41. 晩餐会
イモムシ星に全員集合したクルーたちは、王の執念にも似たご厚意により、なかば強制的に晩餐会へ召集されたのであった。
会場に入った者をまず圧倒させるのは、その強烈な色彩である。壁から、床、天井にいたるまで、すべてが執拗なまでに、緑の蛍光色で統一されているのだ。
他星からのお客人となれば、まず、この会場に通されるのだが、どのエイリアンも一様に、この部屋に入った瞬間に吐き気を催すのだという。
かつて銀河宇宙美化部門の立ち入り検査があったときも、この会場で数多くの検査官たちが次々と倒れていったそうだ。
当時の検査官の一人で、タコ星のオクティ・ス・パス2世の狂気じみた報告書には、こう記されている。
『あの部屋は、イモムシ王宮殿の中で、おそらく最大級に倒錯的かつ、いかがわしい空間である。あのいまいましい緑色の蛍光こそが、諸悪の根源であり、ありとあらゆる物品や人々を、変態病的気質へと仕立て上げているのだ。それと、天井からぶら下がった、大型装飾電球の形の、なんと、まがまがしいことよ! ああ、一体誰が、この星を正気で愛せるというのか!!』
ここまで酷評される筋合いはないとばかりに、つい最近、全面的な塗装工事が行われ、さらにどぎつい蛍光が上塗りされたばかりだった。イモムシが一匹、大きくあしらわれたシャンデリアは、さらにイモムシの数を増やしたものに変更された。その異様さは、見開いた目玉がさらに飛び出してしまうほどに、衝撃的なものであった。
なにより、その悪評が決して絶対的ではないことを示す、強力な "論より証拠" が存在する。
それは地球人、スズキ・ナオである。
「ねえ、見て! あのシャンデリア、めっちゃ、かわいくない?」
毒々しく光る装飾電球を見上げ、うっとりとため息をもらした。
「蛍光色って、すごく気分上がるよね! ていうか、この星のセンス、まじで最高すぎない?」
まるで、夢の国に迷い込んでしまったお姫様のように、この悪趣味な空間を心の底から楽しみ尽くしていたのである。
さて、クルーたちが案内された丸テーブルには、金縁で厚みのあるお品書きが、一人一人の席に恭しく置かれていた。
<本日のメニュー>
◎特上イモムシスープ~深緑のポタージュ・森の雫 -shizuku-を湛えて
◎イモムシソテー~森の芽吹きと若草のソースのマリアージュ~
◎厳選早摘みイモムシサラダ~幼虫たちが愛した大地の恵み・朝露の輝きをまとわせて~
◎至高のイモムシプリン~季節の香りと甘美な誘惑を添えて~
[注意]
本メニューはいずれも、イモムシを使用した料理ではございません。
ひとまず、安心だ。"イモムシ"と名のつく料理は、全てあの緑色の液体を、浄化・加工した食べ物であり、もとをたどれば、植物の葉である。
地球人だって、レタスやキャベツの虫食いを気にせずに食べているではないか。それと同じことだ。虫との共存。何も、おかしいことはない。
「……うぇーー。何これ、青汁? まずそう……」
あれほど部屋のセンスを絶賛していたナオも、さすがに、料理の色には、思いっきり嫌な顔をした。
「スズキ君。ここは、おもてなしの席だ。笑顔で食べるようにしなさい」と、船長ははらはらしながら言った。
しかし、実際食べてみると、見た目ほど悪くはなかった。むしろ、なかなか美味しかったのだ。
食後に、イモムシの娘たちの舞いと、イモムシ芸人たちの演芸、大人気イモムシ歌手の歌唱と、『イモムシ座』の舞台講演が続き、会場の熱気はMAXになった。
楽しい晩餐も中盤にさしかかった頃、イモムシ王が、ずぶずぶと演壇へ上がっていった。がやがやと騒がしかった会場は、しんと静まり、皆がイモムシ王に注目した。王は一同を見回すと、こう語りだした。
「皆々の者。今宵は存分に笑い楽しみ、味わい、良い時を過ごされよ。明日は、いよいよ記念すべき祭りの初日である。この日のために我々は、摂生した生活をするよう努め、羽目を外さず粛々と日々を過ごしてきた。祭りのための準備を、皆が一致団結して行ってきた。皆の努力を、我は褒めたい。
我々イモムシ星は、宇宙界において、いわれのない非難や冒涜の言葉を甘んじて受けてきた。しかし、我々イモムシ星人は何ら恥じるところのない誇りを持っている。
我が愛する息子が、惑外侵略者により連れ去られ、行方知れずになったあの悲劇の日――。皆が我々のために喪に服し、断食してくれた。
我らイモムシ族の間には、イモムシエキスの如く、粘り気のある堅い絆があると、我に再認識させてくれたのである。
現在も、侵略者の脅威が続いている中、皆が忍耐し、勇敢に我らに協力してくれていることに、感謝の意を表する」
