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24. 村長の願い

 シャトルとの交信が途絶え、なんらかの緊急事態が起きたことは明白だ。スペースカーは薄暗い森林のなかを急いでシャトルへ向かっていた。もう少し行くと、森が途切れ平原が現れてくるはずだ。


「よし。シャトルの位置はここだ。真っ直ぐ行けばたどり着ける(船長)」


 ここから西北西にシャトルは着陸しているはずである。カーナビはシャトルの位置と車の位置を示していて、それを見ながら車はアクセルふかして進んでいく。しかし前よりも、アクセルの力が弱くなっている気がする。



「なんか遅くない?(ナオ)」


「そうかぁ? めいいっぱいアクセル踏んでるんだけど!(ハジメ)」


 燃料の残量表示が1/3になっている。


「これって、ヤバくない?(ナオ)」


「とにかくできるだけ急ごう! あまり時間は無いようだから(船長)」


 急いでいる時に限って、厄介なことは起こるものだ。どこかで待ち伏せをしていたのか、あの巨大なティラノサウルスが森の茂みから突然姿を現したのである。


 ギャーウ!!


 キャー!!!


 ワー!!


 車は全速力で進むが、追手は物凄い速さで走ってくる。車は目の前の大岩をよけた拍子に、激しく横回転して、大木に車体の横っ腹がぶつかった。


「みんな大丈夫か!?(船長)」


「はい……大丈夫です」


「ハナオカ君も大丈夫? どこかぶつけてない?」


「……はい」


 シートベルトを付けていたお陰で、外へ投げ出されずに済んだのだ。(車を運転する時は、命を守るシートベルトを着用しよう。)


 カサ、カサ、カサ……。


 ティラノサウルスがゆっくりと車に近づいてくる。


 もう……だめだ。


 ここで死ぬ……。


 みんなは死を覚悟した。


 ティラノサウルスはハナオカ達を見下ろすと、間の抜けた顔をした。


(ティラノサウルスの間の抜けた顔とは一体どんな顔だろう……。想像するのは難しい。だが確かにそれは、ぽけぇっとした顔だったのだ!)


 ティラノサウルスは、小さな前足を器用に使って車を起き上がらせてくれたのだ。そして、居ずまいを正して丁寧にこう言った。


「真の石の使い手のお方。どうぞ我々をお助け下さい」


 ハナオカがシートベルトを外していた。


「何してるの……?  だめだよ、危ないよ……(ナオ)」

 

 ハナオカは車から降りて巨体の前に立った。



「俺はハナオカと申します。


 我らは、"あの者たち" 討伐に向けて、星を巡っています。俺はあなたが言うような「真の石の使い手」かどうか、正直分かりません。でもあなた方を守ることはできます。


 これからそうします。皆さんをここへ集めてくれませんか?」


「何するの?(ナオ)」



「全員! 集合!!(ティラノサウルス)」


 ドッドッドッドッ!!!


 地響きがしたかと思うと、空を飛ぶ鳥獣、草食、肉食全ての恐竜たちが集まってきたのだ。腕に小さな翼がついていて、後ろ足に大きな鉤爪をもつ『トオドロン』が一歩前に進み出た。


「我々は戦闘中なのです!

"あの者たち" がもうすでに、たくさんの仲間を連れ去ってしまいました!

 なのにどうして立ち話なぞしているのですか!


 我らは今すぐに、戦わなくてはいけません。こうしているうちにどんどん仲間が連れていかれているんです!

 彼らはいくら足で踏みつけても、蹴り付けても、食っても、全く手応えがないばかりか、どんどん数を増やしていくばかりです!」


「そうだ! そうだ! 早く戻ろう! 戦わなければ!」


 ティラノサウルスは興奮する皆を制して言った。


「待て、落ち着くんだ。無駄に戦いをしてもいいことはない。とくに勝ち目の無い争いには」


「勝ち目が無いって? 」



 長年、ティラノサウルスの対抗馬として村長選挙で争い続けてきた、パラサウロロフスがここぞとばかり、村長の不出来を(あげつら)う。


「村長がそんなに弱気でどうするんです。

 この星を守るのが村長の仕事ですよね?

 力を合わせて戦おうって鼓舞するのが村長でしょ?  

 部下が一生懸命に戦っているそばでおしゃべりですか?

 大事な時に全く役に立たないんだから」


「言いすぎたぞ!」


 けれど、村長は声を荒らげることはなかった。ただゆっくり低い声で言った。


「いつでも真っ向から戦うことが正しいとは限らない。時には、潔く逃げることも、誰かに助けてもらうことも必要な場合がある。それは市民を守ることにつながるからだ。


 村長の一声で皆は直ぐに行動する。もし、あの者たちをやっつけにいけ、と言えばすぐにそうするだろう。


 しかし我はあえてそうしない。


 大切な仲間たちをむげに敵の手に渡すことを許さない。


 むしろ、この石の使い手とその仲間たちに守ってもらうことを選びたい。彼らがこの星と、我ら恐竜族の存続につながる希望の星であると知っているからだ」



「馬鹿げている!! 石の話を信じているなんて!

