15. ユリコと猫
【ミニクイズ】
Q. 実際にある星の名前(銀河)はどれでしょうか?
1. 望遠鏡座
2. 顕微鏡座
3. 三角座
4. ハエ座
5. 髪の毛座
答えは後書きにあります。
「ピーピーピー!
本機はまもなく宇宙高速ワープへ突入します。安全ベルトを着用して下さい」
耳にキンキン響く音だ。
「さっ、ハナオカ君。こっちに来てイスに座りなさい」
船長は操縦席に、ハジメはその隣の席に着いている。ハナオカは二羽を抱き抱えて、ベルトを締めた。
「あれ? 君らも一緒?(ハジメ)」
「突入まで10秒前!
……5、4、3、2、1 突入!!」
ガガガガ……。
機体は小刻みに振動し、赤い点滅した光がくるくる回る。
「ワープ完了。お疲れさまでした(AI)」
「もう、ベルトを外しても大丈夫だよ。ここからはしばらくゆっくりできるから、朝ごはんを食べよう。腹減った」
タイミング良くハジメのお腹がぐぅーと鳴った。
「宇宙食もだいぶ進化したよね。日本食、洋食、中華料理、菜食主義者用のメニューもあるしね」
ユリコとナオは二人して笑った。ナオがハナオカを呼んでいる。
「ほら、こっち来てみて。ウインナー、目玉焼き、ハム、サラダ、パンに白米、味噌汁なんでもあるから、好きなの食べてね」
袋の中に食物が入っているらしい。ウサギとカラスはハナオカによく言って聞かした。
「ニンジンに、キャベツに、レタスに……」とウサギ。
「とにかく肉であればなんでもいい」とカラス。
ハナオカは袋に書かれた文字が分からなかった。きっと中身を表した文字に違いないが……。
とりあえず適当に全種類もってきた。着物の両袖にたくさんの袋を抱えてきたハナオカを見て、ナオが目を見開く。
「ワーオ! 全部食べるつもり? 大丈夫?」
「大丈夫です」
ハナオカは食べ物を持って二羽の待つ部屋に帰ってきた。
「とりあえず全部もってきた」
「わぁ! 肉だぁー! うまそー。ハナオカさま様? もういいですよね?」
「ああ、食え」
カラスはくちばしで、ものすごい速さでつついてハムとソーセージを食べ尽くした。幸運なことにウサギには、お好みのサラダセットがあり、ムシャムシャとほうばった。
三人がお腹を満たした後、カラスがふと言った。
「ハナオカ様? 実は俺たちは見たんです。死肉を」
「死体です。人らしき者が倒れているのをある部屋で発見しました。ハナオカ様の後を尾行していたら、カラスが見つけたんです」
「死体……? それはどこにある? 案内してくれ」
カラスは迷うことなく、死体がある部屋を案内した。
「こちらです」
しかしカラスの示した部屋には簡易トイレがあるだけだった。
「あれっ? たしか、ここにうつ伏せで倒れていたんだ……」
ウサギも言った。
「壁になってる。おかしい……。
わたくしも見ました。こちら側に大きな窓があって暗闇に光る流れ星がたくさん見えていました」
ハナオカはトイレの中をじっと観察した後、壁を触った。切り替えボタンもない。
「うーむ……、これは本物の壁だし、本物の便所だ。部屋を間違っているんじゃないのか?(ハナオカ)」
「いいえ、昨日は何度もぐるぐる回ったので、しっかり覚えております。たしかにこの部屋に違いないんですが……(カラス)」
「カラスの言ってることは本当です(ウサギ)」
「となると、昨日まであった部屋が無くなったということだな。俺たちの来た通路も変な輪っかも忽然と姿を消してしまったということか(ハナオカ)」
「ここは妙です。気味が悪い(ウサギ)」
ハキハキとした機内アナウンスが流れた。ナオの声だ。
「リュウジン君? 聞こえる? もう一回ワープに入るからコントロールルームへ戻ってきて!」
「行かなければ」
三人はコントロール室へ走った。
「最後のワープだ。ちょっときついかもしれないが、抜ければ目標地点が目の前に見えるはずだ(船長)」
「宇宙高速ワープ突入まで、10秒前!
