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18. ウサギとカラス 白服と交信する

 薄曇りのような重い顔をしていた船長の表情はみんなに見つめられていることで、再びいつもの柔らかい表情に戻っていった。


「実は、このシャトルを勧めてくれたエージェントの話によると、この船には特別な仕様が施されていると言うんだ。それはなんだと聞いたが、乗ってからのお楽しみだといって決して教えてはくれなかったがね。うちの会社のCEOは、彼を充分信頼して大丈夫だというから、この話を進めることにしたんだ。CEOはそのエージェントと懇意だというんだ。


 もしかして、そのお楽しみというのは、開発不可能と思われた "簡易式時空間移動ワープ" のことなのかもしれない……」


 船長の言葉を聞いて、ススムは目を輝かせた。


「それは、過去と未来を繋ぐ扉のことですか?」


「まさにその通りだよ、カトウ君」


「SF小説みたいなことが現実になったということですか」


「そうだよ、ホンダ君」


 船長はハナオカ君の顔をまともに見て言った。


「ハナオカ君、君は過去の地球から来たんじゃないのか?」


 みんなは、はっとしてハナオカを見た。


「難しいことは俺にはよく分かりません……」


 白服たちとの明らかな文明の差を目にしてしまっては、なるほど俺はあの赤い輪を通って、未来に来てのしまったかもしれないと思うハナオカだった。


「だから、着ている服も違うんだね」とススム。


「言葉もね」とナオ。


「それじゃあ、リュウジン君じゃなくて、リュウジンパイセンですね」とユリコがにっこり笑った。


「リュウジン、で良いです」とハナオカは気のないように呟いた。


 過去か未来かで、どちらが上だとか下とか言うのは馬鹿げていると思ったからだ。


 ナオが言った。


「でもね……、じゃあ、ハナオカ君で!」


「はい……」


「ねえ、もしかしてこれ、ハナオカ君が持っていた物じゃないですか?」


 ユリコは胸ポケットから緑の石を取り出した。


「あーっ! 石だ! 盗んだのか!?」


 ウサギとカラスが叫んだ。けれど彼らの言葉は、動物の鳴き声でしかなかった。ハナオカもすかさず言った。


「どうして、それを……」


「ごめんなさい。盗んだ訳じゃないんです。通路のすみにこれが落ちていて。あまりにも綺麗で見たことのない石だから、とりあえずポケットにいれておいたんです」


 ハナオカは石を受け取り、それをテーブルの中心に置いた。もう、彼らに石の力を教えても良いだろう。それに彼らはウサギやカラスの言葉が分からないようだ。俺たちの仲間なら皆と言葉が通じていなければ上手く行くこともいかないだろうとハナオカは考えた。


「みんな、石を感じて下さい。この動物たちの言葉に耳を傾けて下さい」


 みんなは互いに戸惑った顔をしていたが、ハナオカが真面目な顔をしていたので、言われたように石を見つめ、鳴きわめく動物の言葉を理解しようと願った。


「ウサ公、彼らは何をやってるんだ? 石を見つめてる(カラス)」


「シーッ! 何かが起こるんだよ(ウサギ)」



 ……。


 白服たちは顔を見合わせた。


「エーーッ!! 聞こえるー!!」


「んー? なんだなんだ?(カラス)」


「君たちの声が聞こえているんだよ(船長)」


「我々の言葉が分かるようになったみたい(ウサギ)」


「へっ! まじかっ!(カラス)」


 ウサギが大きなテーブルの上にぴょこっと飛び乗り、(うやうや)しく皆にお辞儀をした。


「改めてご挨拶致す。我はウサギ。先祖伝来の優秀な穴ウサギの血を受け継ぐウサギである。


 見よ!


 この見目麗しい尻尾を!


  遠くのかすかな物音をも聞き取れるこの美しき耳を!


 地面を蹴り、素早く左右、前後に方向転換できるこの御御足(おみあし)を!


 天が与えし我の素晴らしき体をとくとご覧あれ!


 そして我々は今、ハナオカ様にお仕えして "あの者たち" の行方を追い、かの誘拐された仲間を救うべく、旅を続けているのでありますっ!!


