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8. "あの者たち"

「まず今夜は一旦わたくしの家に行きましょう」


 ウサギの穴ぐらに戻った。()(かく)二羽と一人は暖かい巣穴で一晩を過ごすことにしたのである。


 翌朝カラスが空を飛んで何か異常があるか確認したが、特別変わったことはなかった。


 ウサギは朝早くから台所でせっせと朝ごはんを作っていた。レタス、ニンジン、トマトのサラダと炒った豆のスープ、米粉のパンだ。腕によりをかけて作ったご馳走にハナオカは眼を輝かせた。一方カラスは料理を見た途端、はぁと溜め息をついた。(これは料理を作った人に失礼だ)


「ふぅ~ん……、なんか野菜ばっかだなぁ……。ここに肉が入ってると最高なのだが……」


 絶妙にブレンドされたオリーブオイルを戸棚から出していたウサギの長い耳がピクッとなった。


 大変だ。


 ウサギを怒らすと厄介なのだ。


 サラダにオリーブオイルをかけているウサギは唾を飛ばしながら喋った。


「文句があるなら食うな! 森の中で死肉でも探してくればいいだろう!」


 ハナオカは唾がかかっていそうな表面の部分を丁寧によけて食べ始めた。


「まぁいいけどよぉ、でっ、これからどうするんだ?」


 カラスに話をスパッと変えられ、ウサギの怒りのバロメーターが75%に上昇し、眉間がピクピクし出す。


 我々は平和と安寧のために、この"ウサギイライラバロメーター"がついに爆発しないことを心から願いたい。


 ハナオカはカラスに質問されるまでもなく、昨晩からずっと今後のことを考えていた。考えすぎてあまり眠れなかったくらいだ。


「うむ。まず、"あの者たち"がいつ現れるかだな。どんな奴らか一目見られれば、策は練りやすいが……」


 ハナオカ様の右腕として無駄に使命感が強いウサギは怒りも忘れ、考えを巡らした。


「うーん……。奴らの姿を見る方法……。


 ん?!


 誰かがオトリになって、奴らを誘きだせば良いんじゃありませんか? ……わたくしはなんと素晴らしい軍師なのでしょう!」


 一人で浮かれているウサギ。かつて愛する彼女に振られた原因はこれだろう。


 ハナオカとカラスは互いに見合って言った。


「オトリに誰がなるんだ?」


 そしてウサギを振り返った。


 言い出しっぺがオトリになるのが世の常というものだ。


「 わたくしゃ、絶対にイヤですぅ!(ウサギ)」


 そう言うと、小瓶の裏にさっと隠れてしまった。


「この臆病者めが(カラス)」


 吐き捨てるように呟いたカラスのせいで再び怒りが75%へと上昇した。どかどかと足を踏み鳴らしてカラスの前に立った。


「では、おぬしがオトリになれ! 鳥だけにオ()()になるのが上等だ! それに空を飛べるのだし、すぐに逃げられるんだろう?(ウサギ)」


「ヤダね。特に夜は(カラス)」


「そうか、鳥目だからか……、使えぬな(ウサギ)」


「なにを抜かすか!(カラス)」


 豆のスープを飲み干し完食したハナオカは満足の腹をぽんと叩いて言った。


「ウサギ、うまい飯をありがとう。カラス、朝の見回りありがとう」


 二羽は、ぽわわんとした顔をしてハナオカを見た。


「では俺がオトリになろう(ハナオカ)」


 二羽は顔を見合わせた。


「そんなぁ、石の使い手であるハナオカ様が捕まってしまったらもともこもありません。それは困ります(ウサギ)」


「そうだ!そうだ!(カラス)」


 フクロウの先生がおっしゃったように、いずれ奴らの方からやってくるだろう。


「よしっ、俺は刀の稽古をしていよう。カラスは上で見張っていてくれ。ウサギは周囲を警戒してくれ。奴らが来る気配があったらすぐに教えてくれ(ハナオカ)」


「って、それだけですか?(ウサギ)」


「大丈夫さ(ハナオカ)」

 

 ハナオカは、早速刀の稽古を始めた。森を走り、刀の素振りをして、重い丸太を縄で縛り、腰に巻き付けて引っ張った。日頃の訓練が重要なのだ。


 日が傾き次第に薄暗くなり始めた時、カラスが突然鳴き始めた。


「どうした!?(ハナオカ)」


「何やら東の方で黒いものを見た!(カラス)」


「本当? 鳥目で見間違えたんじゃないの?(ウサギ)」


「違うわ! このくらいだったらむしろよーくはっきり見えるんだぞ!(カラス)」


 カラスの飛ぶ方向へハナオカとウサギは急いで走っていった。


「隠れろ!」


 1体の黒装束を着た者が野犬を捕まえていたのだ。赤い不気味な光線が犬を包み始め空中に浮いた。バタバタもがいていた犬は動けなくなった。黒い服が手(?)にしていた小さな袋の中へ犬は吸い込まれていった。


 あれが、"あの者たち"なのか?


 ハナオカたちは茂みからじっと観察していた。目も顔もない。長いマントのような彼らの後ろ(?)(そもそもどちらが前か後ろか判別できない。なぜなら彼らは前後左右にスゥーッと移動するからだ)から出ている。手のように見える突起は必要ない時は消えるらしい。


 あの小さな袋の中に皆を取り込んで連れ去るのだな……。


 黒服の進んでいく先を追う。カラスは頭上高くから、ウサギはすばしっこく木の裏や茂みへと身を隠しながら距離を詰めていく。ハナオカも木々の間を縫うようにしながら追いかけていった。


 一体黒服はどこへ向かっていくのだろう?


 川が流れているところまで来て黒服は急に立ち止まった。


 感づかれたか……。ハナオカは心臓がドキドキいった。こっちを振り向いたらどうしよう……。


 黒服はスゥーッと川の中へ消えていった。


 この川の中に奴らはいるのだろうか?


「ハナオカ様! これを見て下さい!」


 ハナオカはカラスと一緒にウサギの所へ歩いた。ウサギが指差した先を見ると、赤いキラキラした輪のようなものが空中に浮かんでいる。


「あれは何でしょうね?」


 ウサギが振り返った。ハナオカは恐る恐るその輪の(ふち)に手を近づけた。電気を感じたように手の皮膚がピリリとした。


「もしかしてあいつらの出入口か?」とカラス。


「たしか川の中へ消えていくのを見たが……」とハナオカ。


 ハナオカは思いきって輪の中心へ手を差し入れた。次の瞬間、ハナオカは輪の向こう側にいたらしい何者かによって引き込まれた。


「ハナオカさまぁー!(ウサギ&カラス)」


 2人ともハナオカのあとに続いて輪の中へ飛び込んでいった。

えっと、今日は屋外でのインタビューとのことでやって来ましたが…、道路が目の前にありまして…。ややっ! 空からやって来られました! どうぞっ!

【カラスのヒトコト】

おれはカラスの中のカラスだ! と言いたいとこだが、世間一般の(?)ハシブトガラスさ。頭良いんだぜ、カラスって。一番頭が良い動物は、人間の次にカラスだと思っているぜ。道具を使ったり、時には人間を使ったりできるんだから。固い木実を道路のちょうど良い位置において人間(車ね)に踏ませるんだ。くちばしで微調整を加えながら…っと、ぃやった! 実が割れたよ!

(いつもお腹がすいてるカラスさんでした)(作者記)

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