表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/44

25. 黒服と目玉

 船長、ハジメ、ナオ、ハナオカは故障した車を捨て、緑の光を頼りに平原を抜けた先の薄暗い森の中を走っていた。


 その時だった。前方に突然、黒服が5体出現したのだ。それがすぐに10体、20体と増えていく。


「きゃあ! 何これ。えっ、なんか増えてる! キモッ!(ナオ)」



 ハナオカは胸元に隠しておいた翡翠を取り出し掲げた。


「お前たちはこれが欲しいんだろ? 取れるものなら取ってみろ! 俺はこっちだ!」と叫ぶと、シャトルへの道とは違う脇道へ走っていった。


「ハナオカ君!?」


「皆さんは早く、シャトルへ行って下さい!」


「待て! そっちへ行っちゃいかん! 一緒に戻るんだ!(船長)」


 けれど、もうハナオカは暗い森の奥に消えていった。


「我々は早くシャトルへ!(船長)」


「でも、ハナオカ君が……(ハジメ)」


「彼は彼なりに考えがあって行動したのだろう。我々は信じよう(船長)」



 白服たちはシャトルへ急いだ。100体を越える黒服たちは、二手に分かれた彼らのどちらを追いかければ良いのか、一瞬分からなくなり、動かなくなった。それから姿が点滅し左右に小刻みに揺れ出した。


 バグを起こしたのだ。


 その間に、三人はやっとのことでシャトルへたどり着いた。


「ユリコ! ススム! 聞こえる?! 到着したよ!(ナオ)」


「扉を開けてくれ!(船長)」


 船長は素早く、網膜認証センサーを起動し、顔を近づけてスキャンした。そして15桁のパスワードを入力し決定ボタンを押すと、扉が開く仕組みになっているのだ。


 ブーーー!!


 体がビクッとなるくらいの大音量が操作パネルから鳴り響いた。


 誰しも経験はあるかもしれない。パスワードが違ったときのイライラと焦りの感情。


 画面には大きな「error」の文字が現れた。船長は二度目の入力をした。


 このパスワードで良いはずだ。今度こそ……。


 ブッブッーーー!!


 何ということだ……!


 またもや「error」が……。


 三度目も間違うと、完全ロックされてしまう。そうすると、どんな手を使っても外からは開けられない。もし無理にこじ開けようとすれば、シャトルのもう一つの特典である、"外部侵入者排除装置" が作動し、世にも恐ろしいことが起こるのだ。


 船長は青ざめた。


 パスワードが変えられている……!


 この船はすでに、"あの者たち"と呼ばれる未知なるものに乗っ取られてしまっているようだ……。


「船長、この場合どうしたらいいでしょうか(ハジメ)」


「うむ……(船長)」



 ギャーーウ! キィェーー!


 不気味な叫び声が森の方から聞こえた。村長に従わず、石に入るのを最後まで拒んだあの若い恐竜たちの叫びだったのかもしれない。



「船長! 判断を!(ハジメ)」


「船長!(ナオ)」


「うむ……(船長)」


***


 黒服たちはバグを起こした後、一匹残らずハナオカの跡を追いかけることにしたようだ。逃げているハナオカの胸の中で緑の光がピカピカし出した。


 石が……。


 その時、石の中から恐竜たちが飛び出したのだ。そしてハナオカを守るように黒服の前に立ちはだかったのである。


「みんな、まだ出てきちゃだめです! 戦うのは今じゃないのです! 早く中へ戻って下さい!」


 しかし、彼らは一同にこう言った。


「我々この星の住人。石の使い手を守りたい。あなたが大変なとき、我々助けたい」


 一匹のステゴザウルスが背中のトゲトゲを震わせた。バラバラバラッという大きな音が森に響いた。そうすると、石から出てきた他の恐竜たちも、尻尾で地面を打ち叩いたり、ギャーウと叫んだりして賛同の声をあげた。皆はハナオカと共に戦う気満々なのだ。


 しかしハナオカは再び念じ始めた。


 今ではない。



 するすると、彼らは石の中に戻っていった。石の中で彼らはあっけらかんとした表情をしていた。



 数千、数万匹にも増殖した黒服は、もうハナオカを森の端まで追い詰めていった。

 