……3、2、1 突入!!(AI)」
機体はさっきよりも激しく揺れて、長かった。その上、体にぐんっとかかるGがとんでもなくきつい。胃がぐうーっと腸の方まで押し下げられるような感覚で、体が重すぎて身動きが出来ない。
「ビーーッ、ビーーッ、ビーーッ!
危険! 危険!
未知物体を感知しました。マッハ10で目標地点付近を左旋回中!(AI)」
「未知物体の解析を頼む!(船長)」
「了解しました。解析中、解析中。終了まで3、2、1!
マスティアカン号と判明!(AI)」
「くそっ! 先に見つけられたか(ハジメ)」
「同業者だよ。それも悪い方のね(ススム)」
明らかに困り顔のススムと怒り顔のハジメ。両者の表情には違いはあるが、残念だということでみんなの気持ちは一致していた。
「どうする? 着陸継続しますか?(ユリコ)」
「残念だが、この星は諦めよう。無用な争いに首を突っ込むのは面倒だ。次の目標地点へ進もう(船長)」
「了解!
次の星、サウディアヌス銀河団ukpd-008星に向かってくれ!(ハジメ)」
「了解しました。目標地点変更完了(AI)」
「ここから300光年先にある近い星だから、すぐに着くはずだよ(ススム)」
「目標地点サウディアヌス銀河団所有、ukpd-008星にまもなく到着します。クルーは安全ベルトを着用して下さい(AI)」
「なんだ? 星が前よりずいぶん少なくなったとは思わないか?(船長)」
ハジメたちが頭の中に描いていた、銀河の無数の星々が漂うところとは程遠い淋しい光景が広がっていた。
「そうですね、宇宙の中でも大所帯の銀河を有する銀河団なのに、こんなにポツポツした星しかないなんて、一体どうしたんでしょうか(ハジメ)」
「あっ、見えた。猫みたいな形の星よね(ナオ)」
小さな三角形の突起が丸い星の上部に二つ着いている。星の真ん中に三日月形の窪みがある。シャトルはそこへ着陸するつもりだ。
「着陸まで、10秒前。3、2、1(AI)」
ドドドーン!!
衝撃波が来た後は、船内はしんとした。暗かったコントロール室にパッと電気がついた。ハジメとナオが船外活動用チェック事項に沿って、安全を確認した。
「この星での活動に特に問題はないもようです。生命反応も1キロ圏内にはありません」
「よし、では降りてみよう。スズキ君とカトウ君は待機を頼む。ホンダ君とタナカ君は仕事だ」
「了解!」
「今ハッチ開けました(ナオ)」
三人は船外へ。
「おっ……」
着陸当初は、赤っぽい粘土質の土でできた不毛の星と思われたが、実際に降りてみると、遠くに緑が広がっていたのだ。
案外、ここも地球に似ているかもしれない。
「船長、あそこに草がたくさん生えているところがありますね(ユリコ)」
ユリコが指差した先には、緑色の原っぱが広がっていた。
「行ってみよう(船長)」
風にゆらゆらと揺られていたのは、『エノコログサ』だった。
別名『ネコジャラシ』。
「どうしてこんなところにネコジャラシがあるんでしょう……。(ユリコ)」
辺りを見ると遠くにも草がボーボー生えているところがあったが、それは全てネコジャラシだったのだ。
「見てみたまえ、沼のようなところもある。植物が育つということは、水が安定して存在していることの証拠だ。もしかしたら生命が存在しているかもしれないぞ(船長)」
「んー、船長、まだ生命反応装置に反応は出ていませんね。もう少し先を調べてみますか?(ハジメ)」
船長は皆の酸素メーターを確認した。
「そうだな、酸素はまだ十分あるし、少し調べてみよう(船長)」
三人は細かすぎず、大きすぎないちょうど良いサイズの砂、すなわち猫砂のような砂地と、ネコジャラシが群生する丘を越え、きれいな水が流れる川も超えて歩いていく。
「やっぱり、植物はネコジャラシしか生えてませんね(ハジメ)」
「何でしょう、これ。何か引っ掻いた跡がたくさんあります(ユリコ)」
大人の背の5倍くらいはある大岩の表面には、熊の爪痕のような鋭い線が何本もあったのだ。ハジメは宇宙用カメラで撮影した。証拠を集め、記録に残すことは、重要な任務の一つだ。
ハジメが何枚か写真を撮り終えたその時、肩に掛けていた装置が激しく鳴った。
「ビーーコン! ビーーコン!
