29. 加藤進の決意
さらに時を巻き戻していく。
四人がスペースカーに乗って、恐竜星のあちこちを探索していた時に――。
***
コントロール室のメインパソコンで、クルーたちの心拍数、酸素飽和度をチェックし記録していたユリコは、スペースカーの現在地を確認しているススムに声をかけた。
「本当にこんな星ってあるんですね」
「だな」
「ススムさんが宇宙飛行士になろうって思ったきっかけってあるんですか?」
「何だよ、急に」
「いいえ、何となく」
「ええっ? うーん……。宇宙って謎が多いから、それを知りたいというか、いち早く解明させてやりたいっていう野望かな?」
「野望ですか?」
「うん。特にダークマターの正体を知りたいと思っていてね。いつの日か、人類は解明するかもしれない。だけど、俺がその最初の人間でありたい。誰よりも先に見つけてやりたいという野望なのさ」
「へぇ。何か私のイメージしていたススムさんっぽくないですね」
「ぽくないって、どういう意味だよ」
「すみません……、何となくっていうか、ススムさんは一人地道に研究する人というか、他の人を押しのけるような感じじゃなくて、マイワールドで、こつこつとやっていくイメージなので」
「勝手にイメージするなよ。まっ、間違ってはいないけどね。要するに自分のしたい研究をやりたいんだ」
「でも、研究者にはならなかったんですよね? こうして宇宙飛行士になった。そうですよね?」
「そうだよ。……なんか面接みたいだな。まあ、いいだろう。これは誰にも話したことがなかったんだけどね……」
「なんですか、なんですか。めっちゃ気になります」
ユリコが、iPadを手にしたまま、椅子をススムの側に近寄せた。
「ハハハ。そんな大したことじゃないけど。
……宇宙に行って、色んな星を巡って調査していくうちに、いつの日か、ダークマターとか、宇宙の起源に迫れるだろ? 謎が多い宇宙に実際に行って、自分の全知覚をフル活用してこそ、分かることってあると思っているんだ。一言でいうと、探究心っていうやつだな」
「へぇー」
「まあ、偉そうなこと言ってるけど、実はさ、俺、華岡先生からはっきりと、『君は宇宙飛行士には向いてないと思う。科学者の方が性に合っている』って言われたんだ」
「えっ? ススムさんもですか? 私の知っている先輩もみんな言われたそうです」
「みんなって、そりゃ本当か?」
「ええ、みんな口を揃えて『向いてない』って言われたって」
「ハハハハ。でも、そうかもな。華岡先生は良い先生だけど、時に毒つく時もあったからな。まっ、でも俺は当たってたと思うよ。学校行って色々経験していく中で、向いてないかもって自分でも薄々感じていたし」
「どうしてですか?」
「……メンタルが不安定だと華岡先生に言われていたんだ。自分でもそう思う。過酷なミッションがある時、俺はややチームプレーにネガティブだったんだ。
訓練で俺がみんなの足を引っ張って、他のチームよりだいぶ遅れてミッションが終わった後、相当落ち込んでいたんだな。
華岡先生が俺のところに来て『何か悩み事があるなら聞くぞ』って言ったんだ。その日、俺は全てを話したよ。先生は話を遮ったりせずに最後まで話を聞いてくれた。
実はその頃、一番上の姉貴が事故で亡くなったんだ。大好きだった姉貴が死んだことはショックというよりも許せなかった。何で死んだんだよって、怒りが沸いてきたんだ。その時は、確かにひどくメンタルやられてたんだよな。
うちは両親が離婚していて、母親は一人で生活費を稼ぐために、安時給のパートの仕事をいくつも掛け持ちでやっていた。そのうち、どういう経緯かは知りたくもないけど、他に男をつくって、家へはほとんど帰らなくなっていた。
俺たち三人兄弟で、二番目の姉は俺とは二つ違いでまだ、小学生だった。姉貴は高校生で学校終わりや休みの日はアルバイトしていたよ。
母は金が入って余裕ができた時にだけ、ふらっと帰ってきて、金だけ置いてすぐに出ていった。ある時から、母の交際相手が一人でうちにやって来るようになった。それも自分ちみたいに白昼堂々、酒を呑むんだ。そしていつも気に入らないことがあると、かっとなって、二番目の姉を殴ろうとする。酒が切れると、手を上げることを知っていたから、俺たちは常に家に酒があるように注意したものだよ。
俺たち兄弟の体には今でも痣が残っている。でも、痣くらいどうでもいいほどに、あの日の出来事は堪えたな。
