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13. 白服たちの思惑

 ススムの部屋は船の一番後ろの方にある。


「このシャトルの一番いいところはね、船内が無重力にはならないところなんだ。普通ならあり得ないことだけど。


 大抵は、船内をふわふわと浮いて移動するんだけど、この船は地球と同程度の重力を船内で発生させることができるんだ。だからこうして、廊下をちゃんとまっすぐ歩けるんだよ。腰ベルトを船のどこかに繋ぎ忘れて寝ちゃっても、目が覚めるとあらぬところにいるってことがなくなったから助かったしね。それに、このボタン押してみ」


 壁の所に丸いボタンがあった。押すとシュッと白い壁が一瞬のうちに真っ暗になった。と思ったら窓から宇宙が見えた。


「わぁ……」

 

 どこまでも続く暗闇と星々のきらめき。


「すごいだろ? シャトルの壁に特殊技術が施されていて、外の様子がボタン一つで切り替わるんだ。


 大富豪がシャトルの作製を依頼したけど納品の段階で突然いなくなっちゃったんだってさ。不思議な話だよね。しかも大富豪のエージェントがうちの会社のCEOと知り合いで、特別に安くシャトルを売ってくれたんだって。うちの会社、赤字続きだからさぁ、安いシャトルしか持ってないの。それも結構年季の入ったやつばっか。こんな性能の良いシャトルが手に入ったなんて、なんだか裏でヤバイことになってるんじゃないかって、俺は怪しんでいるんだけどね。さっきの君の話だけど、あの話、本当に信じてるの?」


「あの話とは?」


「この星に何者かがやって来て住人を連れていったとかいう」


「はい、断言は出来ませんが、この星も侵略されてしまったのかもしれないと俺は思います」


「そっか。いやぁ、俺もSF好きでね、小さい頃漫画にかじりついて読んだよ。それでさ、実は俺もその説はあるかもって思うことがあるんだ。


 地球の至るところで、未確認飛行物体が確認されているから、本気で捜査する機関だって出来ているんだ。だからエイリアンの存在は、あり得るし、人間の知らないところで何かヤバいことが起きてるって言う可能性だってあるかも。


 だけど、みんなには秘密だよ。分かるだろ? いい年の宇宙飛行士が宇宙人とか侵略とか言ってたら、こいつ、ついに頭やられたなって思うだろ? だから、俺と君の秘密な?」


「分かりました」


「よし。SFが好きな君なら、俺たちがどういう風に仕事してるか知りたいだろう?」


「はい、知りたいです」


 何か有益な情報を聞き出せるかもしれない。


「俺らはCEOの命令でいくつかの星を巡って、その星の年代測定、地質・大気の成分構成、生命体の存在有無とかを調べている。そして地球にどのくらい類似しているかに注目してみてる。


 "第二の地球"って聞いたことあるか?」


「ありません」


「地球は今や存亡の危機に瀕している。人間による長年の負の積み重ねによる報いが返ってきているんだ。


 地球は汚染され続けてきた。気候変動、食糧危機、健康被害、海面上昇、動植物の絶滅……と、問題はもはや解決できないほどにまでなってしまった。


 それで昨年、新しく創設された国際機関、"民族宇宙移住計画推進連合"が主導で進めているのは、"第二の地球計画"だ。地球に住めなくなった場合に備えて、あらかじめ人類が住めそうな惑星を探しているんだ」


「"第二の地球計画"……? それで見つかったのですか? 住める星は」


「いや、まださ。けど、きっと僕らが見つけるさ。


 実はその国際機関ができたお陰で、この国の宇宙産業は向上してきた。ベンチャー企業がたくさんできて、ライバル会社が乱立するようになって、俺ら中小企業は結構大変なんだけどね。


 ただ、国は他の国に先取りされたくないから、宇宙飛行士をもっと増やす方向へ舵を切った。


 今までは宇宙飛行士になるために、身体検査、知能検査、運動能力検査、精神的耐性検査とかを受けて合格しないとなれないし、その後の訓練も大変で、一人前に宇宙に行くのはごくわずかだったんだけど、そのせいで、なり手不足で困った。そこで、ここ最近はハードルを下げて、ある程度できれば誰でもなれるようになったみたい。


 まっ、それで本当に大丈夫なのかなって不安に思うよ。宇宙飛行士ってそんなに簡単な仕事じゃないから、誰もがなれるようになって、でっかい事故とか起こらないか不安だね。


 それにさっきも言ったけど、宇宙と名のつく関連会社が増えたから、会社同士で競争が激しいんだ。だから会社同士でのトラブルも多いし、俺に言わせるとピンからキリの会社があって、ブラックなのも増えたから当てずっぽに就職すると大変なことになるよ。利益重視のブラックなんかは、クルーの安全なんか二の次、三の次なんだ。そりゃそうなるよね、第二の地球を見つけたら、ノーベル賞ものなんだから」


 白服以外にも星を巡る奴らがいるんだ。


「ということは、中には悪い奴もいるんですか?」


「悪い?


 そうだね。ルールを守らない、というかモラルがないグループはいるね。国際ルールは一応あるけど、この宇宙に当てはめると、いわば無法状態だからね。宇宙は広すぎるし、謎が多いからね。どのシャトルがどこで何をしているかなんて、誰にも分からないんだよ。国際機関は形じゃあ、取り締まっている(てい)だけど、大体は見て見ぬふりだね。もちろん、俺らはちゃんとルールにのっとってやってるよ」


「"あの者たち"を知っていますか?」


「何それ?」


「黒い服を着た謎の集団で、星を侵略する奴らです」


「ん? 黒い服? 聞いたことないな、そんなUMA(未確認生物)いたっけ?」


「黒い服の奴が野犬を小さな袋にいれて、川の中へ消えていったのを俺は見たんです。


 それで、森の中で……。森を歩いていたら……」


「歩いていたら?」


「歩いていたら……ええと……何を見たんだっけ……。


 思い出せない……。俺は森の中で確かなにかを見つけた?」


「夢を見ていたんじゃないのか? 宇宙に来た初日は悪い夢をよく見るからね」


 いや、夢じゃない……たしか……。


「とりあえず、もう寝よう。明日になればきっと思い出せるよ。窓は戻しておくか?」


 ハナオカは首を横にふる。


「そっか。このスイッチで切り替えができるからね。じゃ、お休み」


 真っ暗闇に(ひらめ)く小さな星たち。


 ハナオカはどうして自分がここにいるのか思い出せないでいた。


 自分は一体何がしたかったのか。


 華岡という者が言っていたという「ここで諦めてもいいが、それは本当に君が心から願っていることなのか?」という言葉が今のハナオカに勇気をくれた。とにかくその華岡という者に会わなければいけない。その者が大きな手懸かりをもつ気がしたからだ。


 ここで目が重くなり、意識が広い宇宙の中へ吸い込まれるようになくなっていった。


 ウサギとカラスのことなど忘れて……。

【ミニ豆知識】

地球の素晴らしいところは、液体の水が安定して存在できる点だ。それゆえ、『ハビタブル・ゾーン(生命居住可能領域)』と呼ばれる。実際に"第二の地球"を求めて、人類は宇宙へ旅立った。かつて水があったとされる痕跡が発見されたとされるが、地球のような、人類が居住できる惑星はいまだ見つかっていない。

*「Newton別冊 空間と時間編をこの一冊に! 大宇宙-完全版-」より

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