19. 美しい星にはトゲがある
ハジメは『りゅうこつ座イータ星』の恐ろしさを鼻息荒く説明し始めた。
「ある研究者によると、その星は、あと数100万年で『超新星爆発』と呼ばれるすごい爆発が起きて、地球に危険なγ線を放射すると言われている。
まさに時限爆弾だな。
しかも、そいつは地球からわずか1万光年しか離れていないところにあるんだ」
「それが一番危険な星なのですね」
「いーや、俺が一番危険だと考えている星は、『中性子星』なんだ」
「ちゅうせいしせい?」
それ来たとばかりに、鼻の穴を膨らませながら、持っていたiPad用のペンを左右に振り始め、宙に浮いている透明な板にそれで、絵を描き始めた。
「人間は生まれると、赤ん坊の時期、幼年期、青年期、壮年期、老年期と人生のステージを通過していき、ついには死ぬ。 これが人の一生だね。
同じように、星も誕生してから、どんどん老化して変化していく。その終末の段階が、中性子物質からなる超高密度の星なんだ。
星の最後には、『超新星爆発』というのが起きる。この爆発によって、星の外層が吹き飛ばされて残った中心核は、超高密度に圧縮される。その時、星の質量が太陽の約2倍以上の場合は『ブラックホール』になり、逆に2倍以下の場合は中性子星になると考えられている。
つまり、軽い星は収縮に耐えきれずに爆発して中性子星となるが、重い星はどこまでも収縮を続けて、しまいにはブラックホールになるというわけなんだ。中性子星は、質量が太陽の1~2倍で、放射するエネルギーは太陽の1万倍に及ぶ」
ハナオカはここで、頭の中にあふれ返っている難しい用語を簡潔にする必要が生じた。そして、しばらくウンウンと唸ると、晴れやかな顔になって言った。
「……つまり、星の重さによって運命が変わるということですか?」
「その通りだよ、ハナオカ君」
「その、ブラックなんとかというのは何だ?」
真っ黒なカラスが話に割り込んできた。
「『ブラックホール』、その名の通り、見た目は真っ黒い穴にしか見えない。重力がとてつもなく強いから、光を含め、いかなるものも、電波もエックス線も出てこないから、全くの黒い穴としか見えない」
「落っこちたら大変だなぁ」と言って、カラスは体をぶるぶる振るわせた。
「全くだよ。
ちなみに、中性子は核反応を起こしやすいから、原子炉の核分裂連鎖反応や人工放射性元素の製造に利用されている。人間社会に利用されている物質でもある。そして、核兵器の材料にもなるんだ。
その破壊力は凄まじい。さっき言った超新星爆発は、原爆一千個以上もの威力があるから、万が一、中性子星が地球の近くで爆発を起こしたら、もう大変なことになるよ。
だから、俺がもっとも危険な星だと思うんだよ」
「なるほど……」
「ほらっ、見えてきたぞ。りゅうこつ座イータ星だ。
二つの耳たぶみたいなものが見えるか?」
指差す先に目を移すと、もわもわっとした光の雲が見えた。
「あれは、『人形星雲』だ。星はその中に取り囲まれているんだ」
「綺麗だな……」
ハナオカはうっとりとしたが、危険な星なんだと思い返した。
「あれは『りゅうこつ座α星、カノープス』だよ。
とっても明るい星だろ?
日本でも見ることができる星さ。もう少しすると、いよいよ目標地点に到着するよ」
ハナオカは、仕事が終わるといつも空を見上げた。仕事中は大抵、田畑の手入れや、種付け、収穫などで下ばかり見ている。やっと終わったとき、ふっと空を見上げると、なんともいえない爽やかな気持ちに満たされるのだ。今まで名前も知らなかった星をすぐ目の前に見ているのだ。
「本機は、まもなく目的地周辺に侵入します。巨大星雲を通過するため、クルーは安全ベルトを閉め、大きな揺れに対応して下さい(AI)」
ガガガガ、ゴゴゴゴ……。
小刻みに上下する機体。
「ヒェー!!」
カラスとウサギは、ハナオカの安全ベルトの内側でハナオカにしがみついている。船長とハジメは、透明な板を手元に近くに寄せて操作している。
「見えた!!
でっかい星だな……。これほど巨大な星は初めて見たよ……」
「着陸用意! まもなく着陸します。過剰Gがかかる恐れあり! 備えて下さい!(AI)」
ぐんと頭から爪先まで沈み込むような、とてつもない重さを感じる。クルーの安全のため、シャトルにはG軽減装置がついており、すでにそれが作動しているが、息苦しいGが乗しかかる。
「ハナオカ君、大丈夫?!(ナオ)」
「……はい!」
ハナオカは歯を食いしばった。体から嫌な汗が吹き出してくる。
「ヒーー! くるじー!!(ウサギ&カラス)」
「もう少しですよ(ユリコ)」
「見ろ!! 森が見えた!(ハジメ)」
目の前の大きな窓に、青々とした森が見えた。川も海も山もある。シャトルは森の中の広々としたところへ降り立った。ウサギとカラスはぐったりとしている。
「お前たち、大丈夫か?(ハナオカ)」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ……死ぬかと思いました……(ウサギ)」
突然、拍手が起こった。
「何だ何だ?!(カラス)」
「 "第二の地球" を見つけたかもしれない!!」
船長は安全ベルトを外すなり、勢いよく立ち上がって、前面の大スクリーンに映し出された壮大な自然に感嘆の声を上げた。
「すぐ確認します!」
ススムが機械を操作し始めた。カチカチという音が、みんなの期待に込められた視線に後押しされて、そのスピードは速まるが、何かがおかしい。時間がやけにかかっているのだ。
忙しく動かしていた手が急に止まった。
「どうした? 何か問題でも?(ナオ)」
「……」
「何だ?」
みんながススムのパソコンを覗き込んだ。画面にはシャトルの現在地が黄色の○で示されていて、それを取り囲むように赤い✕がたくさんあったのだ。
「何だ、これは……。
我々は何者かに囲まれている……!?」
ススムは眼鏡をくいっと引き上げて、メインパソコンに連結している隣のパソコンを食い入るように見ている。
「高感度カメラの精度を最大にしているんですけど、対象物との距離がかなりあるようで、よく見えません。でも、何か嫌な予感だけはします」
「画面では、何かがすぐ目の前にいることになっているぞ(船長)」
「待って! うちらの部屋から見えるかも!」
ナオがそう言って、飛び出していこうとするのを、ハジメは遮った。
「望遠鏡カメラでも見えないのに、部屋の窓から見えるわけないよ」
「望遠鏡カメラじゃなくて、高感度カメラです」
すかさずススムが訂正する。
「見えないのは、カメラの付いてる場所が悪いんじゃない? シャトルの横側からなら見えるかも」
ムッとするススムを一番最後にして、とりあえずみんなはナオの部屋に急いだ。
スイッチオン。
切替ボタンを押すと、窓の外にはなんと、首の長い巨大な生物がこちらを見下ろしていたのだった。
【豆知識】
●人工的なブラックホールを作る取り組み
実は、人工的にミニブラックホールを作る実験施設が、スイスのジュネーブに建設された。LHC(大型ハドロン衝突加速器)という、巨大な粒子加速器で加速した陽子同士を正面衝突させることにより、ブラックホールを作ろうとしている。
*newton 別冊「最新宇宙大事典250これを知っていれば宇宙が分かる 重要キーワード集」より