生命反応あり! 50メートル右後方に生命反応あり!(装置)」
三人はハッとして後ろを振り返った。
「接近中! 接近中! 15メートル、10メートル、5メートル……(装置)」
それは私たちの背後にいて、距離をじりじり詰めていたのだ。
ガサッ。
三角の耳が二つ。大きな吊り上がった光る目玉が二つ。針金のような強靭な長い髭が口の回りに生えている。耳まで裂けた口から鋭い牙が見えた。それは岩陰に身を隠し、こちらに飛びかかろうと身構えていた。
シャーーッ!!
「猫ちゃんですか? かわゆいー! ほら、猫ちゃんですよ。大丈夫ですよ(ユリコ)」
ユリコは二人を振り返って笑ったが、二人は相変わらずひきつった表情だ。
「猫ちゃ~ん、ほら、これナ~んだ」
ユリコは引っこ抜いてきたネコジャラシを左右にゆらゆら振って、ゆっくりと距離を詰めていく。
「ホ……ホンダ君、それはやめた方がいいぞ……。こっちへ戻ってきなさい(船長)」
「そいつの爪を見てみろよ……(ハジメ)」
「大丈夫ですよ。ちょっと大きめの猫っていう感じですね(ユリコ)」
大きな縦目の瞳がネコジャラシが動くのを追っている。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ。出ておいで。私たちは怖くないですよー(ユリコ)」
一歩、また一歩とその怪物は陽の当たる方へ体全体を現した。
「こ……これは……!
逃げるんだ! ホンダ君……!(船長)」
にゃぁぁーおぉぅ!
その4本足の猫怪物は、大人の男よりも大きい図体をしているが、鳴き声はあり得ないほどに猫そのものだった。怪物はユリコの前でお座りをして、大きな手でネコジャラシをちょいちょいやっている。
「ナーンダ。家から『○ゅ~る』持ってくればよかったですよぉ(ユリコ)」
ニャオニャオニャオニャオニャオニャオーウ。
「何か言ってます(ユリコ)」
「はぁ? もうやめろよ……!(ハジメ)」
「ハジメさん、うるさいです。聞こえないです。
ネコさん、もう一回言ってください(ユリコ)」
ユリコは大真面目な顔で怪獣に言い聞かせた。ネコ星人はもう一度繰り返して言った。ユリコは大の猫好きが高じて、無意識のうちに心の中で強く願っていたのだ。
「この猫ちゃんは何が言いたいのかしら? 知りたい!!」と。
すると突然、ユリコの胸ポケットから緑の閃光が煌めいた。
「何だ!!」
すると、目の前の猛獣が人の言葉を話し始めた。
「私たちはネコ星の住人、ネコ星人です。この星にはわたくしだけしかおりません。もしや、あなた様は生物多様性の星、美くしき青い星、地球のお方ではありませんか?
