20. 田中一のはじまり
ハナオカたちは、りゅうこつ座α星からそれほど離れていないところに位置している、未知の惑星にやって来たのだった。
スピノフォロサウルスだ……。
あんなにナオの言ったことを小バカにしていたハジメが皆を押しのけ窓に駆け寄った。おでこと鼻が窓にくっつくくらいに、夢中になっている。
「あたしの窓に顔の脂を付けないでよね……」と内心思うナオを余所目に。
その恐竜は、首がこれでもかという程長く伸びていて背の高い木々の葉を食べていた。
「見て!
プテラノドンが飛んでいるよ!!」
ハジメは、子どものように空を指差して叫んだ。そして、反対側の部屋に行ったり、後ろの部屋に行ったりして、この星の壮大なパノラマを予感した。
「……ここは…恐竜星だぁっ!!」
***
田中一は、恐竜大好き少年だった。実家の彼の部屋に行けば、恐竜のフィギュアや図鑑、ポスターをたくさん目にするに違いない。
小さい時は、家族から将来何になりたいかと聞かれれば、考古学博士と答えた。
彼が将来の進路を真剣に考えるようになっていた高校二年の夏、あるOBが学校で講演をしにやって来た。
それが、華岡光一だった。
暗幕でしめられ暗くなった体育館は、真夏の蒸し暑さと男達の汗と熱気で充満していた。現役宇宙飛行士の話だと聞いていたので、皆がワクワクしていた。
華岡講師は宇宙の星やシャトルについて、大迫力な映像で紹介した。度々感嘆の声が生徒の間であがった。宇宙飛行士が実際にどのような仕事をしているのか、具体的に説明すると、みんな話に耳が釘付けになった。生徒や先生が聞き入っている中、もれなく田中一も胸に熱いものが宿ってきていた。
「カッコいい……! 俺もあの人みたいな宇宙飛行士になりたい……!」
大拍手に見送られて、華岡講師は体育館の後ろのドアから出ていった。その後、つまらなくて長過ぎる生徒指導の先生の話が続いた。その間、田中はうずうずしていた。もう一度あの人と直接話がしてみたいと思った。
終わると一目散に職員室へ走っていった。職員室のドアは開け放たれていて、一番手前に座っていた数学の先生に声をかけた。
「先生、さっき話をして下さった講師の方はどこにいらっしゃいますか?」
「えっと、来賓の方かな? さっき校長先生と話していたよ」
「ありがとうございます」
職員室から出ると、ちょうど校長室の扉が開いた。華岡講師が出てきて目があった。
「華岡先生!
先生のお話が心にずどんと刺さりました!
俺も宇宙飛行士になりたいです!
どうすればなれますか?」
随分と唐突過ぎる質問だ。それも職員室まで聞こえるほどの大きな声だったから、中にいる先生たちはみんなどっと笑った。担任の永島先生が職員室の窓から顔をひょっこり出した。
「田中! もっとべんきょーしろ! 今回の英語、赤点だぞ!」
「はーい!! 頑張りまぁーす!!」
さらに、どっと笑いが起こった。しかし、華岡講師は依然と真面目な顔をしていた。
「名前は何と言うんだい?」
「田中一です! 野球部キャプテンです!!」
「そうか、みんなをまとめるリーダーだね。君、良い顔しているね」
「良い顔っすか、…エヘヘ、そうっすかねぇ」
田中は良い顔と言われて、頭をかいた。
「うん、真っ直ぐな目をしているね。良い素質がありそうだ。
いや、すまんすまん。つい、いつもの癖が出てしまってな。気にしなくていい。
宇宙飛行士には、誰でもなれる訳じゃない。宇宙へ行けるのは極わずかな、選らばれし者、というのは過去の話だが、もちろん今でも、ある程度の知能と体力的、精神的、技能が基準を満たす必要はある。しかし、誰だってなれるチャンスがあるんだ。だからやる気になれば、君だって必ずなれる。
先程、ちらっと耳にしたが、英語のスキルは大切にした方がよいのは事実だ。なんならロシア語も必要になるから。
だがな、高校生にとって勉学ばかりが全てじゃないだろ?
仲間と一緒に遊んだり部活を頑張ったり、色々挑戦してみることも将来の糧になるから、学生らしく一生懸命やってみなさい。そうすれば、きっと君の思い描くような素晴らしい将来を切り開くことができるに違いない。
私は、どこかで君と一緒に働ける日を楽しみに待ってるよ」
「はいっ!! 頑張りますっ!!」
田中はその日を境に猛勉強を始めた。元々成績は英語以外トップだったが、その英語は追試レベルの酷いものだった。それで、勉強法を一から見直し取り組んだ。おかげで最近は、唯一足を引っ張っていた英語の成績がぐんと伸び、総合順位は学年トップを連続させた。
そして高校卒業後、狭き門である、宇宙飛行士の訓練学校の試験に見事合格したのだった。
初日の日、田中は偶然、華岡先生とロビーで会った。華岡先生はトレーナーを着てリュックを背負っていた。田中は先生の顔も背丈も全て記憶していたので、すぐ先生だと分かった。それで彼は走っていって声をかけた。
「先生……、俺、田中一です。高校に講演をしに来てくださった時、職員室のとこで、俺に色々アドバイスを下さった……。
あのときの高校生です!」
華岡先生は、一瞬「あっ…」となったが、思い出したように、
「あの時の、野球青年の子か!
