23. 恐竜との接触
車は崖を突き破って海へジャッバーンと大きな飛沫をあげて飛び込んだ。車はズブズブと底へ沈んでいく。
「スクリュー、オン!!」
車の後方についたプロペラが勢いよく回転し出して、海の中を進んでいく。太陽の光が水面上でピカピカしていた。
岩影には小さな小魚が泳いでいるし、海草がゆらゆらとはためいている。ずっと進んでいくと、目の前に銀色のキラキラした大きな魚が表れた。上下左右に素早く方向を転換して泳いでいる。
「何あれ!(ナオ)」
それは大きな魚ではなく、大勢の小魚が、一匹一匹より集まって泳いでいたのだ。
「あれはね、……イワシの群れだよ(ハジメ)」
「なーんだ。なんか、すっごいやつかと思った(ナオ)」
スペースカーの横を、ゆったりと泳いできたのは『フタバサウルス』だった。目と鼻が離れている首の長い恐竜で、少し間抜けな顔をしている。ネッシーに例えられるようなその姿は、顔かたちが間延びしていて、ひどく退屈に思えた。
その時突然、車の横を物凄いスピードで泳いでいった生物は、恐ろしい歯をもったワニみたいな生物で、車をゆっくりと越していったフタバサウルスの背後からその喉元に食らい付いた。
「あ、あれは……! 『モササウルス』だ!!」
フタバサウルスは、あえなく退散していった。モササウルスはイワシの群れに突進し、逃げ惑って散り散りになる魚たちを補食していく。
海底に目を移すと、アンモナイトを探して悠々と泳ぐ古代の亀、『アーケロン』がいた。全長4m、体重2トンの史上最大の亀である。
「そろそろ浮上しようか(船長)」
「了解! 浮上開始!」
車は海面まで上がっていった。頭上を『プレオンダクティルス』(最古の翼竜の一種)と『プテラノドン』が飛び去っていった。
「この星の最も驚くべきことは、三畳紀、白亜紀、ジュラ紀と複数の時代に生きていたとされる恐竜たちが同じ所で生活していることだ。こんなこと、普通じゃあり得ない……」
ハジメは写真を撮ることすら忘れているほどに、目の前に現れる恐竜たちに魅了されていた。
「そろそろ、適当な場所で必要なサンプルを採取して帰らないとね」とナオが冷静に言った。
「そうだな。よし、あそこから陸地へ上がれるぞ」
車は海から陸地へと続くなだらかな海岸を上がっていき、再び平原に出た。
「スペースカー! 聞こえますか? こちらスペースレンジャー号!」
「聞こえる! どうした?」
スピーカーから聞こえるススムの声は、なにやら焦っている様子だ。
「ちょっと面倒な事が起こりました。何か大きな飛行物体がこの星に接近している模様です。AI異常検出器では、物体はかなり大きくて、相手方からの信号が無いため、かなり危険な相手であると考えられます。もう少し詳しい解析を続けて、分かり次第報告します」
「そうか、とにかくこちらはシャトルへ戻る。そちらは解析を頼む!」
車は方向を変え、シャトルの方角へ走り始めた。
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!!
突然、地面が揺れ出し、背後からステゴザウルスや『パラサウロロフス』、『オルントミムス』の大群が迫ってきていた。
「わー!! 早く!! もっとスピードを出せ!!」
「これ以上出ません!」
メーターの針は最高速度まで傾いていたのだ。
「押し潰される!!」
ハジメはハンドルを思いっきり切って、車はアクセル全開で森の中へ突っ込んでいった。シダ植物が鬱蒼と生えた中を抜けていく。フロントガラスにバシバシと大きな葉っぱが当たって前が見えない。しかし、いまだに後ろからは先程の恐竜たちが追いかけてくるので、このまま車を走らせるしかない。
!!!
「ねぇ!! 後ろ! 後ろ!」
恐竜の王様といわれる『ティラノサウルス』だ!!
全長15m超の、大型のティラノサウルスが、強靭な後ろ足で地面を力強く蹴り出し、体全体のバランスをその強くて太い尻尾で取って猛烈に追いかけてきたのだ!!
鱗で覆われたトカゲのような体表の所々には羽毛のようなふわふわしたものが密集して生えていた。
タナカは恐怖以上に好奇心が止まらず、サイドミラーから後ろを見ている。
「やっぱり、ティラノサウルスに羽毛が生えていた件は、本当だったんだ!」
「ねえ! ちょっと! ふらふらしないでよ!!」
ナオがハジメの握るハンドルを真っ直ぐにしようとした。
「タナカ君!! 前を向きなさい!」
船長が叫ぶ。
タナカハジメは恐竜の中でも、ティラノサウルスがもっとも好きだった。
今こうして本物に追いかけられているんだ。すぐ後ろにはティラノサウルスがいるんだ!
そう思っただけで鳥肌が立ち、ハンドルを握る手に汗が噴き出してくるのを感じる。
お化けのように絡んだ蔓植物がタイヤに絡んでもおかしくないが、かなり速さで進んでいるためブチブチ切れていって、森の奥へと突き進んでいった。
次第に道幅は狭くなり、小さな車一台がぶつかりながら、やっと通れるくらいになった。あんなに大きなティラノサウルスは、ここまで入ってはこられないだろうと思っていた。
その時!
ギャーウ!!
