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3. 形見石

 翌日、大柄な家臣が少年の牢にやって来た。


「出ろ」


 家臣は少年を殴り飛ばした。少年は一発で気を失ってしまい、その場に倒れた。家臣は少年の首から石を引きちぎると王の元へ持っていった。


「こちらでございます」


「おおっ! これがあの石なのか!」


 王は奇妙に光輝く緑色の石をあらゆる角度から眺めた。


「少年はどうした? 連れてくるよう言ったではないか?」


「ええ、抵抗しそうだったので、軽く殴ったところ、意識を失ってしまいまして……。今は牢で寝ております」


「何と! 手荒なことはしてはならぬと言っておいたではないか!」


「決して苦しめてはおりません!」


「もうよい、下がれ」


 王はその夜、何の警護もつけずに牢獄にいる少年のところへ来た。


「少年よ、起きなさい」


 白い(ひげ)を生やした見慣れぬ老人が獄の戸を開けるのを見て少年は怖がって牢の隅で縮こまった。


「怖がらなくてもよい。何もせぬから早く出なさい」


 真っ暗の牢屋では、王の持つランプだけが唯一の灯りである。少年は王を見失わないように必死についていくが、王はどんどん先へ行ってしまい、なかなか追い付けない。迷路のようになっている王宮殿を、上に行ったり下に行ったり、ぐるぐる回ったりしながら、ようやく王の部屋についた。


「そなたの名は何という?」


「……」


 少年は黙ったまま。


「話さなければ分からぬ。この石は本物だった。一体何故そなたが持っていたのだ? そなたは何者だ?」


「俺はハナオカ・リュウジン。これはおっかさんの形見なんだ。これを大事に持っていて、決して人には見せるなと言われていた。だけど俺は……」


 急に目からぼつぼつと涙がこぼれてきた。


「どうしたのだ?」


「……俺はおっかさんの言いつけを守らずに、あの時首にかけていたんだ。たった一度破った日、あの男に捕まった。


 俺はふと屋根裏部屋の箱の中に石があることを思い出した。おっかさんが死ぬ前に言っていたんだ。


『これは御前のおとっつぁんに頂いたものです。この家に代々伝わる大事なものです。長男の御前にこの石を大切に持っておいてほしいと、おとっつぁんもおかあちゃんも思っています。おとっつぁんはもう体が動かなくなってしまったし、おかあちゃんだけの稼ぎでは皆に十分食わせてやることができなくて、御前には小さい頃から働かせてしまった。色々と我慢させてしまったね。石は必要な時に御前を守ってくれるのだから、大切にこの箱に閉まっておきなさい。決して人に見せてはなりません。石が本当に必要な時が来たら出すのですよ。その時が来れば分かります』


 おっかさんがあれほど忠告したのに、どうしてか俺は石が気になりだして、出してきてしまった。おっかさんにはとても申し訳が立たない……」


「そなたに身内はいるか?」


「体の弱い親父だけだ。おっかさんと兄弟はみんな死んだんだ。人食い熊に襲われて。俺はちょうどその時、町へ品物を売りに出掛けていたんだ。家族みんなで作った米や野菜や果実を売りに。家族は家にいた。俺が町で売り歩いていると、顔馴染(かおなじみ)の客が走ってきてきて、『リュウジン! 大変だ! あの村に人食い熊が出た!』と言った。俺は一目散に家へ戻った。けれど親父以外みんな食われた後だった……」


 少年ハナオカは肩をぐったり落として呟いた。


「何が守るだ? 石は人食い熊から家族を守ってはくれなかったじゃないか。それに今は囚われの身、獄からは出られない。あとは死ぬだけなのに。……おっかさんは間違っていたんだ。あの石は河原に落ちてる石っころと変わらないんだ。きっと俺が一人になっても生きていくために励ますための作り話だったに違いない」


 そう思うと石に何の興味もなくなった。


「そんな石、欲しければあげます。その代わり、俺を解放してください。親父が待っています。早く戻らないといけないんです」


「まっ、そう焦るでない。あれを持ってこい」


 家臣に言いつけて持ってこさせたのは、大きな古い巻物だった。


「これをご覧」


 硬い動物のごわごわした毛でできた巻物を開くと、みしみしと音がした。ハナオカは簡単な文字しか読めなかったため、ほとんど書いてある言葉は分からなかった。けれどもある言葉だけが目に飛び込んできた。母から石と一緒に見せてもらった一族の系図。その系図に書かれていた文字であった。そして意味も知っていた。


『石の力を(あなど)るものは石の力によって滅びに至る 石は真の持ち主を必ず(まも)る 石がひとつになるとき 征服者の心のままに』


 この石が本物であったとしても、きっと俺はここでいう「真の持ち主」ではなさそうだ。ハナオカは暗く笑った。王は溜め息をつきハナオカに向き直って言った。


「ハナオカ・リュウジン、そなたに告ぐ。この王宮殿で私に仕えよ。そなたを試したい。親父さんには家臣がついて、きちんと世話をさせるから安心せよ。よいな?」


 ハナオカにとっては、もうどうでもなれの投げやりの気持ちであった。あれほど大事にしていた石も家族も、彼にとっては弱くて淡い思い出になってしまったからだ。


「また俺を牢屋にいれるつもりなのか?」


「フォッ、フォッ、フォッ(王が陽気に笑った)。牢屋の代わりになる部屋を用意しよう、気に入るかな?」

皆様、本日もお疲れさまです…。今日はどなたでしょうか? おっ、来ました来ました!

【隣の牢獄の世話焼き男のヒトコト】

待ってたよぉ!遅いじゃねぇの。まだかまだかって、首ながーくしていたんでぇ。何でも話していいんだよな! 俺の話を聞いてくれぃ。……(割愛)盗賊の家に生まれて、ちびっ子の時から訓練を受けてきた俺だから言うけどよぉ、虫がいい話には必ず裏があるってこったなぁ。カネが結び付く話には用心しておいた方がいいぜ。それだけだぁ。…うん? なーんだ! ほぼカットされてやがんのっ

(がっかりした様子で牢に戻られた世話焼き男さんでした。)(作者記)

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