プロローグ
「ジュリアナ! お前との婚約を破棄する!」
貴族学園の卒業を祝う舞踏会で、聖女と共に現れたヘクター王子は、階段の下で一人で待ち受けていた女性を見るなり大声でそう叫んだ。
賑やかだったホールが、一瞬で静まり返る。
大衆の面前で婚約破棄を宣言された公爵令嬢のジュリアナは、震える声で言った。
「何故……でしょうか」
「何故だと!? そんなこと、お前が一番よく分かっているだろう! 聖女であるバーバラにした非道ないじめの数々……忘れたとは言わせんぞ!」
ヘクター王子にエスコートされ、今は後ろに守られるように隠れるバーバラは、王子の背後から階下に向かって怯えたような目線を落としている。
さらに、二人の方に王子の側近たちが集まり、ジュリアナに鋭い視線を送ってきた。
「……ッ! いじめだなんて……そんなこと、私はしておりません……!」
「ええい、言い訳は聞き飽きた! お前の悪辣な行いについては証言も多くある! もはや言い逃れはできんぞ!」
「そんな……」
何とか誤解を解こうとするも、王子は全く聞く耳を持たない。
ふと見渡せば、周囲はジュリアナの方を見ながら、顔を歪めてコソコソと言葉を発しはじめていた。
その話し声は、側近たちが続けて語るジュリアナへの非難の声につられていくように、だんだんと隠しようもないほどに大きく、醜悪さを帯びていく。
「王家に繋がる血筋の面汚しめ! お前の顔など、もう二度と見たくない! お前は国外追放だ! 今すぐこの国から出ていけ!」
王子の追放宣言と共に、ジュリアナを取り囲んでいた声が弾けた。
堪らず後ろを振り返り、逃げるように、追い立てられるようにその場を後にする。
ジュリアナがいなくなったホールは、かつてないほどの熱気を帯びていた。
その場にいた誰もが、この前代未聞の事態に酔いしれ、ジュリアナの振る舞いがいかに下劣だったか楽しげに語り合う。
そして、この大事件は瞬く間に国内全域に広がり、さらに大きな事件を引き起こすのだった。