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光る天使

            ♡




「ヴァイオレット!!」


「お父さま!お母さま!」


 両親が城に駆けつけてくれた。ヴァイオレットはすっかりやつれてしまった父母と抱き合った。何度も何度もケイオスにやったことを詫びられた。同席した国王夫妻も彼女に謝罪した。


「本当に申し訳なかった。儂の判断が間違っていた」


 ヴァイオレットは涙を浮かべて首を振った。


「いいえ。おじさま。私がもっと貴族の弱みを掴みまくってケイオス宮廷を牛耳っていれば…」


「儂、そんなこと言ったか?」


 ついでに王妃殿下にも謝る。


「おばさま。ごめんなさい。私のセクシーな魅力で王太子殿下を篭絡できていれば…」


「できないと思うわ…」


 お2人とも泣き笑いしながらヴァイオレットを抱きしめてくれた。家族は皆、彼女の帰還を喜んでくれた。帰ってきて本当に良かった。ずーっと光っていなくてはいけないのが、少し面倒だったが。




            ◆




 視察から帰った後、マークには辛い事実が明らかになった。ヴァイオレット姫殺害事件の黒幕は実母だったのだ。実家の一族から息子の妃を出そうと、外国から来た姫を手っ取り早く排除した。


 後宮の者たちは誰一人、姫を助けようとしなかった。それどころか姫の嫁入り道具は売り飛ばされて何ひとつ返還できない。


 あの金髪の妊婦は王妃宮の下女だった。子の父親がマークである可能性は1パーセントも無いが、子が生まれるまでは法により殺せない。


 王の下した処分は王妃の軟禁のみ。王太子は報告書を机に叩きつけた。


(こんなもの、オダキユに見せられるか!)


 一体どうしたら。マークはヴァイオレット姫のメッセージを取り出した。塔の管理人の部屋に1枚だけ残されていたものだ。他は全てハルクたちが持ち帰った。ソファに寝転がって眺める。


『パンをください』


 美しい筆跡だ。待て。最近、どこかで見なかったか。マークはガバッと起き上がった。下町再開発への嘆願書だ。




            ◆




 あの嘆願書を書いたのは誰だ。マークは急ぎ調べさせた。


「代書屋のヴィーという女です。半年前から下町の食堂に下宿してます」


 部下の報告に王太子は絶句した。あの娘の筆跡が、なぜ死んだ王女と一致するのだ。実は生きていた?いや無理だ。独房の鍵は外からしか開かない。死体もあった。第一、ヴィーの瞳は青い。姫は紫だったはずだ。


「オダキユ出身だそうですが、入国の記録はありません。不法移民と思われます」

 

 逮捕しますかと訊かれ、慌てて却下する。そもそも下町の半分は戸籍も無い貧民か移民だという。マークは居ても立っても居られず、下町に赴いた。




            ◆




「ヴィーちゃんなら故郷に帰りましたよ」


 下宿先の女将はマークに言った。彼女は部屋も引き払っていた。オダキユへの駅馬車で今朝、発ったらしい。


「行先は訊いてないか?」


「ご両親が大きな湖のほとりの街に住んでるって…何て名前だったかねぇ?」


(アシノ湖だ。ヴァイオレット姫の父親はアシノ大公だ)


 マークは半ば確信した。ヴィーとヴァイオレット姫は同一人物だ。




            ■




『   告

 〇月×日。王城にケイオスで餓死したヴァイオレット姫の怨霊が出た。ハルク王子はじめ神官達が大規模な慰霊祭を執り行い、これを鎮めた。

 次に光る天使が現れた。天使は浄化された姫の御霊で、7日間を地上で過ごし、天へと還る。以後はオダキユを守護する女神となるであろう。皆々これを寿ぐべし』


 オダキユ国内で触書が貼られた。姫の御霊が天へと昇る祭りが行われるらしい。国民は喜んだ。非業の死を遂げた王族が神となったのだ。実に珍しくめでたいことであった。




            ♡




「昇天祭って。何をどーすりゃ良いのよ」


 光る天使は眼鏡に訊いた。ヴァイオレットは今、天使として王城の貴賓室に泊まっている。この謎の設定を考えたのは眼鏡の側近ミロード卿だ。昇天した後はアシノへ帰って良いらしい。


「光りながら空高く飛び、良い感じのところで消えてください」


 眼鏡は簡単に言うが、ナナコの魔法で飛んだことはない。できるかどうかも分からない。


(ナナコ。私を空に飛ばすことってできる?)


(うーん。分かんない。試してみる?)


 心の中で念じると精霊ナナコが答えてくれた。人前ではこうやって会話している。


「試してみるわ。広い場所を貸して」


 昇天祭まであと5日。ヴァイオレットは飛ぶ練習をすることにした。




            ♡



 結論を言うと飛べた。ナナコは本当にすごい。思うだけで早さも方向も自由自在だ。王家所有の森の上を、ヴァイオレットはトンビの高さまで上昇した。ケイオスとの国境を遥かに見晴るかす。下で眼鏡が旗を振って合図をしている。降りてこいという意味だ。彼女は滑らかに着地した。


「何よ」


「翼も出せませんか。そのままだと光る不気味な物体です」


 本当に失礼な男だ。注文も多い。その日は奴が納得するまで何度もリハーサルをする羽目になった。


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