どうか、わたくしどもをお助け下さい。仲間はみんな、"あの者たち"に連れさらわれてしまいました。
恥ずかしながら、わたくしたちの文明はそれほど進んではおらず、みんなゴロゴロと、しがない毎日を過ごしているのです。
わたくしは穴の中でずっと震えておりました。みんなが捕らえられて行くのを、ただ見ていました。足がガクガクして動かなかったのです。仲間を助けなかった言い訳にしか聞こえないでしょうね。
でも……ああっ!!」
ネコ星人はおいおいと泣き始めたので、ユリコはネコ星人の大きな頭をなでて慰めた。
「辛かったのですね。貴女は一人で耐えてきたのですね。それで、"あの者たち"とは何者なんですか?(ユリコ)」
琥珀色の猫目を涙できらきらさせながら、ネコ星人は声を低めて言った。
「詳しいことは分かっておりません。ただ話しに聞いているのは、奴らは星を巡ってきては、侵略し、住人をどこかへ連れ去り、恐ろしいことをさせているということです。星によっては中身を吸収したり、掘り返したり、爆発させたりしているようです。運良く私たちの星は残りましたが……。
そして、奴らは揃いに揃って黒い服を着ています」
その声は怒りに冷たく震えていた。
「一人じゃないのね(ユリコ)」
「はい、大勢でやって来ます」
ビーー、ビーー、ビーーッ!
「ヒッ!!(ネコ星人)」
ネコ星人は毛を逆立て、耳が後ろになって飛び上がった。
「大変だ、酸素が危険域に達してしまった! 早く戻ろう!(船長)」
「ネコさん、一緒に来て! 私たちと一緒にいれば安全よ!(ユリコ)」
「お優しい地球のお方よ。……残念ながらわたくしはここを離れられません。
仲間が戻ってきた時に誰もいなかったら、悲しく思うでしょう。ネコジャラシが枯れた、ハゲ星になっていたら残念に思うでしょう。
わたしはここに残って、いつでも仲間が戻れるように整えておきたいんです。だから、わたくしは一緒には行けません。
……どうか、空を見上げた時には、この宇宙の片隅にわたくしたちの星があることを思い出して下さいね……」
「ビヤッ! ビヤッ! ビヤッ!! 命のキケン!!(酸素ボンベ)」
「ヒッ!!(ネコ星人)」
「みんな! 聞こえる? 早く戻って! もう酸素の残りが無いはずよ!(ナオ)」
「ああ、すぐ戻る(船長)」
離れがたい様子のユリコに船長の声が響く。
「早く、戻るんだ!」
三人は急いでシャトルへ戻る。
はぁ、はぁ、はぁ……苦し……。
もうボンベの残量は赤くなっている。ユリコの宇宙ヘルメットの中の酸素もほとんど残ってはいなかった。息も絶え絶えの中、一匹の猫の顔が浮かんだ。
ユリコが不在の間は、友達の夏海に飼い猫の世話をお願いしている。大好きなミミが目の前に見える。
「ミ…ミ…?」
「ホンダ君! しっかりしろ!! もう少しだ!(船長)」
「ホンダ! 止まるな! 歩け! 足を動かせ! はぁ、はぁ……(ハジメ)」
ユリコの足はもう前へは進めなくなっていた。船長は自分のボンベをユリコのと交換するため、彼女のボンベに手を掛けた。船長は緊急時の呼吸法を実践していたため、まだボンベの残量は少し残っていたのだ。
「せっ……船長……?」
なんとかシャトルへ戻った三人。船長はエアロックに入った途端、その場にくずおれた。
「船長!! ススムとナオ! 急いで船長とホンダを医務室へ運ぶのを手伝ってくれ! すぐに酸素吸引だ!」
ハナオカも急いで駆け寄って手伝い始めた。
A. 全部あります!
ネーミングセンスについては、う~ん…と思ってしまいますが、調べてみると色々あるんですね。皆様ももし興味があれば調べてみてくださいね。