43. 冥王星の黒歴史
「おれ様を呼んだかぁ?」
その頃、ハナオカ少年はというと、黒男の最終兵器工場内にある執務室で、闇のダークホース――暗黒帝国設立を企む、真の黒幕と対峙していた。そう、黒男でさえ、恐れおののく存在。過激で、危険な軍事活動家、シベリウヌス・プルトーである。彼は冥王星人だった――。
冥王星は、宇宙人たちの間で、"死者たちの星" と呼ばれ、星巡り観光業界の調査では、"絶対に行きたくない星"の第2位に堂々ランクインしている。不人気の原因は、もちろん、そこに住むエイリアン達だ。
実のところ、彼ら冥王星人は、"二度死ぬ" 種族なのだ。気味が悪いと言われるのも無理はない。
まず一度目の死は、成長過程のプログラム細胞死によるものだ。冥王星人の体は、特殊エネルギーを保有する万能細胞で出来ていて、どんな器官にも分化できる。しかし、細胞の増殖スピードが異常なほど速いために、複製・転写過程に何らかの異常が起き、"おかしな細胞" ができてしまうことがある。放っておけば、悪性腫瘍となり、体を食いつくしてしまう。そこで必要なのが、"アポトーシス" である。彼らが自ら望むときに、身体をまるごと死なせることができるのだ。
アポトーシスすると、全細胞が瞬時に死滅し、半ば腐敗する。だが二日ほど経つと、小さな塊となった肉体は、目覚めたように増殖を始め、再び正常な姿へと再構築される。一度行えば、記憶細胞によって腫瘍化への免疫がつくため、同じエラーは起こらない。とはいえ、正常な冥王星人でも腫瘍は2、3個の腫瘍ができるのは普通で、中にはアポトーシスの失敗によって、大量の肉の塊が突き出た恐ろしい姿になってしまう者もいる。しかし彼ら自身は、そのような外見を気にすることはない。自分の体が気に入らなければ、またアポトーシスすればいいだけだからだ。
二度目の死――。それは地球人の時間軸でいう2006年、冥王星が、"太陽系第9番目の惑星" の称号を剥奪された時に訪れた。
"準惑星" への降格 *は、プライドの高い冥王星人にとって、耐え難い屈辱であった。彼らは、星全体でアポトーシスしたのである。これは事実上、全宇宙――とりわけ地球に対する宣戦布告となった。
その日を境に、冥王星では、反地球的な報道が連日続いた。政治家や軍事評論家は口を揃えて、「冥王星の衰退は、地球の横暴によるものだ」と語り、アニメやドラマの内容までも、「打倒! 地球人!」や、「みんなで地球を倒そう! 今こそ一躍火の玉だ!」などと、"反地球" を訴えるものへと書き換えられた。
学校では、愛国ならぬ"愛星" の精神の徹底的教育が行われ、子どもたちは地球征服の戦士となることが期待された。事実、子供たちの多くは戦士となり、地球人を打ち倒すことへの憧れさえもつようになっていた。プロパガンダが日常を包み込むにつれ、人々の思考も感情も、同じ方向へと染まっていった。星のために団結し、大きな敵に立ち向かう――その高揚感が人々を支配した。
民衆の熱狂ぶりに、政治家や軍事家たちの独裁をいっそう強めた。メディア統制に加え、他惑星からの情報や物資、さらに用語でさえ危険思想として排除する法律を作った。
反対派からの反発を封じ込めるために、"内部告発者制度" が導入された。当初は、スパイ活動やクーデター防止の範囲で収まっていたものの、事実、星外逃亡を図る者や、非星民となるものが増えたため、より厳しいものに変わっていったのだ。
少しでも怪しい動きをした者は、家族や同僚、友達であっても、密告することが義務付けられた。もし、事実を知っていながら隠していた者は、さらなる密告者によって、公開処刑にされた。
密告者には、兵役免除や、食料、家など、厚待遇を受けられることもあり、人々は積極的に互いを監視し、密告の機会をうかがうようになっていった。他惑星からの輸入が途絶えた冥王星では、ひどい飢饉が生じていたため、密告制度はむしろ、生き抜くために必要なものになっていたのである。
過激な軍事活動家であった、シベリウヌス・プルトーは、前回の総統選挙で、7億8539万4689光年連続で総統になった。そして、彼は冥王星の名誉回復を掲げ、地球の横暴こそが冥王星の苦境の根源であると訴えた。そして、冥王星を最も偉大で輝かしい星にするためには 、"暗黒帝国" を築く必要があると強調した。そこでは、冥王星人が、宇宙の星々すべてを支配し、資源も食料も他星人も、自由に利用できる、豊かで幸福な生活が待っていると説いたのだ。
住民たちは歓喜し、プルトーを支持した。しかしながら中には、声はあげられなくとも、プルトーの長年の独裁政治に不満を持つ者もいた。内部告発者制度があっても、事実、星外逃亡はなくならなかったのだ。それに伴い、プルトーは、より残忍な公開処刑や増税、監視の強化など、民への締め付けをさらに強めていった。
こうして冥王星は、宇宙の中で孤立した "軍星主義" へと突き進んでいったのだった――。
*「準惑星への降格」…(以下ハジメ氏の講義資料に基づく)
2006年8月に、チェコのプラハで行われた国際天文学連合(IAU)総会で、これまで登録された9つの太陽系の惑星の定義をはっきりさせようということになった。そこでは、冥王星が惑星のままでよいのかということが議題にあがった。この議論が起こったきっかけの一つに、後に"エリス"と呼ばれることになる天体"2003UB313"の発見がある。この天体のサイズは、冥王星と同等か、それ以上あると判明している。よく調べてみると、冥王星よりも大きな天体は、他にもありそうだということになった。むしろ、冥王星は、直径2370kmと、月よりも小さい天体ではないかと声が上がったのである。
冥王星が太陽系の9番目の惑星であるなら、"2003UB313"も、第10番目の惑星と呼んでも構わないんじゃないか?ということで、議論は白熱したが、ついにNASAは2005年7月に発表を出した。その結果、"2003UB313"は、惑星とは認められないとされた。さらに悲しいことに、このとき冥王星も、惑星という分類からちゃっかり外されることになったのだ。(悪い意味で、ずらかってしまったのです……。)
IAUは、"惑星"である条件の一つとして、「周りの天体を重力で吹き飛ばして、軌道近くに他の天体がいないこと」を定めた。冥王星や"2003UB313"の周りには、たくさんの天体が回っていることが分かったため、惑星とは認められないということらしい。
☆冥王星の悲しい過去
NASAの「グランドツアー計画」では木星、土星、天王星、海王星を探査するミッションが計画されていた。ボイジャー1号は、木星と土星を探査後、土星の巨大衛星タイタンを接近する軌道を選んだため、(軌道が異なる)冥王星へは行けなかった。
続いて、ボイジャー2号が飛ばされたが、海王星の後に冥王星に行く機会ができたものの、海王星の月トリトンを見ることを優先したため、おじゃんになってしまった。軌道の観点から行くことが難しかったようだ。
なんだかんだと、見放されたような形の冥王星だったが、2015年にニューホライズン探査機が初めて冥王星に接近することができました!(よかった~♪)
(参考資料:「Newton別冊 空間編と時間編を、この一冊に! 大宇宙-完全版-」、宇宙科学研究所キッズサイトより)




