14. カラスの見つけた"死肉"
その頃、ウサギとカラスはというと、船内で迷子になっていた。ハナオカが一人の白服と一緒にどこかへ行くのを追いかけていたが、カラスがあるものを見つけたせいで、どの部屋へ入ったのか見失ってしまったのだ。
そのあるものとは"死肉"だった……。
「おいっ!、ウサ公! 見つけたぞ! こっち!」
「それより、ハナオカ様はどこへ連れていかれるんだろう……」
ウサギは心配で心配でならなかった。
「ウサギ! ごちそーじゃないか!」
「やはり、ここはどうも怪しすぎる。同じような扉がたくさんあってどれがどれだか見分けがつかない。……な、カラス」
ウサギは後ろを振り返るも、カラスの姿がない。
「おい! カラス! どこにいる? 返事をしろぉ!」
シーン……。
仕方なく来た道を戻った。
「おいっ、俺はここだよ! ウサ公」
「カラス、何してるんだ。勝手に行っちゃ駄目じゃないか」
「これ見ろよ。ごちそーだよ。何度も呼んだのに、どんどんいっちまうんだからさ。先に食うのも何だか気が引けるから、お前が来るまで待ってたんだ。この獲物、白服の奴らに取られたらもったいないもんね」
カラスのいる通路側は電気が切れて、暗かったが一つの部屋だけが星の光が窓から入ってきて明るかった。カラスの近くにうつ伏せで倒れている者がいた。
「なんてこった!!」
ウサギは恐怖で全身の毛が逆立ち、長い両耳がぴたっと合わさった。
「食べていいか?」
カラスはにんまりとその人間(死肉?)を翼で指し示した。
「駄目に決まってるだろ!」
ウサギが言う。
「もしや、あの白服たちは、星の住民を次々におかしなところへ連れていって殺しているのではないのか? ハナオカ様も、この者のように殺されてしまうかもしれない。早く救出せねばっ!!」
「あのさぁ……食ってからじゃだめかぁ? 」
「ダメッ!!」
「だめだよなぁ……」
物欲しそうにしているカラスを無理やり引っ張ってそこを離れた。
さっきの通路へ戻ったつもりだったが、違うみたいだ。行っても行っても同じところへ戻っているようだ。
「おかしいな……、ここはさっきも通ったはずなんだが(カラス)」
「なんか同じところをぐるぐるしているみたい(ウサギ)」
「うん、たしかに同じところだ。俺の羽がちゃんとここに置いてある。さっき目印になるよう、通った道に羽を置いて歩いてきたんだ(カラス)」
「どうしよう(ウサギ)」
「オレタチ、完全に道に迷ったな……(カラス)」
「たすけてぇー! ハナオカさまぁぁぁー!!!」
ウサギの悲鳴がハナオカに届くはずもなく……。
***
ヂリリリン!
目覚まし時計の激しい音でハナオカは跳ね起きた。外は真っ暗のまんまだ。
ここはどこだ……?
一瞬、見当識障害を起こしたが、直ぐに記憶を取り戻した。
そうだ。ここは宇宙で、白服の船の中だ。
ウサギとカラスは?!
ハナオカは、ススムがよだれをたらしながら寝ている隙に、ここを抜け出さなければと思った。部屋のドアをゆっくり閉めて、ハナオカは通路を歩き出した。
「ウサギ? カラス? どこにいる? 返事をしろ」
声を潜めて各通路に呼び掛けた。
「うん?」
ハナオカはある通路に来たとき、黒い羽が落ちているのを見つけた。
「カラスの羽だ。おい、近くにいるのか、カラス!」
グーーッ、ガァーーッ。
一つの扉の中から大きな音が聞こえる。恐る恐る開けてみると、ウサギが丸い筒の中で大きないびきをかいて寝ていた。筒の上にいるカラスは、背中の羽に顔を埋めてスヤスヤと寝ていた。
「おい! お前たちよ! ここにいたのか!」
カラスは目をパッチンと開いて目の前に立つ者を見たつもりが、鳥目で見えていなかった。
「ヒェーッ!!」
カラスは奇声を発して飛び上がった。
「ンガーーッ!! はっ、何事だ!」
へそ天して寝ていたウサギもカラスの奇声に目を覚まし、互いに抱きついた。
「もーおしまいだー!!」
「ウサギ、カラス、俺だよ。ハナオカだ!」
「ハ……ハナオカさまぁ?」
「二人ともこんなとこで何してるんだ。早くここから出るんだよ」
「ヘイッ!!」
三人は廊下の角から誰もいないことを確認しながら、進んでいった。そして操縦桿のあるメインコントロール室に入った。
「さて、俺たちは昨日、ここの近くの通路に入ってきて、この部屋に白服がいるのを見たんだ。角度はこっちだから……」
ハナオカは白服を見たときの映像を思い出しながら歩くが、コントロール室には、記憶の中で見た通路は見つからない。壁が四方を取り囲んでいるし、操縦席が目の前に見える正面の通路と右側の通路のみである。
たしか、昨日は3つの通路があったはずなのに……。
消えた……?