ある日、姉貴がバイトが帰ってきて男に『お金渡すから、早く帰って』と言った。男は『ガキの癖に偉そうに』と吐き捨てるように言った。妹の顔にまた新しいアザがあるのを見つけた姉貴は『また妹を殴ったのね! あれほど手を上げないでって言ったのに』と男につかかっていった。でも、相手は大人の男だ。男は怒りに任せて姉貴を平手打ちした。押し倒されて、ぼこぼこに殴られていた。俺は怖かった。二番目の姉はさっと俺の手をつかんで家を飛び出した。姉貴の目から逃げるように。
その後、俺たちは児相(児童相談所)に保護され、養護院で育てられることになった。
養護院の人は本当に良くしてくれてさ。小学校、高校、大学と行かせてくれたんだぜ。勉強とアルバイトを猛烈にしたよ。俺はその頃から、謎めいたものに夢中になった。超能力とか宇宙とか。学校の図書館で、宇宙の本に出会ってから、俺の目標が定まった気がした。宇宙飛行士になりたくなったんだ。
そんなこんなで、俺は宇宙航空学校に合格した。入学式の日、養護院でお世話になった先生方が来てくれた時は嬉しかった。『もっと、嬉しいことがあるのよ』って先生が言うから、何だろうと思ったら、先生の後ろに隠れるようにいた、姉たちが顔をひょっこり出してね。俺は驚いたし、同時に実は恐かった。
特に一番上の姉貴に会うのが。分かるだろ? あの日が姉貴との最後だったんだから。
俺があまり嬉しそうにしてないのを先生はあれっ?と思ったようだったけど、俺たちだけには、その気まずさは分かったんだ。姉貴は俺を抱き締めてくれた。そして、言ったんだ。
『こんなに大きくなったんだ。良かった』って。
俺は恥ずかしくて、『母親みたいなこと言うなよ』って言っちゃったんだけど、『そうだよ、あたし子どもできたんだ。三ヶ月なんだ』ってさ。確かに少しお腹が大きかった。
姉貴はあの日、男を振り切って家を出た。その後市電に乗った。どこへ行くあてもなく、とにかく男から遠く離れるように揺られ続けた。賑やかだった都会とは一変して、ほとんど何もないような所にたどり着いた。
朝まで駅の近くの公園にいたそうだ。犬の散歩で通りががった人が警察に連れていってくれて、最終的には素敵なステップファミリーに恵まれたんだ。そして、昨年結婚したそうだ。俺は今まで言いたくても言えなかった事を口にした。
『あの時、姉ちゃんを見捨てるような形で、家を出ていったことをずっと後悔していた。本当にごめん。姉ちゃん一人にさせて、恐かっただろうって。本当にごめん』と。
姉貴は言った。『もう終わったことだよ。進のせいでも希のせいでもない。あたしたちはもう、それぞれの道を歩きだした。進はこんなに立派になった』
『まだ全然だよ』
『忘れないで。あたしは進の姉貴だってことを。それとさ、この子が産まれたら会いに来てよ』
『……ああ、もちろんさ!』
姉貴に似たかわいい男の赤ちゃんを俺は抱いたよ。でも、その後彼女は、突然死んだ。家族でドライブしていた帰りで、高速道路での玉突き事故な巻き込まれたんだ。ほぼ即死だったという。俺は姉貴に再会できたし、赤ん坊も見れた。それに、夢だった宇宙飛行士の学校にもいけた。
俺はほんと、恵まれていたよ。
先生は俺の話を聞いた後、ゆっくりと頷いてね、
『そうか。話してくれてありがとう。
よし、君は宇宙へ来なさい。君に一つ大切な務めを任せたい。シャトルを守るんだ。クルーの身体的、精神的安全を守り、みんなが安心して船外探査ができるよう守る仕事だ。この仕事は誰にでもできる仕事ではない。
それは君に同情して言うんじゃない。これは君にしかできない最適任の任務なんだよ』と。
俺はどんな風の吹き回しで、先生がこんなことを言ったのかは分からなかったけど、俺はその時、不思議と体がぽっぽっと熱くなった気がして、『もちろんです!』って言ったんだ。
俺の決心がようやく固まったんだ。絶対に宇宙飛行士の試験に合格して、宇宙の謎を解き明かすとね。長々と語りすぎたけど、まぁ、これが俺の半生さ」
「……そうだったんですね……。すみません、私、ススムさんがそんな辛い経験をされたなんて知らなくて、無思慮に質問してしまいました……」
「いや、いいんだよ。謝る必要なんてないさ。君に言えて、むしろ、スッキリしたくらいさ」
二人の間にしみじみとした時間が流れていった。
お疲れ様です。
今日のヒトコトはススムさんです。
こんにちは。ススムです。俺が勉強になった本を紹介したいと思います。
☆スティーヴン・ホーキング作『宇宙への秘密の鍵』です!
子ども向けに作られているけど、大人が読んでも十分面白いし、宇宙のことがかなり詳しく説明されていて、かなり勉強になります!ぜひ読んでみてください!
作者も読んだことあります!面白いですよね!(作者記)




