表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/44

41. 晩餐会

 イモムシ星に全員集合したクルーたちは、王の執念にも似たご厚意により、なかば強制的に晩餐会へ召集されたのであった。


 会場に入った者をまず圧倒させるのは、その強烈な色彩である。壁から、床、天井にいたるまで、すべてが執拗(しつよう)なまでに、緑の蛍光色で統一されているのだ。


 他星からのお客人となれば、まず、この会場に通されるのだが、どのエイリアンも一様に、この部屋に入った瞬間に吐き気を催すのだという。


 かつて銀河宇宙美化部門の立ち入り検査があったときも、この会場で数多くの検査官たちが次々と倒れていったそうだ。


 当時の検査官の一人で、タコ星のオクティ・ス・パス2世の狂気じみた報告書には、こう記されている。


『あの部屋は、イモムシ王宮殿の中で、おそらく最大級に倒錯的(とうさくてき)かつ、いかがわしい空間である。あのいまいましい緑色の蛍光こそが、諸悪(しょあく)の根源であり、ありとあらゆる物品や人々を、変態病的気質へと仕立て上げているのだ。それと、天井からぶら下がった、大型装飾電球シャンデリアの形の、なんと、まがまがしいことよ! ああ、一体誰が、この星を正気で愛せるというのか!!』


 ここまで酷評される筋合いはないとばかりに、つい最近、全面的な塗装工事が行われ、さらにどぎつい蛍光が上塗りされたばかりだった。イモムシが一匹、大きくあしらわれたシャンデリアは、さらにイモムシの数を増やしたものに変更された。その異様さは、見開いた目玉がさらに飛び出してしまうほどに、衝撃的なものであった。


 なにより、その悪評が決して絶対的ではないことを示す、強力な "論より証拠" が存在する。


 それは地球人、スズキ・ナオである。


「ねえ、見て! あのシャンデリア、めっちゃ、かわいくない?」


 毒々しく光る装飾電球を見上げ、うっとりとため息をもらした。


「蛍光色って、すごく気分上がるよね! ていうか、この星のセンス、まじで最高すぎない?」


 まるで、夢の国に迷い込んでしまったお姫様のように、この悪趣味な空間を心の底から楽しみ尽くしていたのである。


 さて、クルーたちが案内された丸テーブルには、金縁で厚みのあるお品書きが、一人一人の席に恭しく置かれていた。


<本日のメニュー>

◎特上イモムシスープ~深緑のポタージュ・森の雫 -shizuku-を(たた)えて

◎イモムシソテー~森の芽吹きと若草のソースのマリアージュ~

◎厳選早摘みイモムシサラダ~幼虫たちが愛した大地の恵み・朝露の輝きをまとわせて~

◎至高のイモムシプリン~季節の香りと甘美な誘惑を添えて~

[注意]

 本メニューはいずれも、イモムシを使用した料理では()()()()()()



 ひとまず、安心だ。"イモムシ"と名のつく料理は、全てあの緑色の液体を、浄化・加工した食べ物であり、もとをたどれば、植物の葉である。

 地球人だって、レタスやキャベツの虫食いを気にせずに食べているではないか。それと同じことだ。虫との共存。何も、おかしいことはない。


「……うぇーー。何これ、青汁? まずそう……」


 あれほど部屋のセンスを絶賛していたナオも、さすがに、料理の色には、思いっきり嫌な顔をした。


「スズキ君。ここは、おもてなしの席だ。笑顔で食べるようにしなさい」と、船長ははらはらしながら言った。


 しかし、実際食べてみると、見た目ほど悪くはなかった。むしろ、なかなか美味しかったのだ。


 食後に、イモムシの娘たちの舞いと、イモムシ芸人たちの演芸、大人気イモムシ歌手の歌唱と、『イモムシ座』の舞台講演が続き、会場の熱気はMAXになった。


 楽しい晩餐も中盤にさしかかった頃、イモムシ王が、ずぶずぶと演壇へ上がっていった。がやがやと騒がしかった会場は、しんと静まり、皆がイモムシ王に注目した。王は一同を見回すと、こう語りだした。


「皆々の者。今宵(こよい)は存分に笑い楽しみ、味わい、良い時を過ごされよ。明日は、いよいよ記念すべき祭りの初日である。この日のために我々は、摂生(せっせい)した生活をするよう努め、羽目を外さず粛々(しゅくしゅく)と日々を過ごしてきた。祭りのための準備を、皆が一致団結して行ってきた。皆の努力を、我は褒めたい。

 我々イモムシ星は、宇宙界において、いわれのない非難や冒涜(ぼうとく)の言葉を甘んじて受けてきた。しかし、我々イモムシ星人は何ら恥じるところのない誇りを持っている。

