26. 仲間はどこだ!?
丸い目玉の中に、違った景色が映し出された。
シャトルの中の様子だ。薄暗い部屋が映った。
!!!
ナオがロープで体を縛られている。アングルが変わって船長やハジメ、ユリコもぐるぐる巻きにされ、薄暗い部屋でうずくまっている。ウサギとカラスは、金属の檻に入れられ、互いに抱き合ってがたがた震えていた。
ハナオカはじっとりと嫌な汗をかきはじめた。やはりあの時、白服たちと一緒にシャトルに逃げていれば、自分が守ってあげられたかもしれない。船長は俺を車に乗せるとき、指示に従って行動するようにと言っていた。でも、それを無視して勝手に行動した。これがその報いなのか。年長者の言葉には従うべきなのだ。たとえその時、自分にはこれが正しい選択だと思えても。
ハナオカはススムの姿がないことに今、気が付いた。
彼はどこだ?
「ススムさんはどこだ?!」
「あいつは簡単に君たちを裏切ったよ。私と一緒に暗黒帝国を作ろう、世界を支配しようと言ったら、すぐに仲間になると言った。
他のメンバーたちにこき使われるのはもうたくさんだ。他のクルーより年長なのに、いつも地味な仕事しか回ってこないことに嫌気がさしたと言っていた。本当はもっと光があたる称賛されるような仕事が派手にしてみたいとね。私にも覚えがあるからよく君の気持ちが分かるよと言ってやったさ。そして宇宙の王になれば、そんな境地から解放されると言うと喜んで、是非僕を仲間にしてほしいと言ったよ。
さあ、もうこれで終わりさ。シャトルもクルーも。今、彼らは私の手中にある。コンピューターのキーを叩けば、黒服たちが動く。そうして君たちを簡単に潰せるのだよ。
君、聞き分けのないことを言っていないで、私と一緒においで。よし、お前がさっき言っていた王子とやらにも会わせてやるよ」
ハナオカの胸元の石がピカピカ光だした。石を見ると、中にいる動物たちや恐竜たちが首をぶんぶん横に振っている。そして何かわめいている。けれどハナオカは彼らに言った。
安心しろ。大丈夫だ。
ハナオカは石をぎゅっと握ると、黒服の目玉の中へ歩いていく。足を瞳の中へ踏み入れようとしたとき、ハナオカの背後の空気がもろとも、ものすごい勢いで目玉の中へ吸い込まれていった。
思わず目をつぶった。
すぐ目を開けると、そこは真っ暗な闇。
遠くにピカッと光ったと思うと、光が点滅して目のすぐ横を通りすぎていく。
ハナオカは足元を見た。けれど、暗くすぎて実際は見えてはいない。空間に浮いているような感覚に陥る。足をバタバタさせてみるが、地面を蹴る時のような感覚は何もない。
「何やってるんだ? ここは宇宙の彼方なんだぞ」
黒い背広を着た背の高い男が立っていた。男は上下逆さまに立っている。なおもジタバタしているハナオカを呆れた顔で男は言った。
「分からん奴だなぁ。だから、ここは無重力空間なんだって。そうジタバタしても体力を失なうだけだ」
そう言われ、ハナオカは体の力を抜いた。黒い男は続けた。
「フフフ。
常に膨張し続ける宇宙に、真の彼方があるとすればな。
宇宙には空気も重力もない。私の力で、君がこの死の空間でも生きられるように特別な、目に見えない全身スーツを着せてやっているのだ。これがなければ、君は有害な宇宙放射線を浴びてすぐに死ぬだろうし、宇宙に漂っている数えきれない石やデブリに当たって、果てしなく飛ばされ続けて行くだろう。私の指一本で、そのスーツを取っ払うことだって出きるんだぞ。
だから、私に逆らわない方が身のためだよ。わかったな?」
くっ……。
ハナオカは歯を食い縛った。唇に歯形がくっきり残るくらいに。
「おい、どこを見てるんだ。こっちだ!」
声のする方を懸命に振り向こうとするのだが、体に力が入らず言うことを聞いてくれない。焦ると足がバタつき始める。
「はぁ……。ほら、こっちにおいで!」
男の一声でハナオカの体がビューッと前に飛ばされていった。しばらく飛ばされた先にあったのは、逆さまの人間と一つの扉。
向きを変えようともがくうちに、すぐに後ろを向いたり、上下逆さまになったりしてしまう。まるで泡の中に閉じ込められたみたいに。
「父親に似て、そういうところはぶきっちょだな。ふんっ、どうだ。これて少しはましになったか?
