2 震える華奢な肩を抱いて
早速、ブクマと★をいただいたので少し頑張ってみました。(本日二話更新)
「……んん……?」
ジュリアナが目覚めると、そこは知らない部屋だった。
柔らかなベッドに包まれ、パチパチパチと暖炉の火の弾ける音が聞こえる。
体をそっと起こした時、ガチャリと部屋の扉が開いた。
「あ、起きた?」
「ここは……?」
「ノーザンハイツ領の、私の城。イエティに襲われて気を失っていたから、連れてきたの」
そう言うと、ジュリアナはわずかに目を見開き、下唇をキュッと噛み締めた。
揺れる瞳が徐々に滲み、ポタリと涙が落ちる。
……無理もない。
あんな場所に身一つでいるなど、自殺目的以外にないのだから。
叶わずに助けられたことが分かった今、この後のことを考えて、途方に暮れてしまうのは仕方のないことだった。
「……助けていただいて、ありがとうございます。私はジュリアナ……そう、もうただの、ジュリ……」
「それ以上は、言わなくて良いよ」
震える声で、自分に言い聞かせるように言葉を紡ごうとするジュリアナを抱きしめた。
「私はアイスラ。大丈夫。ここには、あなたを害する人はいない」
静かに、落ち着かせるようにそう言えば、ジュリアナは俯いて体を小刻みに揺らす。
そして、堰を切ったように嗚咽を漏らしながら泣き出した。
泣きじゃくる彼女の頭を優しく何度も撫でる。
抱き寄せた肩は、容易に壊れてしまいそうなほどに細かった。
確か、あの事件の時からひと月近く経っていたか。
その間、ろくに食事を取れていなかったのだと容易に想像できる。
徐々にのしかかる体重に、ベッドも互いの衣服も涙で濡れていく。
しかし、アイスラは構わずに、彼女の全てを受け止めた。
……どれくらい経ったろうか。
ジュリアナの吐息も次第に落ち着きを取り戻し、代わりに、暖炉でパチパチと弾ける音に意識が向かいはじめる。
と、その時、薪が燃え尽きたのか中央で折れた。
ゴンッ! と低く響いた音に、ジュリアナの肩がビクリと動く。
おずおずと顔を上げたジュリアナの目は腫れ、鼻や頬は赤く色付いていた。
「落ち着いた?」
「……はい。お手数をおかけしました……」
我に返ったのか、気恥ずかしそうに視線を彷徨わせている。
「いいよ。あなたにはきっと、誰かの腕の中で泣く時間が必要だっただろうから。ところで、食事は取れそう?」
時間が経って少し冷めてしまっただろうけど、スープを持ってきていたのだ。
私の視線につられてスープの存在を確認したジュリアナのお腹が、小さく鳴る。
「すみません……いただきます」
「謝ることはないよ。これは、あなたのために持ってきたものだから」
そう言って、腰かけていたベッドから立ち上がり、スープをジュリアナの元に運んだ。
小声で「美味しい……」と呟きながら、噛み締めるようにして食べる様子を眺める。
……良かった。特に問題なさそうだ。
今回のことは、彼女に深く大きな傷を付けたのだろう。
こんな、誰とも知らない人間相手に簡単に心を許すなんて……。
ジュリアナには、少しでも元気になってもらわなければ困る。
だって、彼女には色々と聞きたいことがあるのだから。