕は急いで駆け寄った。
「紹介するよ、こちらはワシの学生の平井くんだ。」
「はじめまして、えっと…」
「平井くん、噂はかねがね聞いているよ。ワシは竜太郎の兄、林田虎太郎。ここの欅坂女子大学で教授をしている。よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
本当にそっくりだ…水本教授に兄がいるということは聞いていたが…
「さっきの発表聞いてたよ。あの質問は災難だったね。」
「いや、ひたすら僕の勉強不足につきます…」
「やっほー!竜ちゃんお久しぶり!」
突然女の子が現れ、水本教授に抱き着いた。
「!? 中島…くれはさん…?」
「何、あんたさっき発表してたザコね。」
「これこれ中島クン、ザコはやめなさい。」
「だってこの人、●●論文も読んでなかったのよ。ありえないわー。」
「そんなこと言わずに。来年から同じ研究室になるんだから。」
「「え????」」
「この間腰をやってしまってのう。いい機会だから引退することにしたんじゃ。そこで研究室を竜太郎に引き継ぐことにしたんじゃ。」
「という訳で、平井くん、4月からこのキャンパスに通う事に決定じゃよ。仲良くするんじゃよ。」
突然の通達に僕は固まった。
「えっどういうこと!!!突然なんなの!?そんなの聞いてないわ!!」
「さっき決まった事じゃ。」
「男子が来るなんて嫌!!絶対いや!!ここは女子大よ!?」
「博士課程からであれば男子が入ることは問題ないんじゃよ。」
「うう…ちょっと、向こうで話しましょ!私は認めてないからね!!」
くれはは林田教授を連れてどこかに行ってしまった。
「という事で、4月から頑張ってくれたまえ。どこに行ってもやることは一緒、研究すればいいから。じゃ、ワシはこの後会議があるから失礼するよ。17時に5号館6階の林田研究室に集合じゃ。」
そう言い残すと水本教授は去ってゆき、僕は突然の事態に途方に暮れた。
・・・
学会が終わり、時間になったので5号館6階、林田研究室のドアの前に来た。
制度としては問題ないといいつつも、女の園であるわけで、訪問するだけでも緊張する。
ドアを開けようとしたところで丁度ドアが開いた。
「あら、さっきの。遅いから探しに行こうと思っていたところよ。」
くれはがドアを開けた。林田教授と何を話したか知らないが、くれはは若干涙目になっていた。
「ぼーっとしてないで、さっさと入りなさい。」
くれはが腕をつかんで僕を研究室に引っ張っていった。
部屋には水本教授、林田教授と5人の学生がいた。
「ちょっとみんな注目!4月からの新メンバーが来たわよー。」
「あ、はい。4月からお世話になります、新D1の平井宏です。あはは、よろしく…。」
「みんな仲良くしてやってくれよー。とくに中島クン、同学年なんだからよく教えてあげるんじゃよ。」
「フンッ!知ってると思うけど、私は中島くれは!新D1よ。M2にして●●賞を受賞した天才美人女子大学院生中島くれはとは私の事よ。せいぜい足を引っ張らないようにがんばりなさい!」
「くれはちゃん自信満々~。」
「ちょっと!く・れ・は・先・輩!先輩をつけなさい!」
「はいは~い、ごめんねぇ~。平井先輩、私は波留なずなだよ~。新M1だよ~。よろしくね。」
「平井先輩!自分は小田あんなであります!同じく新M1です!ご指導よろしくお願いします!」
対照的な二人が自己紹介をする。波留さんはアナウンサーみたいにかわいらしく、小田さんは部活やってますという感じで元気いっぱいだ。どちらも今まで僕の人生で関わった事のないタイプの女性だ。
「あっ、あの…宏くん、だよね、久しぶり。」
「えっ…ののこちゃん?」
「うん、西宮ののこだよ。M2なんだ。これからよろしくね。」
西宮ののこちゃん、僕が小4で引っ越すまでの幼馴染で、当時習っていた実験教室の良きライバルだった子。あの頃は引っ込み思案だったけど、実力はピカイチだった。面影はあるが、見違えるほどキレイになってる。
「ののこちゃん久しぶり!みやちゃんは元気?」
「あっ!その話は…後でするから…」
「?」
みやちゃんの話を出すと、みんな目をそらす。何かあるのかな。
「最後になりましたが、風岡うたです。B4です。よろしくお願いします。」
「風岡さん、よろしくお願いします。」
風岡さんは目をそらし自席に戻ってしまった。冷たい感じだ。そうだよね、急に僕みたいな異物が入ってきたらびっくりするよね…。
新しい研究室のメンバーに挨拶を済ませたところで、今日はそそくさと退散することにした。
「では4月からお願いします。」
本当に緊張した…僕の事を良く思っていないメンバーもいるみたいだし、やっていけるのかな。胃が痛いよ…
駅に向かって歩いていると、誰かが僕の腕をつかんだ。
「宏くん!」
「ののこ、ちゃん…?」
「宏くん、話があるんだけど…お姉ちゃんのことで…」
続く。