 そしてこちらは、わたくしめの家来、じゃなかった、相棒のカラス!」


「お前、今のわざとだろ(カラス)」


 ウサギは床にいるカラスに上がってくるよう目で合図した。


「俺はいいよ」


「来いよ、カラス! 恥ずかしがり屋のカラス!」


「くそっ」


 カラスは黒い大きな翼を羽ばたいて皆の頭上を優雅に旋回する。


「ここは馬鹿に狭いなー、俺はもっと遠く、高く飛べるのさ。地上を這うどんなに獲物も見逃さない、この視力! そしてこの高い知能も!」


「夜は鳥目でさっぱりだけどね」


 ウサギがからかう。みんなは笑って拍手した。


「よろしく!


 ウサギ君とカラス君!


 今日から正式に我々の仲間だ」


 船長は彼らと握手(?)した。


 ウサギは傍に座る美女を見て、はっと息を飲んだ。


「こ……こちらの姫君は?」


「わたしはナオよ。よろしくね、ウサギさん」


「ナオ姫……なんと麗しゅうお名前でしょう。良かったら1曲わたくしと踊りを踊って頂けますか」


 ウサギはテーブルの上でナオに小さなふさふさの手を差し出した。


「かわいー!!


 けどその前に任務よ! 全ての任務が終わったら、お願いできるかしら? そうすれば心置きなくウサギさんと踊れるわ」


「ははっ! ナオ姫のお願いとあらば、そういたしましょう」


 なんとなく、ねっとりとした視線がウサギに向けられているなと、カラスはハナオカの座る椅子の背にとまってその視線の先、ハジメを見て、にやついた。


 ははぁ~ん。あいつは彼女のことが好きなんだなぁ。




 次の目標地点は、WcA209ε-カノープス星だ。シャトルはAI自動位置調整装置により目標地点までの軌道を時間、安全面、燃料の残量などを加味して最適な軌道を算定してくれる。


「すごい早さで飛んでいくあれは何ですか?」


 ハナオカは窓の外に駆け寄り、指差した。大きな金属片が宇宙空間に飛び交っている。


「ああ、あれはスペースデブリだよ。


 宇宙ゴミさ。


 ロケットを発発射した後人間が宇宙に捨てたゴミだよ。宇宙にはデブリが、うようよ漂っているんだ。


 このシャトルは、デブリの軌道も考慮に入れて、衝突しない安全なルートを見つけてくれるお陰で、なんとか飛べているのさ。


 デブリの問題は深刻でね。


 回収するのも非常に危険なんだ。何て言ったって、向こうもものすごい早さで飛んでるからね」


「いつかそのゴミが地球に降ってくることはないんですか?」


「そうだな。事実、降ってきてるんだよ」


「えっ!」


「実際、多くは大気圏で燃え尽きてしまうけど、燃えにくい材質でつくられたものだと、落下してくることもあるんだ」


「そんな……」


「デブリを回収する専門のプロも増やそうっていう動きがあるけど、まだまだ追い付かないな……」


「あれもデブリですか?」


 遠くに靄のかかったような白っぽいものが見えた。


「あれは、星が生まれる場所だよ。『暗黒星雲』っていうんだけど、有名なのは『馬頭星雲』や『わし星雲』などがあるね。塵やガスが濃く集まってできていて、その密度が濃くなると星が輝くもとになる『核融合反応』が始まるのさ」


「ほぅ……」


「さっ、今向かっている星は最近見つかった新種の星さ。"カノープス"、『りゅうこつ座』の親戚にあたると考えられているが、詳しいことは分かっていない。


 カノープスの仲間である『りゅうこつ座イータ星』」は非常に恐ろしい星といわれている」


「どうしてですか?」



 4人は熱く語るハジメと、それを熱心に聞くハナオカを遠目で見て、クスクス笑った。


「また、ハジメ教授の講義が始まったよ」


「あの分だと、まだ、数時間はかかるな」


 ハナオカは、宇宙の星々について初めて聞くことばかりで、胸がドキドキした。これほど、ハナオカを夢中にさせるものはなかったのだ。

【ミニ豆知識】

●スペースデブリについて

 スペースデブリとは、使い終わった人工衛星や打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品などのこと。


 秒速数キロというスピードで軌道を周回しているため、ミリ単位でも衝突すると、金属に穴を開けるほどの威力がある。


 宇宙にどのくらいのごみがあるかというと、確認できる範囲で1センチ以上は100万個、1センチ以上は1億個を越えるという。 


 実際に衛生とデブリの衝突事故が起きており、問題は深刻だ。


(JAXAウェブサイト「ファン!ファン!ファン!JAXA!」より)


次エピソードは、ハジメの講義からスタートします。ハナオカを夢中にさせる宇宙の謎に迫る!

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