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2. 牢獄のなかで

 牢屋はひどい悪臭がする。あちらこちらに汚物の跡がある。


 男の隣の牢から話し声が聞こえてくる。


「新入りが来たみてぇだな」


「ああ」


「話しかけても言いかなぁ」


「やめといた方がいいじゃねぇか?」


「誰だって最初は落ち着かねぇもんだ。そっとしておいた方が親切だ」


「そうかぁ? 俺だったら誰かと話がしてぇと思ったなぁ。そうだ、そうに決まってらぁ。よぉ! 隣の新入りぃ! オメエはなにをしでかしたんでぇ?」


「助けてくれ! おらは何もしてないんだ! 無実なんだ!」


「無実なこったぁ、あるめぇ! 獄に入れられたっちゅうことはなぁ、それだけの悪さをしたっちゅうこった。さっ、諦めて何したか話せぇ」


「おらをここから出してくれ! どうしたら出られる? なあ、教えてくれ!」


「ほら、やめろよ。話したくないってよ」同じ牢のもう一人が言う。


「いい加減にしろぃ! オメエはもうここから出られねぇよ。出られたときは処刑される時だなぁ。王宮殿の牢獄に入れられて生きて出てきた者は一人もいないと言う噂だからなぁ」


 それを聞いて男はシクシクと泣き始めた。


「ほんとにやめろよ、もうそのくらいにしとけ」


「どうしても言いたくねぇと、こう言うんでぇ」


「言いたくねぇこともあるんだよ、オメエみたいに何でもベラベラと話す奴ばかりじゃぁねぇんだ」


「ふん、いけすかねぇ新入りでぇ。いいさ、じゃあ俺の話でも聞いとけ!」


「ふん、また始まった」


 もう一人の男はやれやれと背をむけて寝転んだ。


「俺はなぁ、この国で優秀な盗賊なのさ。俺の目は優秀だ。金持ちは一目見たら分かる。本物の金持ちは、素人じゃ見分けられないだろうよ、一見持ってなさそうに見えるんだからよぉ。上手く人の目を欺くのが本物のやり方さ。俺にはバレバレだけどよ。


 そいで、そんな優秀な俺がどうして捕まったかと言うとな、ある夜に大富豪のタコシマ・ルシャトール・カネコ氏が街に来るという噂を聞いた。街に行くには、あの深い森を通らないと行けねぇ。それで仲間と一緒に森で待ち伏せをしたのさ。


 遠くから、かがり火がちらちら見えてきたんさ。よしっ、来たなと俺らはこん棒や剣を手にして待ち構えた。馬車がごとごと近づいて来る。俺が茂みから一行の姿を見た時、そこには不思議な光景があった。黒い服を着た変な奴らが小さな袋を手に立ち塞がっている。どこから出てきたのかは分からねぇ。


 するとその時だ!衛兵と馬車もろとも、煙のようにその小さな袋のなかに吸い込まれていったではないか!


 俺は無意識のうちに黒い服にどんどん近づいていって……、ちと近すぎたんだわな。黒服は俺に気がつき、小さな袋をこちらへ傾けてやって来た。俺は怖くなって全速力で逃げた。けれど黒服はものすごい早さで音もなくスゥーッと俺を追いかけてくる」


 男は身振り手振りを使ってその時の様子を実演して見せた。何度も同じ話をしているお陰で、熱演には磨きがかかっていた。


「もうダメかと思ったとき、木の根っこに足を引っ掻け、俺は頭から落っこちた。目をつぶったまましばらくして目を開けると、俺は宮殿の家臣に取り囲まれていた。タコシマ・ルシャトール・カネコ氏をどこに監禁したのかと聞かれたが、もちろん俺は知らない。黒い服の奴がさらっていったんだと話したが信じてくれなかった。


 と、こういう経緯で俺はここに来たのさ。決して俺のしくじりじゃあないぜ」


「その話しは耳がタコになるほど聞いたよ。もううんざりだ」


 背を向けたままもう一人が(うめ)いた。


「おい、聞いてるかぁ? 新入りぃ!」


 ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ。誰かが牢へ近づいてくる足音がする。皆は知っている。この恐ろしい音を。"獄の番人"が見回りに来たのである。牢屋じゅうがしんとなった後、ガタガタと震え出す者や声を潜めてぐじゅぐじゅ祈り始める者もいる。あろうことか男は番人に向かって叫び出した。

 

「出してくれー! おらを助けてくれー!」


 罪人たちは皆ギョッとして凍りついた。番人はギロッと男の牢へ歩を進める。


「うるせぇぞ……。もう夜中なんだ……。よい子はねんねしないとダメじゃねぇか?」


 腹の奥底から出るどすのきいたケモノの唸り声。


「おらは何も悪さしてない! 無実の罪なんだ! 出してくれ!」


「おいっ! 新入り! 黙るんだ!」


 隣の牢の熱弁男が遮る。けれど、男には聞こえてないらしい。


「おらは悪くない! 緑の石を持ってた子どもさを捕まえただけだ!」


「しっ!!」


「不思議な力がある緑の石を見つけた者には褒美がたくさんもらえるって、王様が昔に出したお触れに書いてあるんだ。だからもう一度ちゃんと王様に訳を話せば分かってくれる。お願いだ! 王様に伝えてはくれないか!」


「あいつはどこまでバカなんだぁ? 見てられねぇよぉ……」


 熱弁男はついに目を覆った。新入りの口を誰か塞いでやってくれ!と願いながら。


 番人は騒ぐ男の方をギロッと睨むと、耳近くまで裂ける紫色の口を開いた。


「うるせぇって言ってるだろうが! よし! 言うことが聞けねぇってこったぁなぁ? ムチ打ち百回!」


 番人の憂さ晴らしになっている、毎晩恒例のムチ打ち。番人お手製のムチは無駄に人を痛めつける構造になっている。1本の縄に細かいトゲと大きなカギヅメが交互につき、それが何十本も集まってできているのだ。数えきれない罪人がこのムチで倒れたという。今晩の犠牲者は自ら志願をしたような愚かな新入り。自分じゃなくて良かったと、牢の皆は心の中で言った。


「ひぇっ、あいつ、きっと死んじまうよ! おい、新入り! 早く謝れ!減刑してもらうんだよぉ!」


「やめてくれ! おらは何にもしてないんだ!」


「そうかそうか、俺のムチを楽しみたいんだな」


 その晩、27回のムチ打ち後に男はピクリとも動かなくなった。

本日は…どなたでしょうか? どうぞこちらへ!

【隣の牢獄の男(熱弁男じゃない方)のヒトコト】

おれは口下手だし、つまんないからいいよぉ…。しゃべる方は、あいつ(熱弁男)にお願いしてよ。あいつ、喋り担当だからさ。えっ? 今話しているのも書いてるの? ちょっと困ったなぁ。えへへ(意外と嬉しそうな隣の牢獄の男さんでした(* ̄∇ ̄*))(作者記)

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