「ワーー!! オーー!!」
イモムシ達は感激した。なかには涙を流しているものもいた。
「なんと素晴らしい王でしょう!!」
「我々は、いつまでも王と共にありましょう! ご子息はきっと戻ってこられます! その日を見るまで、我々は死にません!」
民の言葉を聞いたイモムシ王も、大きなエメラルド色の目をきらきらと潤ませた。
***
クルーたちは、大きなゲストルームへ泊まるように勧められた。本館7階からは、イモムシ星の広範囲がよく眺められた。遠く水平線まで、濃い緑色の海が広がっていて、一艘の船がイモムシ印の旗を掲げて航行しているのが見えた。
陸地に目を移すと、丈の長い草が草原の所々に、カラフルなドーム状の小さな建物が集合しているのが見えた。イモムシ達の家である。彼らの家は、草原の草と、イモムシエキスを混ぜた固い粘土で作られており、意外と頑丈なのだ。
「変わった星だねぇ……」
バルコニーから部屋へ戻ってきたススムが、溜め息をついた。
「そうですね。でも、きっとイモムシ達からすれば、私たちの方がよっぽど変だと思われているでしょうね。見た目が全然違いますし」
間仕切りの向こうから、白い任務服から緑色のルームウェアに着替えたユリコが出てきた。
「なんだ、その格好は」
ソファーで胡座をかいていたハジメが笑った。
「イモムシ王からのルームサービスだそうです。これ、めちゃくちゃ着心地いいですよ。植物の繊維を織り込んで作られてます。とっても柔らかくて、いい匂いがしますよ。まるで、深い森の匂い」
「へぇー、なにそれ! ワンピースみたい! あたしも着てみようかな」
ナオが、興味津々でユリコの服を眺めた。
「皆さんの分も、もらってきましたよ」
5人はイモムシ岩盤浴と、イモムシ風呂を堪能し、しばらくまったりとした。
「ナオ先輩。そういえば、どうして私がここにいるって分かったんですか? 無線も繋がらなかったのに」
バルコニーで夜風に当たって涼んでいたナオのもとに、ユリコが冷えた水を持ってきた。
「う~ん、正直、分かったわけじゃなかったけど、あなたが残したティッシュが、チームみんなを動かしたんだと思うよ。あれ、わざとだよね? 」
「どうかな……。無我夢中だったから、なにも考えてなかったと思う。でも、よかった。みんなが来てくれて。私一人で、どんだけ寂しかったと思ってるんですかぁ!」
「ハッハッハ! だよねー。でも、ユリコ、ここまでよくやったね。もう、一人前だよ」
「そんなー。私は、まだまだですよ」
「また始まった。ユリコの "まだまだ病" が」
「そうですね。でも、今回の経験から、自分でもできる所はあるんだって、少しは思えるようになりました」
「そうだよ! ユリコはできる子なんだよ!! やっと分かってくれた?」
ナオは、ユリコを思いっきり強く抱き締め、髪の毛がぐちゃぐちゃになるくらい頭をなでた。
「でも、ほんの少しだけですよ……苦し……」
船長は一人、間仕切り向こうのベッドのふちに座り、丸窓の外を見ていた。いつの間にか、深い霧があたりを覆っていた。
「船長、お疲れですか?」
ススムが声をかけた。
「いや。あの少年のことが心配でね。このままでいいんだろうか……。こうしているうちに、あの子がどんどん危険なことに巻き込まれていないかと、気になって仕方がないんだ。ハナオカ君が今頃、シャトルに戻っていたらどう思うだろう。誰もいないことに、不安を感じるんじゃないだろうか。やはり、戻るすべを考えた方がいいのではないだろうか」
「……船長のお気持ちは分かります。船長は、ハナオカ君になにか特別な想いがあるんですよね?」
「……いや、そういうわけではないが。すまん」
「謝る必要はないですよ。分かりました。早速、みんなを集めて、今後の計画を話し合いましょうか」
「あーー、気持ちよかった! イモムシ星だからって、バカにしてたけど、サウナも岩盤浴もサイコーに気持ちよかったぞ。いろんな種類の薬草風呂もあってさ。もう少し、この星にいてもいいかもって思えたよ」
最後までイモムシ風呂に浸かっていたハジメが、手拭いを肩にかけ、部屋に戻ってきた。
「ん? 何の話ししてるんですか」
「いつまでも、ここにいられる訳じゃないから、今後のことをみんなで話し合おうって、船長と話してたとこなんだ」
「わかった。おーい! スズキ! ホンダ! 戦略会議だ! 集まれ!」
「なに? 戦略会議?」
「うむ。私たちは、これからハナオカ少年を探すべきだと思うんだ――」
本日も、お読みいただきありがとうございます。今年もなんとか無事に、ここまで来れました。来年もどうぞよろしくお願いします!