 我が愛する息子が、惑外侵略者により連れ去られ、行方知れずになったあの悲劇の日――。皆が我々のために喪に服し、断食してくれた。

 我らイモムシ族の間には、イモムシエキスの如く、粘り気のある堅い絆があると、我に再認識させてくれたのである。

 現在も、侵略者の脅威が続いている中、皆が忍耐し、勇敢に我らに協力してくれていることに、感謝の意を表する」


「ワーー!! オーー!!」


 イモムシ達は感激した。なかには涙を流しているものもいた。


「なんと素晴らしい王でしょう!!」

「我々は、いつまでも王と共にありましょう! ご子息はきっと戻ってこられます! その日を見るまで、我々は死にません!」


 民の言葉を聞いたイモムシ王も、大きなエメラルド色の目をきらきらと潤ませた。


***

 クルーたちは、大きなゲストルームへ泊まるように勧められた。本館7階からは、イモムシ星の広範囲がよく眺められた。遠く水平線まで、濃い緑色の海が広がっていて、一艘(いっそう)の船がイモムシ印の旗を掲げて航行しているのが見えた。


 陸地に目を移すと、丈の長い草が草原の所々に、カラフルなドーム状の小さな建物が集合しているのが見えた。イモムシ達の家である。彼らの家は、草原の草と、イモムシエキスを混ぜた固い粘土で作られており、意外と頑丈なのだ。


「変わった星だねぇ……」


 バルコニーから部屋へ戻ってきたススムが、溜め息をついた。


「そうですね。でも、きっとイモムシ達からすれば、私たちの方がよっぽど変だと思われているでしょうね。見た目が全然違いますし」


 間仕切りの向こうから、白い任務服から緑色のルームウェアに着替えたユリコが出てきた。


「なんだ、その格好は」


 ソファーで胡座をかいていたハジメが笑った。


「イモムシ王からのルームサービスだそうです。これ、めちゃくちゃ着心地いいですよ。植物の繊維を織り込んで作られてます。とっても柔らかくて、いい匂いがしますよ。まるで、深い森の匂い」


「へぇー、なにそれ! ワンピースみたい! あたしも着てみようかな」

 

 ナオが、興味津々でユリコの服を眺めた。


「皆さんの分も、もらってきましたよ」


 5人はイモムシ岩盤浴と、イモムシ風呂を堪能し、しばらくまったりとした。


「ナオ先輩。そういえば、どうして私がここにいるって分かったんですか? 無線も繋がらなかったのに」


 バルコニーで夜風に当たって涼んでいたナオのもとに、ユリコが冷えた水を持ってきた。


「う~ん、正直、分かったわけじゃなかったけど、あなたが残したティッシュが、チームみんなを動かしたんだと思うよ。あれ、わざとだよね? 」


「どうかな……。無我夢中だったから、なにも考えてなかったと思う。でも、よかった。みんなが来てくれて。私一人で、どんだけ寂しかったと思ってるんですかぁ!」


「ハッハッハ! だよねー。でも、ユリコ、ここまでよくやったね。もう、一人前だよ」


「そんなー。私は、まだまだですよ」


「また始まった。ユリコの "まだまだ病" が」


「そうですね。でも、今回の経験から、自分でもできる所はあるんだって、少しは思えるようになりました」


「そうだよ! ユリコはできる子なんだよ!! やっと分かってくれた?」


 ナオは、ユリコを思いっきり強く抱き締め、髪の毛がぐちゃぐちゃになるくらい頭をなでた。


「でも、ほんの少しだけですよ……苦し……」



 船長は一人、間仕切り向こうのベッドのふちに座り、丸窓の外を見ていた。いつの間にか、深い霧があたりを覆っていた。


「船長、お疲れですか?」


 ススムが声をかけた。


「いや。あの少年のことが心配でね。このままでいいんだろうか……。こうしているうちに、あの子がどんどん危険なことに巻き込まれていないかと、気になって仕方がないんだ。ハナオカ君が今頃、シャトルに戻っていたらどう思うだろう。誰もいないことに、不安を感じるんじゃないだろうか。やはり、戻るすべを考えた方がいいのではないだろうか」


「……船長のお気持ちは分かります。船長は、ハナオカ君になにか特別な想いがあるんですよね?」


「……いや、そういうわけではないが。すまん」


「謝る必要はないですよ。分かりました。早速、みんなを集めて、今後の計画を話し合いましょうか」



「あーー、気持ちよかった! イモムシ星だからって、バカにしてたけど、サウナも岩盤浴もサイコーに気持ちよかったぞ。いろんな種類の薬草風呂もあってさ。もう少し、この星にいてもいいかもって思えたよ」


 最後までイモムシ風呂に浸かっていたハジメが、手拭いを肩にかけ、部屋に戻ってきた。


「ん? 何の話ししてるんですか」


「いつまでも、ここにいられる訳じゃないから、今後のことをみんなで話し合おうって、船長と話してたとこなんだ」


「わかった。おーい! スズキ! ホンダ! 戦略会議だ! 集まれ!」


「なに? 戦略会議?」


「うむ。私たちは、これからハナオカ少年を探すべきだと思うんだ――」

 



本日も、お読みいただきありがとうございます。今年もなんとか無事に、ここまで来れました。来年もどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