重力をつけてやったのさ」
やっと足に力が入り、前に歩き出すことができた。黒の背広を着た長身の男は、黒のハットを被り、黒い杖を手にしていた。
「この扉を抜けると何が待ち受けているか、分かるかな」
ハナオカは男と一緒に扉の先へ足を踏み入れた。
***
ハナオカが黒服に追われて森の中を縦横無尽に走り回っていた頃に、時を遡る……。
シャトルに戻ってきた三人のクルーは、後尾部にある手動開閉扉の前で二度目の入力に失敗し、焦っていた。
「船長! 判断を!!」
「うむ……、もしや……」と三度目の入力を行った。操作する手は震えていた。
「ピーーン!! 解除されました!」
画面には「Congratulations!(おめでとう)」の文字が出てクラッカーを鳴らした時のような派手な色の紙吹雪が操作パネルから飛び出してきた。
「なんだって……これは……」
船長の顔は青くなった。
「まさか……」
「どうしたんですか、船長?」
ガチャ。
扉のロックが外れた音がした。ハジメが取っ手をつかんで扉を開けた。そこに見た光景は、とても奇妙だった。シャトル内の電気は消えており、床や壁や天井には緑色の液体がベタベタと張り付いていたのだ。
「どういうことだ?」
状況がうまく飲み込めない三人は扉の前で呆然とした。ナオは扉の縁に置いていた手を離すと、緑の粘液が糸を引いた。
「何これ? うわっ、きもっ! 触っちゃったし。手袋してたから良かったけど……」
「中は非常に危険であることは容易に想像できる。前後左右、よく確認してから私のあとに付いてくるように!」
「はいっ!!」
腕時計型のライトを点灯させ、腰に携帯している白い宇宙用光線銃を手に握りしめた。光に当たった緑の粘液は蛍光色に光っていた。船長が壁づたいに進み、角まで来ると、左右確認し手を振って来るよう合図する。何者かが、ユリコやススムを監禁しているのかもしれない。この緑の液体を出すエイリアンかなんかだろうか。とにかく、早く二人が捕まっている部屋を探さなくてはいけない。一つ一つの部屋に入って、中を確認していく。シャトル内は相変わらずシーンとしていて、人のいる気配がない。
「ここから手分けして探そう」
「了解」
ナオは通路の左側、ハジメは右側の部屋を探し始めた。しばらくすると、「ハジメ!! こっち来て!」というナオの声が聞こえた。
「どうした! 大丈夫か!」
ハジメがナオの入る部屋へ向かうと、そこにはうつ伏せで倒れている男の肢体があったのである。
「……誰だ」
「分からない」
ハジメは体をゆっくりと仰向けにした。男は、20代~30代くらいで、宇宙飛行士の制服を着ていた。胸ポケットのところに、見覚えのあるロゴマークが縫い付けられていた。
"スペースレンジャー・アソシエーション"
うちの会社の前身になった親会社の名前だ。
「死んでいるのか……?」
ハジメは口元に手をかざしてたり、胸に手を当ててみたが、生きているようには思えなかった。けれど、いわゆる "死体" という感じもしなかった。さっきまで立って歩き、話をしていたように見えるほどに肌艶が良かったのだ。
「船長! 身元不明の遺体を発見しました!」
「分かった! すぐ行く!」
船長が遺体を見ると、腰が抜けて床にドシンと尻餅をついた。
「船長! どうしました!?」
「…そっ、そんな……。私はきっと夢でも見ているに違いない……。決してそんなことがあるはずはないんだ。
……これは嘘だ……。嘘だ…。
彼は25年前の事故で失くなった宇宙飛行士だよ……」
「えっ……!!?」
お疲れ様です。
本日も読んで下さりありがとうございます。
気温差が大きいせいか、体調を崩す人が近頃多い気がします。それと、アレルギーによる種々雑多な症状に悩まされる人も
皆様、くれぐれもお風邪などを引かぬようお過ごし下さいませ。(作者記)




