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1. ハナオカとフシギな石

 多種多様な生命の溢れるこの類い稀な星に生まれたことに感謝と畏敬の念を表そう。


 そして、"Ancestors"(先祖)から"descendants"(子孫)に受け継がれてきた命という贈り物にも。


 懸命に生きてこその命


 原石はそのままでも十分美しい。しかし研磨されカットされ、あらゆる工程を経た石は、さらに輝きと美しさを増し、宝石としての価値をもつ。歴代の王たちの指にはめられ、高貴な者たちの首飾りにもなってきた石たち。


 これはハナオカという少年と彼の家に伝わる不思議な石の物語である……


 美しき青い惑星に心一杯の賛辞を込めて

 ハナオカは、王の密命を受けて一人、ヲヨラ・ケンチウム村の山奥を歩いていた。月が雲の間に隠れ、鬱蒼(うっそう)(しげ)る木々から白い(もや)が立ち上ぼり、辺り一帯を覆っていた。視界が悪いだけでなく、空気が薄いことは、より一層ハナオカの前途を暗く、陰鬱(いんうつ)なものにした。数日間降り続いた豪雨のせいで地面はぬかるみ、大きくて深い泥沼が幾つもできていた。大木の根が土から飛び出し、うねりにうねって、ハナオカの足を取って幾度もけつまずかせた。彼の着物はぐっしょりと濡れていた。数ヶ月、雨水だけを口にして歩き続けていたので、体力はもう限界に達していた。


 今夜こそ、何かを食わなくては死ぬぞ。


 瞳孔が開ききった目は、食物を必死に追い求めていた。もし、ケモノが通りかかった幸運に巡り会えたなら、必ず剣で仕留めてしまうだろう。けれども、ケモノ一匹といえども、姿がないのである。


 彼は元々この国の者ではない。突然に何者かによって、この国に連れてこられたのだ。それは彼が剣の名手であったというだけではなかった。常日頃から大事に首からさげている翡翠(ひすい)のせいだった。長年国王はこの石を探し求めていた。大勢の人を()って、国中の至るところを探し回らせたが一向に見つかる気配はなかった。どんなに強く優秀な臣下をもってしても、石を見つけることはできなかった。


 周辺の国々の動向に注意を向けていた王の側近、タナカ・ミルカスは、もはや国の力だけでは石を見つけることは不可能だと考え、住民の手を借りることを王に進言した。石を見つけた者には、多額の賞金を与えるというものだ。隣国にも使いを出してこのお触れを広めた。


 お触れを出してから、三百年が経過していた。国王は何代も変わり、石のことはすっかり忘れ去られていた。現の王ストケラオ・スズキは、息を切らして王の部屋に入ってきた(しもべ)から遥か昔に出されたお触れを思い出すことになった。


「王様! 大変です! (やから)が勝手に入ってきて!」


「早く止めよ! なぜ止めないんだ!」


「その者は昔のお触れがどうのこうのと言っていて、門衛がとどめたのですが、騒ぎ続けていまして、どうにも手のつけようがないのです」


「昔のお触れ……」


 現の王ストケラオ・スズキは、大昔にこの国の王が必死になって探し、ついには見つからなかった緑の石のことを思い出した。彼は祖父から子どもの頃に石の秘密の話を聞いたことがあった。翡翠は、この国に伝わる王家の証である特別な石だった。そしてその小さな石には恐るべき力が宿るというのである。王は「その者を中へ」と命令した。僕はあっけらかんとした顔をしながらも、王の命令に従い男を中へ入れるよう宮殿の外に待機した手下へ指示した。宮殿に入ってきた男は比較的若い男だった。