 大昔のおとぎ話にすぎないじゃないか。作り話を信じ込む村長のせいで、我々は今に滅ぼされようとしている!

 皆々の者、よく考えてくれ! このイカれた老村長と、この理性的で良心的な我のどちらがよいか?」



「こんな時に選挙活動かよ! 後にしてくれよ。早く仲間を助けに行こうよ」


 パラサウロロフスを嫌っている恐竜たちが叫んだ。しかし村長は怒りを露わにするどころか、落ち着いた低い声で皆に話しかけた。


「皆、どうか我の指示に従ってくれ。皆を失望させることは決してないと、ここに誓おう。


 我の願いはただ一つ、この星と皆の生活をいつまでも見守ることだ。そしてこれから生まれるであろう、子孫たちがこの星で健やかに生活することである。


 この者たちについていけば、必ず助かるという我の言葉をどうか、……信じてくれ!」



 村長を支持している恐竜たちでさえも、得体の知らないこの少年と、白い服の異星人を本当に信じてよいのか分からなかった。互いに、こそこそ話していた。



 ハナオカは彼らに言った。


「俺はあなたの言っているところの石の真の持ち主かどうか、正直分かりません。でも、俺は何とかしてあなた方を助けたいと強く願います。


 この石を見て下さい。この石の中に皆さんを入れようと思います。ここは安全です。どんな敵からも守ってくれます」


「あんな石に入れるわけがない」と、ヤジを飛ばす者がいる一方、「いや、見ろよ! 石の中で何か動いているぞ!」と言う者もいた。


「そうです。石には、すでに俺の仲間たちが入っています。彼らは我々と共に戦うために、ここに入ってもらっています。彼らは志高き者たちです。ここに入ることは逃げることとは違います」


「そうだよ! この人について行ってみようよ」と、ステゴザウルスの子どもが言った。すると「そうだな……」と皆頷いた。



「ありがとうございます。

そこで、一つ約束をして欲しいことがあります。


 きっとあなた方の餌となりそうな者がこの中にいるかもしれません。


 ですが、どうか、その者たちを食わないでやって下さい。みんな、喧嘩せずに仲良くしていて下さい。できますか?」


 肉食恐竜も草食恐竜もみんなそろって頷いた。


「約束します!」


「では皆さん、いきますね」



 石に念じ始めた。すると、彼らは一匹残らず石の中へ吸い込まれていった。


「消えた!!」


「みんなはここにいる!!」


 恐竜たちが石の中で動いているのが見えた。


「すごーい! みんないるじゃん! その石、そんな力もあるのね」


  ナオがハナオカの石を覗き込んだ。



 その時、スペースカーのスピーカーから雑音に混じって声が聞こえた。


「ザーザー……コチ…ユリ……」


「ホンダ君!? どうしたんだ?(船長)」


「ススム……タイ……クロフク…コッチニモ……キ…


(ザーザー)


 ……キチャ…メ……」


「ユリコ!! (ナオ)」


「シャトルで非常事態、発生!!(ハジメ)」


「早く戻るぞ!(船長)」


「ユリコ! 聞こえる?! 今すぐ行くわ!(ナオ)」


 ハジメがアクセルを踏んだ。



 ウーン! ウーン! ウーン!



 車からおかしな機械音がした。


「今度は何?!(ナオ)」


 スペースカーの燃料表示が赤く点灯している。


「燃料がヤバイ!!(ハジメ)」


 アクセルを思いっきり踏んでもノロノロとしか進まない。


「これでは歩いた方が速いな。車を捨てて走るぞ! (船長)」


 ハナオカは石に、シャトルの位置を念じた。石から緑の光が線のようになって道を指し示した。


「あっちです!(ハナオカ)」


 ハナオカを先頭にしてクルーたちは森の中を走っていた。




本日もお読みいただき誠にありがとうございます。本日の担当者は、ティラノサウルス村長です。

【ティラノサウルス村長のヒトコト】

我は由緒正しきティラノサウルス一族の出である。今回は、恐竜星の命運がかかっているだけに、名に恥じぬように、皆を守りぬきたい。今のところは石の中に入っているだけだが何もしていないわけではない。今後の黒幕との対決にも備えるため、石の中で、皆と共に訓練を行っている。特別に大変な訓練は、"餌"を見つけても食べないことだ。彼らは仲間だと言い聞かせ、食欲を制御している。これからも頑張るつもりだ。


これからも、仲良くお願いしますね!(作者記)


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