 森を抜けると、崖の下には荒々しい黒い海が広がっていた。ごつごつした岩に波がぶつかり、しぶきが勢いよくたっていた。先端が無駄に尖った岩が海上へ突き出している様子は、まさに針山のようだ。落ちたら、串刺しになって死ぬだろう。


 黒服たちはゆっくりゆっくり、ハナオカを崖の(きわ)にまで追い込んでいく。ハナオカの足が岩に触れると、小石が崖下へ落下していき、吸い込まれるように波の中へ消えていく。


 崖からは離れた方がいい。


 ゆっくりと、足をずらして、森の方へ進もうとする。黒服たちは、近づこうとするハナオカを避けるようにその道を開けていく。


 その時、黒服たちが、互いに触手のようなものを繋ぎ、大きな輪になってハナオカを取り囲んだ。


 まずい……! 囲まれた!


 彼らは、ゆっくり回り始めた。


 しだいに速さが速くなっていく。


 20匹ほどの黒服たちが回っているが、ビュンビュンと音がしなくなるほど速く回ると、ハナオカには目の前に一匹の黒服しか見えなくなった。


 その黒服の頭のような所に丸いものができ始め、それは人の目玉になった。


 次第にその目は大きくなって、周囲の空気を吸い込み始めた。森がざわざわいって、木々が左右に激しく揺れた。砂ぼこりがもうもうと立ち上がる。ハナオカは、目玉に吸い込まれないように懸命に踏ん張るが、その吸引力はとてつもなく強かった。


 すると突然、その目玉がしゃべり出した。


「少年よ、お前と手を組みたい。私とお前が手を組めば、この世界は私たちのものだ。


 なんでも思う通りにこの世界いや、宇宙全体を動かせるのだよ。こんなに素晴らしいことは他には無いだろう?


 さあ、一緒に宇宙を支配する闇の帝国を作り上げよう! 私とお前が協力すれば素晴らしい世界を作り上げることが出来るだろう。


 さあ、こっちに来たまえ!」



 目玉から赤い光が放たれ、同時に大地を振動させるほどの雷鳴が(とどろ)いた。四方八方に広がった赤い光は森の木々を焼き付くした。一瞬にして黒い煤となり、周囲に焼けた臭いが立ち込めた。


「お前もこのようになりたいのか。さあ、こっちへ、来い!」



「いやだ! お前らとは手を結ぶものか! そんな、不気味なやつらと!」



「こいつらのことか?

ハッハッハッ。黒服はただのコマンド(命令)にすぎないのさ」


「コマンド?」


「そうさ。『コマンド』とはコンピューターに特定の処理を実行させるための "命令語" のことだよ。光一の子なら、知ってると思ったんだがね。


 黒服一匹につき、一つのコマンドに値する。


 より複雑で長い指示を出したいなら、複数のコマンド、つまり複数の黒服が必要になるということだ。


 分かったか?」


「……」


「要するに、黒服自体には何の力もない。ただの道具に過ぎないのさ。そして、黒服を生み出したのは、この私だ。人間は腹が空くし、眠くなる。何より文句が多くて困る。しかし、黒服は人間の欲求全てを克服した。考えることも感じることもないし、もちろん不平不満を言わずに、私の命令に従ってくれる。


 これは素晴らしい発明だとは思わんか!


 当初、彼らはただの英数字だった。体を持たなかった。けれどもある日ふと思ったんだ。それだけじゃつまらないと。


 それで私はどうしたか。


 彼らに体を与えた。一定の能力と力を与えた。


 そして「死」を与えたんだ。


 知能を与えすぎると暴走する危険があるからね。プログラミングによって "限界の閾値" を簡単に設定できるんだ。この「死」はアポトーシスに近いものだよ。


 彼らは自分達の死ぬ時を知っている。それは大抵、与えられた任務を終了した後だ。


 みんな同じところへ行くのさ。


 aqua(水)のあるところにね。


 大量の水は必要ない。ただ、水分子に接触した瞬間に、泡となって消えるように設定してある。彼らのいた形跡は全く残らない。完全犯罪にはうってつけだよ」


 ハナオカは川の中へ消えていった黒服のことを考えた。


 そうか。


 あの黒服は一匹の犬を捕まえる任務を遂行したから、川に入って消えたんだ。


「さあ、ハナオカ君。決断の時が来たようだね。


 どうする?


