36. ここはどこ?
ユリコが連れてこられた場所は、酷い悪臭が漂っていた。そこには、美しい青い海などなく、代わりに、緑色の粘度の高い、どろどろ、ぐちょぐちょの臭い海が広がっていた。そして、海以外の陸地を緑色の植物が埋め尽くしていた。
ユリコを担いだまま、緑色の輪っかの中から出てきた黒服たちは、ユリコをそのまま草地に投げ出した。
「イテッ!! もう少し丁寧にしてくださいよねっ!」
その後、彼らはボコボコと悪臭を放つ緑色の液体の海の中へ次々と入っていくと、泡となって消えていった。
「ここはどこなの?」
そうだ! あの赤い輪っか!あれがあれば、帰れるかも!
くるりと周囲を見回すが、さっきの輪っかはなくなっていた。
「どうしよう! 私、ここで死ぬのかな!?」
ユリコは、その場にしゃがみこんだ。恐怖と不安で足に力が入らない。膝を抱え顔をうずめた。クルーのみんなや、愛猫のミミの姿が目の前に浮かぶ。もう、大好きな彼らに会えないのだろうか。
ワイアレスマイクに、「聞こえますか? ユリコです。聞こえますか……」と呼び掛けても、何の返答もない。
ドボドボドボ……。
唯一聞こえるのは、川の上流から、緑の液体が滝になって沼へ落ちるときの音だった。そして、この星にも風が吹くのか、草原がざわざわと鳴っている。
このまま、こうしていても何も始まらない。早く、あの輪っかを探して、シャトルに戻らなくちゃ。私なら、きっとできる。これまでも、私には無理だと思えたことも、やってこれたじゃないか。謎の集団によって未知の惑星に連れてこられるという、前代未聞の事が起こった今、とにかく何かやるしかない。
ユリコは両手で膝を二回叩くと、すっくと立ち上がった。
「こんなに植物が生えているし、風も吹いている。それに、辺境の星とはいっても、ほんのり光だって差している。緑の液体は何なのか分からないけど、生物が住めるような環境なんだから、きっと大丈夫」
そう何度も自分に言い聞かせながら、背の高さほどもある草をかき分け、道なき道を進んでいった。しばらく行くと、目の前に大きな緑色の山が現れた。
「気づかなかった。こんな大きな山があったなんて……」
山にどんどん近づいていったその時だった。
数えきれないほどの小さな目玉がパチリと見開いて、ユリコを見つめたのだ。山だと思った緑色の塊の正体――それは、イモムシの大群だったのである。イモムシたちは、大集会をしている最中だった。
「✕✕✕○○○!!」
ゴウゴウとうなるような、あるいは、ゾワゾワと言った方が良いのだろうか、ある種の言葉が、イモムシの塊の中から上がった。すると、それに呼応するように、他の大勢のイモムシたちが、「✕✕✕○○○!!」と叫んだ。
これは、かなりヤバイ事態であるとユリコは思った。とにかく逃げるしかない。するとイモムシたちは、ユリコの後を追いかけ始めた。ユリコの三倍くらいはあるイモムシが、物凄い早さで進むのだ。
のろのろ、むずむず歩くイモムシを想像していてはいけない。
蠕動運動の一回で、数メートルは進めるのだから。むずむずとしただけで、十メートル近く進めるのだ。それであっという間に、イモムシたちに取り囲まれてしまったのである。
「△△○○✕!!」
群れの中から、一匹の超特大のイモムシが、ユリコの方へゆっくりと近づいてきた。黒い体には紫、赤、白、黄の斑点がついており、もう、ユリコの周りはイモムシたちに囲まれて逃げることができない。
もう、これで終わりかも……。
大きなイモムシの目玉に、ユリコの怯えた顔が映る。イモムシの頭から、三本の丸く太い突起がニョッキと出てきて、それが、ぐんと伸びて、ユリコの身体中を調べ始めた。
「くすぐった~い!」
すると、そのイモムシはまた何かを言った。
「○○✕✕!!@#¥¥%✕✕!」
すると皆は喜んだ(?)かのように、お互いにハイタッチしたりしている。
「なに?!」
ユリコを取り囲んでいたイモムシ達は、一斉に背後に後ずさりしてユリコのために道をつくった。そしていつの間にか、道の向こうに大きなイモムシが移動していてこちらを見ている。
「こっちに来いってこと?」
ユリコはその後を付いていった。その先には緑色のドーム型の建物が建っていて、その入り口には2匹の門衛が立っていた。もちろん、イモムシである。それらのイモムシは、大きなイモムシにペコリとお辞儀すると門を開けた。門をくぐると、目の前に大きな橋がかかっていて、その下を勢いよく緑の川が流れるのが見えた。橋を渡った先に銀色の建物があり、門衛がまた2匹立っていた。
「意外とセキュリティはしっかりしているのね」
建物の中は見た目よりも広かった。それもそうだ。この大イモムシが立ち上がったときの高さは、マンションの5階分くらいになるのだから。それがなんなく移動できるスペースと考えると、このイモムシの館はかなりの広さになるだろう。
このイモムシは、私をどうするつもりだろう。食べる気かしら……。いや、違う気がする。本能的にそう感じる。なんとなくだけど……。
ユリコは不思議と落ち着いていた。
はてさて、本日のお客様はどなたでしょうか?
んんッ! イモムシDさんです。どうぞ!
イモムシD: ○△△□%@#○。□%^=$¥/!
レポーター: はい、ありがとうございました!
???どなたか、翻訳できる方はいませんか?
イモムシC: **$`○△□&@#! □/.@○♪
だめですね。まったく分かりませんね。あぁ…。お二人が話し始めちゃった。
イモムシD: この前さぁ、御宅から頂いたレモンの葉っぱを紅茶にしたのよ。
イモムシC: あら、ほんとぉ? どうでした?
イモムシD: それは、美味でしたわ。フワッと薫る爽やかなレモンの香りがなんとも言えませんで。後味もスッキリしていてね。それでいて、苦くはないんですね。
イモムシC: お気に召したようで、良かったわ。それとね、家の人も使っているマッサージチェア、良かったら御宅も使ってみませんこと? 何かの手違いで、同じマッサージチェアが2台も届いたんですの。別に2台あっても、うちは構いませんけれど、もし御宅が良ければ、喜んで差し上げますわ。いかが?
イモムシD: あら、よろしいの? じゃあ、頂こうかしら?夫も喜ぶと思いますわ。今度、御宅にお邪魔した時にでも頂きますわ。
イモムシC: ええ、それはいいですわね。オホホホ。
以上、イモムシ婦人のつまらない会話でした。
なぜ急に日本語になった?ほんとに、そんな話してた?(作者記)