本当に君なんだね…! いや感動したよ」
華岡先生の目は言葉の通り潤んでいた。
まさか、あの時の高校生が本当に宇宙飛行士になると思っていなかったわけではなかった。逆にむしろ、きっとここに来るだろうと思ったことが実現した喜びで涙が出たのだった。
先生は田中を抱き寄せた。
この素晴らしい日を境に、田中にとって、試練の日々が始まった。華岡は教官長で、とても厳しいと上級生から聞いていたが、次第にその意味が分かった。途中泣いて抜け出す訓練生もいた。田中もその経験をした一人だ。
カニのハサミみたいなアームを操作して、小さな電気のソケットに部品をはめ込んだり、はんだごてみたいにじゅーっと焼いて、金属と金属をつけたりすることをやるのだが、それも短い時間ではなく、長い時間で様々な細かい工程をクリアしなければいけなかった。田中はそれが苦手であった。
額に汗をかいて、それが、つーっと目の中へ入り込む。目が痛くて開けていられなくなって、集中力が途切れてくる。
イライラしてくる。
二十人くらいが同じ部屋でやっているのだが、みんなの焦りや怒りが伝わってきて、さらにイライラしてくる。まさに悪循環だ。
くそっ!!(田中は心の中で吐き捨てた)
「はい、田中! 抜けなさい!」
田中は「何で?」といったような顔で華岡先生を睨んだ。この時、途中で声をかけた華岡先生に対しても、イラついていた。
「集中力が途切れているから、すぐにここから外れなさい」
「でも、先生、俺はまだ全然大丈夫です」
汗だくの顔で田中は内心ショックを受けていた。
「ダメだ。自分のミスさえも気がついていないときている。
これは全然大丈夫じゃない。
そもそも「全然大丈夫」という日本語はない。全然のあとは「駄目だ」という言葉が来るのだ」
先生の言葉がいちいち気に障った。
「先生、そうやって後足引っかけるようなこと言ってますが、俺の体はもう大丈夫だと言っているんですよ」
田中はイライラを隠しきれなかった。
「じゃあ、どうする。君の言う通りに、このまま君の参加を私が認めれば良いと言うんだね?
事実可能だ。
しかし、そしたら今日を境に君にもこの生徒たちにも会えなくなるということだ。
どうする?
これが宇宙の惑星でシャトルが故障し、至急修理が必要になったとして、明らかに体調不良で集中力が途切れたクルーがいることを知っていたにもかかわらず、そのまま任務に出させ、後に重大なミスが起きて、シャトルが爆発し、全員死亡というニュースが流れてきたら。
誰が責任を取るべきなのか?」
田中の唇はぎゅっと噛み締めたまま、片側だけつり上がっていた。
「先生、それはちょっと飛躍しすぎですよ。これは訓練です」
華岡先生は態度を変えずに淡々と田中に話し続けた。
「答えてみなさい、誰が責任を取るべきか?」
「……」
「もう一度言います。この場合、誰が責任をとる必要があると思いますか?」
「それはもちろん、体調不良を押してやった人です。そもそも、体調管理がしっかりなされていなかったことが原因だと思います」
「なるほどね。確かにその人間も問題はある。しかし、その子の性格や健康状態全てを鑑みたうえで、このままミッションに参加させるという謝った判断を下した奴こそ一番の問題だ。
なぜ、今回のミッションに連れていく決断に至ったのか、細かく分析し面談が行われる。
そして、大事な点を見逃した、つまり、クルーの安全を脅かす最終判断を下した人間が責任を追うことになるんだ。
我々指導官は、ミッションの成功だけではなく、クルー、一人一人の命を見守っている。ミスをしやすいコンディションだと判断したなら、その者を間違いなく外す。それを怠っていると、もっと大きな事故に繋がるからな。
私はそうしたくない。
分かるか?
だから、ミスしたことすら気づいていないような君を、このままミッションに居続けさせたら大事故のもとになってしまう。
訓練も本番も全く同じだ。むしろ訓練だったのは幸運なことだと思いなさい。
話はそれだけだ。早くここから出なさい」
しばらくは落ち込こみ、復活した後も、何くそと思った田中だったが、実際のミッションに参加するようになって、華岡先生の言った本当の意味が分かった。それが分かるまでに、かなりの時間がかかることになったのは言うまでもない。
おつかれさまです❗️
本日は、3名の方に集中力を保つ秘訣とは何か聞きたいと思います。
① カラス
鳥は基本的に集中力は長くは続かないらしいよ。だけど、楽しいこととか嬉しいことだけは、しつこいくらいにやっちゃうかな。特に頭を使うようなのはやりたくて仕方ないね。でも、やる気なくしたら、諦めは早いけどね。
②ナオ
あたしは、とにかく毎日の日課を決めてそれを守る。ルーティン化することかな。長い時間は集中力は保てないから、自分に合った時間を決めて、時間割りみたいに、飽きたら別のことをして常に集中力を保ったまま作業を続けるようにしているよ。
③ハジメ
とにかく寝る。寝る。寝る。頭がスッキリするまで寝る。もちろん寝すぎて、だるくならないように、ちょうどいい時間を見つけてね。寝ると頭がスッキリしてその後、バリバリ頭動くから全集中可能なのさ。
ナルホド……やってミヨーかな (作者記)