 王は「おまえは何者だ」と尋ねた。


 男は言った。


「おらはこの国の貧しい住人でございます。ケモノを捕らえて市場で売って生活している者でございます。


 おらはこの目で見たんです。


 あの石を。


 そいつを持っていた奴を捕まえて(おり)の中に閉じ込めてあります。石の力をおらは知っております。曾祖父(そうそふ)がおらにいつも言っていました。


 輝く翡翠は王家の印で、所有する者を守ると。


 曾祖父の話なんて年寄りの戯言(たわごと)だと、家族は全く信じなかったのですが……。遥か昔に出されたお触れによれば、この石を探し当てた者には金600キロ、銀300キロ、銅100キロ、3つの村の所有権を授けるというものでした。おらは偶然、奴が首から提げている石に気がついたんです。貧しい子ども()がどうしてあんなに高価な石を持ってるのかと不思議に思いました。『おい、お前、その石を見せてみろ』と言うと逃げようとしました。だからおらは『これは怪しい、どこからか盗んできたに違いない』と思いました」


 男は王の目をみてゆっくり(まばた)きした。自信の表れが瞬きに表れるのはこの男の癖である。

 

 王は言った。


「うむ。(おきて)のことはもちろん知っている。お前の言うように、その石が本物であったならば、必ず褒美はやる。しかしこの目でその石を見るまでは駄目だ。今から家臣を派遣する。案内せよ」


「ははっ」


 男は慇懃(いんぎん)にお辞儀をして、家臣を引き連れ自分の家まで案内した。男にはあの石が本物であるという根拠のない自信があった。


 男の言うとおり、住んでいるという家はひどく粗末な家だった。鬱蒼と繁る木々に囲まれ、不気味な雰囲気が漂っている。家の裏側に置かれた物々しい鉄格子の檻の中に、一人の少年が両足を抱えて静かにうずくまっていた。


「こやつです」


 男は得意気に捕らえた獲物を指差した。これまでで一番の獲物である。少年は怯えているものの、長く留め置かれているせいか、疲れきった顔をしていた。


「こやつが翡翠を持っております。奪い取ろうとしても決して離さないのです」


 太った家臣が進み出て、少年の前に立ちはだかった。


「お前! 名は何という! 答えよ!」


「……」


 少年は黙り込んだままだ。


「おい! 答えよ! 王命であるぞ!」


 少年はぐったりしたまま、家臣に(うつ)ろな目を向けただけであった。別の細身の家臣が太った家臣に代わって檻の前にかがみ、優しい声で言った。


「もうよいではないか。この者はかなり弱っている。さあ! 少年よ。今お前が持っているものを見せるのだ。翡翠を」


 少年はうつむいたまま蚊のなくような声で言った。


「俺は何も持ってないよ」


「嘘つけ! こやつがあの光る石を首から提げて木の上にいるのをおらはこの目で見たんだ!」


 男は唾をとばなしながら怒鳴った。家臣はそれを遮って少年に優しく問うた。


「少年よ、是非ともそれを見せてはくれないだろうか。奪い取るつもりはない。ただ一度だけ見せてくれさえすれば、ここから出してやる。もちろん、石も返す」


 少年は不安一杯の目で家臣の目を覗き込んで言った。


「いやだ……、これはおっかさんからもらった大事な形見なんだ。誰にも見せてやるものか」


 優しかった家臣の表情がみるみる険しくなった。


「こいつを王宮殿へ連れていけ! 拷問だ! そこにいる男も連れていけ!」


「おらは何も悪くない! こやつだけでいいだろ! おらは関係ない!」


 家臣たちは少年と男を縛り縄にして王宮殿へ引いていった。二人は別々の牢獄に入れられた。

作者が登場人物にインタビューを行い、毎回の投稿の「後書き」に彼らのヒトコトや豆知識などを載せようと思っております。お楽しみ下されば嬉しいです……。本日は、作者の一言でご勘弁を。

【作者のヒトコト】

皆様は暑いのと寒いのではどちらがお好きでしょうか? 作者は暑いのは苦手です。去年の夏も異常気象で、ヒーヒー言いました。今年も大変な暑さになるでしょうか? 恐ろしい限りです…。もうそろそろ、夏を乗り切るための準備を始めなくてはと思っている次第です。(もう遅い?)以上!

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