その怪獣は難なく森の木々の合間を通り抜けて、そのどでかい図体を現したのだ。
「キャー!!」
逃げても逃げてもしつこく追いかけてくる。そしてなぜか、草食恐竜たちも、ティラノサウルスの後ろからスペースカーの後を追いかけてきているのだ。しかも、さっきよりも数が増えている気がする。
彼らはどうして付いてくるんだろう……?
ハナオカは石に願い始めていた。
彼らの言葉が分かるといいのに……と。
するとハナオカの胸元から、鋭く眩い緑の閃光が煌めいた。
「あっ! 石が光っている!!」
船長が声を上げたのと同時に別の叫び声が聞こえた。
「えっ!? 何?」
後ろを振り向こうとするハジメの顔を無理矢理にでも前に向けたナオ。
「だから、前見て走って!!」
石はまだ目映い光を放っていて、突然に声が聞こえた。
「同志たちよ!! 逃げよう!
石の真の使い手の行く先へ!
彼は我らを守って下さる!
"あの者たち" がついに我々の星にもやってきた!
我らは逃げるのだ!
石の力を信じよう!」
ハナオカは理解した。ティラノサウルスは、森にいるすべての生物たちに伝えているのだ。
上空を見上げると、翼をもった大小様々な動物たちが車の行く方向へ飛んでいた。彼らも呼び掛けていた。
「ついに石を持つ者が現れた! 彼らと共に行こう!」
「でも、どこへいったらいいの?(ナオ)」
「さあ……」
声はみんなにも聞こえているんだ。
すると、車に取り付けたスピーカーから、ざらざらした音が流れた。
「スペースカー! 聞こえますか? こちらスペースレンジャー号!(ススム)」
「カトウ君! ただ今、緊急事態が発生したんだ!
恐竜たちに追いかけられているんだ!(船長)」
「GPSによると、前方500m先に洞窟があります!
大きな左に折れるカーブが見えてきたら大きくハンドルを切って下さい! すぐ分かります!
ひとまずそこで、かわして下さい!(ススム)」
「やってみる!(ハジメ)」
確かに先の道が大きく左にカーブしている。ハンドルを思いっきり左に回しながら急カーブを曲がった。すると、すぐ手前にあった穴へスポンと入り込めた。
ダッダッダッダッ!
ドッドッドッドッ!
恐竜たちはスペースカーに気付かずに、そのまま通り過ぎていった。
ふー、とりあえず、よかった……。
まだハナオカを除く彼らの心臓はバクバクいっている。
「大丈夫ですか?!(ススム)」
「ああ、何とか助かったよ! ナビをありがとう(ハジメ)」
「良かったです。ちなみに接近中の物体についての解析の結果、AI検出器で "特定不可" と表示されてしまって、判別できませんでした(ススム)」
「そうか……。
となると、ハナオカ君の言うように "あの者たち" が、ここへ来ているということなのか……(船長)」
「何か情報がありましたか?(ススム)」
「あった! 恐竜達が私たちを追いかけながら、叫んでいたの。
たしか……、『石の使い手が来た。"あの者たち" がこの星にやってきた』と言っていた!(ナオ)」
「恐竜が叫んだ? ……はぁ、なるほどね……(ススム)」
「で、ハナオカ君、どうやったら君の持っている石で、"あの者たち" をやっつけられるんだ?(ハジメ)」
「それが分かっていたら、もうとっくに、みんなことを助け出していますよ」
ハナオカは自分の無力さにがっかりした。情けなかった。
「……そうだよな(ハジメ)」
「分かりました。
とにかく、特定不可の未知なるものが近づいて来ているということですね。レーダーで、ずっと監視しているんですけど、かなり速度はゆっくりみたいで、まだこの星の大気圏外にいるらしいんですよ……うっ、……で……、その……(ススム)」
音が途切れ、ジャーという雑音が混じり出した。
「スペースレンジャー号?! 聞こえますか?!(ハジメ)」
ザーザーザーザー……。
「応答せよ!!(船長)」
……。
悲しいことに雑音さえも聞こえなくなった。
「どうしたのかしら……(ナオ)」
「恐竜たちはもう行ってしまったのだから、今すぐシャトルの方へ急ごう!(船長)」
お疲れ様です。
ティラノサウルスに羽毛が生えていた件について、先程ハジメさんが補足情報をくれました。以下原文のまま。
○ティラノサウルスは羽毛があった? それとも鱗で覆われていた?説について
ティラノサウルスという名称がつけられたのは1905年。当時は尾を引きずって歩く怪獣のような姿だと考えられていた。
前傾姿勢で描かれるようになったのは1990年に入ってから。2000年に入ると、初期のティラノサウルスの仲間の化石に羽毛が生えていたことが確認されたため、ティラノサウルスにも羽毛が生えていたとする説が有力になる。
2017年、カナダの研究社グループが、アメリカのモンタナ州で発見したティラノサウルスの化石に残る皮膚の模様を調べた結果、羽毛ではなく、爬虫類らしい鱗で覆われていたと発表した。ただし、採取した化石の部分がたまたま鱗の所で、他に羽毛が生えていた可能性は否定できない。
それで、今後の新たな発見により、ティラノサウルスの真の姿に近づいていくことが期待されていくだろう。
*参考資料 Newton 別冊「新・ビジュアル恐竜辞典」より