 私に協力すれば、連れ去ったみんなを元の場所へ返してやろう。そして君は私と共に宇宙を支配する王となるんだ。しかし、そちらが敵対的な態度を示すのであれば、こちらも、強攻手段をとるしかなくなる。さあ、選べ」


 目玉は猫の目のように細くなって不気味な光を放った。


「間違っても、君の父親みたいな馬鹿な過ちは犯すな……」


 ケンゾーに親父を(けな)された時の感情がふっと(よみが)る。ずいぶんと昔の記憶のような気がした。


「俺の親父を馬鹿にするな!! 俺の親父は立派なんだ!」


「そうさ、君の親父は立派に馬鹿を演じたんだよ!


 能力もあり、高い技能も力もあった宇宙飛行士だったのに、あの時……。能力も意気地もない馬鹿な奴を助けに行ったりしたせいで、あんなことになって。なんと無様なことだ」


 何の話だ!


 ああっ…!!


「俺はますます目玉のお前が嫌いになった! 協力などしない。親父を馬鹿にする奴はもっての他だ!」


「……分かったよ。ほんと、そっくりだな」


「そんなことより、今まで連れ去った仲間を返せ! 王子を返せ!」


「王子?

 ……ああ、あの愚かな青年のことか。大昔のことだから忘れてたよ。あれは駄目だった」


「駄目だったって何が?!」


「使い道の無い奴だったというだけだ……。大抵は兵士とか兵器に作り替えることができるんだが、あいつだけはそれができなかった。

 理由はただ一つ、最大級の馬鹿だったということだ!!

 私はああいう奴が一番嫌いだ!

 恋だとかロマンスだとか夢だとかを語るような奴がな!!」


「ちょっと待て!! みんなを何に作り替えているのだ?」


「だから、兵士とか兵器に。現在、宇宙の始まりの時代にリセットさせる特別な兵器を作っているんだ。


 その名も "最終兵器" だ。始まりに戻すための最終兵器とは、なんとも滑稽(こっけい)だろう?


 それが完成すれば、本当の意味で私の帝国を誰にも邪魔されずに築いていける。私一人だけの宇宙だよ。


 こちらには紅の石がある。お前の翡翠とが合わさった時、必要なものが全て手に入るんだ。是非とも完成させたい。それで、私はせっせと、エイリアンどもを捕まえてきては、兵器の燃料や、部品、兵器を守る兵士たちに作り替えているんだ。


 分かったかい?」


「そんなことして何が楽しい? 宇宙にたった一人だけなんて」


「ヒャッヒャッヒャッ。笑えるね。

 この宇宙には私ただ一人だけで十分だ。他の人間がいたら、狭くてかなわない。

 まっ、必要となればこの手で思い思いの手下でも作り出そう。宇宙用コンピューターで簡単に作り出せるぞ。このコンピューターは優秀だ。


 なんだって、私がそれを作ったのだから!!」


「俺は皆を助け出すって決めたんだ! お前なんか倒してやる!」


 ハナオカは腰に帯びた剣を取って構えた。


「ヒャッヒャッヒャッ。そんなボロのおもちゃが何の役に立つのかねぇ。こっちはキーを押すだけで、お前の仲間を(ひねり)り潰せるんだぞ。


 今頃、あの人間どもがどうなっているか、お前は知っているか?」


 船長、ハジメ、ナオ、ユリコ、ススム、そしてカラスとウサギ。彼らの姿が現れては泡のようにパチンと消えた。


「みんなに何をした?!」


「奴らを助けたいのなら、私と一緒に来い!」




お疲れ様でござる。


 本日のヒトコト担当は、ステゴザウルスの子どもさんです。


【ステゴザウルスの子どものヒトコト】

僕は卵から生まれました。僕はみんなにハナオカさんに協力するように勧めました。それは、実は僕が卵の中で、誰かがハナオカと言っているのを聞いていたからです。どんな意味かは分からなかったけれど、それだけは覚えていました。だから、僕はハナオカという人間に付いて行こうと思ったんです。大人たちが僕の意見を聞いてくれたのは初めてです。不思議な気分です。きっとこれからわくわくするようなことが起こるに違いありません。(作者記)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