「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」
部屋に入ってきた船長がハナオカの背後から声をかけた。
「ヒェーッ!(ウサギ&カラス)」
「はい……」
「ん? その動物は何かね? ……ウサギとカラスじゃないか。どこから入ったんだろう」
「いえ、これは俺の家畜です」
「ハハハハ、ペットだね。一緒に連れてきたのかい?」
船長は顎髭をなでて笑った。
「ウサギは分かるが、まさかカラスを飼っているとはねぇ」
そう言われると、怖がっていたウサギは嘘のように得意気な顔をしてカラスを見た。
「おはようございます!」
次々と乗組員が集まってきた。
「へぇー、九官鳥飼ってるの?」
「カラスです」
「見せて! あら? かわいいウサちゃんもいるぅ!」
「あの、……それ、気性が激しいので触らない方がいいですよ」
「そう? わたし、ウサちゃん飼ってたことあるから大丈夫ですよ」
馴れた手付きでユリコがウサギを抱き上げた。
「もう……ダ…メだ……」
ウサギは気を失った。
「どうしたの? 気持ちよくて眠っちゃったのかな?」
「ハナオカ君、ペットのことは君に任せる。ただしペット君たちは任務中、部屋にいるように願いたいが、良いかね?」
「はい」
「さっ、次の目標地点はここから3億光年離れた402q-ksTp星だ。他の奴らに先を越されてないといいがね。タナカ君、目標地点への軌道を合わせてくれ」
「了解!」
ハジメが馴れた手つきで透明な浮かぶ板を操作している。ハナオカが横から覗いた。
「ここが今いる場所だ。そして次の行き先はここ。座標っていうのは今いるところがどこかを示していて、X、Y、Zで表される。この機械がカーナビ代わりだから、これが狂ったらもう、俺たちは決して地球に帰れない。宇宙に永遠に漂流してしまうさ。
ほとんどのシャトルはAI自動検索システムを導入している。何千回のシミュレーションで学習させているし、新たな情報は自分で収集して蓄積させていくことができるから、軌道を誤ることは無いといっていい。
さて、ルート検索してみよう。……んーと、ほら、ここ。黄色い線で表されているの分かる? これは高速ワープ。高速道路みたいなものだよ。たくさんの星を巡るのに宇宙の高速道路を利用しないと、目標の星につくまでに俺たちはとっくに死んでしまうからね。
さて、3億光年離れた星に行くのに、どのくらいの時間が必要か分かるか?」
「分からない」
「さっ、勉強の時間だよ。
光は1秒間に約30万km進む。
つまり、秒速30万kmを1年に進む距離とすると、30万km/s × 60s × 60s× 24H × 365日 = 約9兆4608億kmとなる。
つまり、3億光年というと、これに3倍すればいいんだから、28兆3824億km離れた所に行くには3年かかるということだ。
もうえらいことになってしまうだろ?
だから宇宙高速道路を通って時間を縮小させれば、死ぬ前にたどり着くことが出きるということなのさ」
「へぇー」
「宇宙の星を見上げるとき、昔の星を見ているって知ってるか?
例えば太陽から地球まで距離はおよそ1億4960万kmある。光の早さは約30万km/sだから約0.00001581光年を分に直すと、8分19秒。
つまり地球で見ている太陽からの光は、約8分前に放出された光ということになるんだ。
星が夜空で煌めくのを地球上で見る時、その星がどのくらい遠くにある星かによって、どのくらい前に放たれた光なのか分かる。
宇宙を観測することは、遠い過去に遡ることことになるんだ」
「授業はそこまでにしてくれ。ハジメ君の授業はまさに途方もない時間が必要だからね」
「すみません。リュウジン君が興味しんしんで聞いてくれるもんだから、ついつい長話になってしまいました」
ハジメは頭をカキカキして、また透明ボードをまた忙しく操作し出した。
「さっ、君たちのペット君たちをしっかり部屋にいれておいてくれ。高速ワープを通ると、機体が激しく揺れるからね」
ウサギとカラスは「ハナオカ様、早く逃げ道を見つけ出さないと!」と言うが、ハナオカは思う。
とりあえず今は彼らとともに、このよく分からない任務についていこうと。
そうすれば、"あの者たち"のことも、消えた王子の行方もそして次第に興味を抱き始めた事柄、つまり華岡先生という彼らの恩師のことも分かるかもしれない。
「ウサギ、カラス。よく聞け。彼らのいう通りにしよう。あの森へと帰る道は断たれてしまった」
「えー! もうふるさとへ帰れないんですか?(カラス)」
「いや、きっと帰れる。必ず俺がみんなをもとの場所へ帰らせてあげる。とにかく、彼らに同行しよう」
「ほら、ハナオカ様がそう言っているんだから信じようよ、カラスぅ~(ウサギ)」
「それより、ほらっ、あの事はまだ言ってないが、良いのか?(カラス)」
「ん? 何だっけ?(ウサギ)」
「し・に・く!!(カラス)」
「何だその、しにく、とは?」
明らかに動揺している二羽にハナオカは顔を近づけた。
第14回目のおめでたきヒトコト担当者は…、パンパカパ~ン! 本田由梨子さんです!
【ユリコのヒトコト】
ホンダユリコと申します。よろしくお願いします。わたしが大切にしている名言は、『もし道に迷ったら、一番良いのは猫についていくことだ。猫は道に迷わない』(チャールズ・M・シュルツ)です。猫の生き様をよく観察してみると、人生で学ぶべきことが見つかる気がします。猫が嫌いな人も猫の魅力を知ると、沼落ちしますね。絶対に!
(猫愛が深すぎるユリコさんでした。作者記)